温石(おんじゃく)/焼津

いまホットな鮮魚店と言えば「サスエ前田魚店」。焼津の田舎(失礼)にある魚屋さんなのですが、その目利きと鮮魚の取り扱いにつき、トップティアな飲食店から絶大なる信頼を得、テレビの「情熱大陸」でも取り上げられました。
その鮮魚店の近所にあり、魚介の仕入れもサスエを活用しているお店がココ「温石(おんじゃく)」、食べログ4.36(2021年1月)でブロンズメダルを獲得。広島の「馳走 啐啄一十(ちそう そったくいと)」でムッシュ平野から当店を推薦され、すぐに予約を入れたのです。

焼津駅からは歩いて20分ほど。ストリートのスピーカーから音楽が流れている系の商店街をいくつか抜けるのがノスタルジック。タクシーだと10分くらいかな。茶室があり、お茶事などにも力を入れた本格的な茶懐石のお店です。
店主は2代目の杉山乃互シェフ。目白の「和幸」で腕を磨き(トンカツじゃないよ)、故郷に戻って改装。現在は個室にカウンター席が10席ほどの、ちょうど良いサイズ感です。奥の厨房にアシスタントがいるのか、かなりの皿数をテンポ良く提供していたのが印象的でした。あと肌がキレイ。
お酒は大将に全てお任せ。せっかくなので地酒で統一。静岡県は山海の珍味を楽しむことができる上に米も日本酒もエンジョイできる懐の深い県なのです。
「まずは胃袋を温めて下さい」と、おでん風。優しく炊かれた大根がしみじみ旨い。見どころはアオリイカのしんじょう。こんなに旨いおでんがあるかと胸倉を掴みたくなるほどの好スタートです。
お凌ぎにサバずし。肉厚でムシャムシャと食べ応えのあるカットです。お魚そのものの味わいもグッド。
お造りはヒラメにアオリイカ。わおー、このお造りはべらぼうに旨いっすねえ。淡白ながら旨味のあるヒラメ。粘着質で官能的な舌ざわりながら透き通るような味覚のイカ。品数が多くなりがちな日本料理の中でもかなり記憶に残った一皿でした。
お椀はホウボウ。お魚の良さを引き出す程よい調味。他方、シイタケの風味にはパンチがありました。
春菊のごまあえ。アラミニュットで作らなければならない料理の合間に、こういった小皿がタイミングよく挟まれるのが良いですね。客を飽きさせない。もちろん美味しい。
特大のアカザエビを軽く炙ってタルタル風に。味噌と卵を用いたソースがネットリとした海老の身にシンデレラフィットします。日本酒が進む。
レンコンはシャッキリざっくり魅力的な食感。表面のおかきの衣も歯ざわりに変化を与え、香りも良くする。
キンメダイもその場で炭火で焼き上げます。ウロコを立てて表面はバリっと、身はレアめの仕上げで甘味と旨味がグっと揚がる。参りましたの焼き物でした。
新玉ねぎは丸ごとホイルで熱を入れ、まさにそのまま頂きます。滋味あふれる味わいで、畢竟、料理とは素材なのではないかと疑念が生じる瞬間です。
大アナゴの唐揚げ。天ぷら屋で楽しむそれとはまた違ったニュアンスであり、羽毛のように口当たりは軽く、それでいて筋肉を感じる歯ごたえ。アナゴの可能性を切り開いた一皿でした。
白魚の卵とじ。上質な白魚を卵で優しく頂きます。白眉は敷かれた海老芋。ホックリとした食感に大地を感じる大らかな味わい。腹にもしっかり溜まるのが良い。
お新香も美味しいですねえ。先にちょっとつまむつもりが日本酒と共にナイスゴーしてしまい、ライスが到着した時点ではスッカリ空いてしまったほどの美味しさでした。
お食事は出汁で炊いたごはんにハマグリの餡かけ仕立て。ごはんだけでも美味しいのに、海のエキスたっぷりのハマグリが堪りません。
おかわりを所望すると、今度はカラスミごはんが出てきました。ごはんのお供にイカのネトネトしたやつ(何て言うんだっけ?)も頂き、これは炭水化物というよりも酒が進むツマミです。
第三弾は海苔と唐辛子味噌の雑炊風。磯の代わりにピリっと感じる唐辛子のアクセント。トータルでは結構な量を食べたはずなのに、サクっと完食できるスマートさです。
特大の紅ほっぺで口直し。すげえでけえなあ。ミカンみたいなサイズ感です。
お菓子は焦がしくるみ餅。サクサクとした食感に瑞々しいお餅の風味が心地よい。
ラストは高校時代から茶の道に入った店主自らお茶を点ててくれます。いいねえ、これが日本の醍醐味だ。

以上を食べ、まあまあ飲んでお会計はひとりあたり1.6万円。うひょー、何なんでしょうこの費用対効果の素晴らしさは。東京のアホな日本料理屋はもっと全然不味いくせに平気で倍の値段を請求してくるぞ。

コスパの良さはさておき、味そのものだけ見ても抜群。謙虚で愛想が良く客あしらいもお見事。これは良いお店を見つけました。今度はもっと予算を上げて(そういう仕組みがあるかは知らない)、金に糸目は付けずに彼のフルパワーを楽しみにお邪魔したいと思いました。

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