金沢屈指の観光スポット「近江町市場」すぐにある「レスピラシオン(respiracion)」。店名はスペイン語で「呼吸」という意味であり、スペインの名店で学んだシェフ3人が繰り広げるモダンスパニッシュです。
おー、かっちょええ内装やなあ。なんでも築140年の町家を改装したそうであり、内外装ともに和と洋、旧と新が見事に調和しています。巨大資本が投下されている気配。
先に述べた通りは梅達郎シェフ、八木恵介シェフ、北川悠介のトリプルセンター体制。コンセプトとしては京都の「LURRA°(ルーラ)」に似ていますが、BGMは無く、無駄口を叩かず生真面目に料理に集中している点で異なります。料理中の厨房はかなりシリアスな雰囲気ですが、食後は和やかにゲストに話しかけるなど、魅力的な職場に思えました。
飲み物の主力はペアリング。4杯5,000円、6杯7,000円、10杯10,000円と値段だけを見れば悪くないのですが、1杯1杯が驚くほど少なくストレスが溜まりました。これならボトルワインを1本注文すれば良かったなあ。
名刺にしてスペシャリテである甘海老。タルト生地には海老の殻が練り込まれており、それを土台としてとにかく海老海老海老な一口です。清々しいほどに海老であり、私のような極度の海老好きでなくとも納得の美味しさでしょう。
続いてカブ。3時間かけて火入れをしたそうで、カブというジャンルにおいてはトップクラスに位置する味わいですが、カブはカブであり、カブの味がしました。
黒いリゾットに能登牛。スペインではイカスミを用いて黒味を表現しますが、当店が用いるのはサザエのキモ。もうこれは聞いただけで美味しそうであり、実際に美味しい。他方、能登牛は表面的な脂が強く少し胸が焼けました。
先の能登牛と合わせて頂くのはガスパチョ。トマトのエキスにハーブをぶっ刺して風味を移し、オリーブオイルで味を調えます。これは清澄でクリアな味わい。家にボトルで常備したい爽やかさです。
自家製のパン。小麦のコクやバターのコッテリ感とは真逆の味わいであり、さっぱりと軽い、ソースと合わせて食べる前提の味わいです。
ピルピルには贅沢にもマハタを用いています。ピルピルとはバスク地方の伝統料理で、平たく言うと魚介のオリーブオイル煮です。熟成させた(?)柚子を削って風味を塗布するのが面白かった。グラニテの位置づけでしょうか、「アロスコンレチェ」すなわち米と牛乳の甘いお菓子が出てきました。味そのものは悪くないのですが、食中に食べるにはいかがなものでしょう。先日のソムリエ協会の講座か何かで田崎会長が「グラニテはそもそも消化を助ける強い酒であるべきだ。昨今の甘ったるいグラニテはけしからん」的なニュアンスで熱く語っていたのを思い出しました。お米は農口研究所のものを用いているそうですが、なんか裁判でモメてたところだから印象も良くない。
お魚はサワラ。このお料理は美味しいですねえ。白眉は春菊とニンニクのソース。鮮烈で深みのある味わいでありフランス料理的なテイストを感じました。
メインはイベリコ豚。え!これが豚肉!?と驚くほどの真っ赤な断面であり、豚特有の嫌な香りも無く鹿肉のような力強い味わいです。つけあわせのシイタケも文句なしの美味しさです。〆のお食事はパエリャ(?)でしょうか。旬の香箱ガニのプレゼンテーションが香箱映えするのですが、これはお取り分け前の写真用であり、
実際にはスプーン2杯あるかないかのポーションでした。すごく美味しいだけに惜しい。もっと量を、デザートはモンブラン。加賀野菜の五郎島金時を用いているそうで、しつこさのない上品な味わいで美味しい。トッピングのチョコレートは石川県を模しているのですが、ちょうどこのとき我々は「コロナ禍においてはどのようなアグリーセーターパーティーがニューノーマルと成り得るのか」について激論を交わしていたので、トナカイのツノに見えて仕方ありませんでした。
お茶請けが豪華。しっかりと手の込んだ4種が提供され、スペイン料理店においては世界トップクラスの小菓子のクオリティでしょう。ハーブティーで〆てごちそうさまでした。
お会計はひとりあたり2.1万円。料理の味は良いのですがポーションは小さく、ワインも悲しくなるほどの量しか楽しめないので、全体を通してみれば割高に感じました。また予約困難店に向けてのレールがコーディネートされている兆候が強く感じられ、支払金額のうち美食に係る本質的な部分はどれぐらいなんだろうと気になってしまいます。
とは言え料理人たちのセンスはとても良い。いっそのこと3人のシェフそれぞれが独立して、良い意味でもっと雑な料理をじゃんじゃん作った方が社会のためになるような気がしました。
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