御料理 まつ山/黒崎(北九州)

博多と小倉の間にある街、黒崎。はっきり言って大きなビジネスや観光名所らしいモノは何もないのですが、なぜかミシュラン1ツ星の和食店があります。エクステリアも立派でカッコイイ。食べログでは4.40(2020年12月)でブロンズメダルを獲得。
カウンター6席の静謐な空間。個室もありますがあまり使われていないようです。

千原ジュニア似の松山照三シェフはここ黒崎生まれ。トヨタ自動車大学校卒業後、トヨタにエンジニアとして入社。佐賀県でたこ焼き屋を開業したのちに日本料理の道に入るという異色の経歴です。色んな業界を経験したからか、ひょうげたような話しぶりの客あしらいが一風変わっており、ゲストの懐にスっと飛び込んで来る好漢です。
ウェルカムドリンクの八女茶で身体を温めます。水出し?氷出しした後に温めるというややこしい抽出方法であり、出汁のような風味を感じる興味深い液体でした。
お食事に合わせた日本酒ペアリングのコースが5千円であったのですが、まだ昼でそんなに飲むつもりもなかったので、アラカルトで細々とお願いしました。が、これが大失敗。酒のチョイスは悪くないのですが知らんうちにすげえ高くついていたので、ああ、これなら最初から日本酒ペアリングのコースにすれば良かったと後悔。普通にお酒が飲める方は日本酒ペアリングのコースとするのが無難でしょう。
八寸から始まります。サイコロ状のトンブリに海老芋のお団子、クワイのチップス、アカイカにナマコと酒のアテに最適。クワイのチップスが無限に食べれる。
お凌ぎは鯖寿司。かぶらで巻いたものと、表面に直接炭を押し付けて焼き目をつけたもの。後者の軽く焦げたジューシーな香りが風味を囃し立て、コッテリとした脂身が味蕾に迫り来る。
お椀はマグロ節で取りました。このあたり私は詳しくないのですが、カツオよりもよりパワフルな味わいに感じます。練りたて揚げたてのレンコンまんじゅうも文句なしの美味しさ。
この牡蠣が鮮烈な美味しさ。北海道で昆布をたっぷり食べた育った牡蠣だそうで、昆布で調味したかのような味覚です。それらの旨味をキャッチするホワイトソースの存在も見どころです。
小倉の北にある藍島(あいのしま)産のサワラ。業界では有名なブランドものだそうで、これがサワラかと唸らせる肉のような味わい。冒険的な厚さのカットも食べて楽しい。
「言いにくいんですが、この香箱ガニ、めちゃくちゃ高いですからね!意地で仕入れましたから!」と、言いにくいことを平気で言っている大将。私としては1週間前に三国港の「川㐂(かわき)」で嫌というほどズワイガニを食べてきたので、まさか北九州で逢着することとなり複雑な気分でした。が、とても美味しい。すごく美味しい。値打ちが充分にある。やはり食事とは素材だけでなく料理人のひと手間やプレゼンテーションがあってこその味わいなのかと得心しました。
備長炭でじっくりと火入れされた博多和牛のヒレ肉。先のサワラは肉のような魚でしたが、コチラは魚のような肉であり、食感や味わいが透徹しています。これはサクサクいくらでも食べれちゃうなあ。
ヒレ肉でコースは終了かと覚悟をしていたのですが、まだまだ料理が出てきます。炙った柑橘の器にカニの身とカブを敷き詰め、ウニを調味料のように起用しています。まさにカニの第2波であり、出し抜けの美味しさに頬が緩む。
お食事は濃密な卵黄にちりめん山椒、お漬物にメヒカリと、ゴハンよりも酒が進むラインナップです。
更には宮崎の希少ブランド「飛来幸地鶏」を用いた鳥鍋も。鶏肉の質感ならびにパワフルな味覚、野性味あふれる野菜とそのエキスが染み出たスープと、どれを取っても一級品の美味しさでした。
デザートも手が込んでいて、モチっとした食感の杏仁豆腐にチーズ、シャキシャキのリンゴに凝縮感のあるイチゴ。杏仁豆腐のありそうでない食感がクセになる。
お薄で〆てごちそうさまでした。

お会計はひとりあたり3.2万円ほど。先に述べた通りお酒の注文を工夫すれば3万円でお釣りがくるはずであり、東京で日本料理を食べることを考えると実にリーズナブルです。御料理の内容についても素材感を大切にし、何を食べたかがハッキリと記憶に残る饗宴。「天寿し」「照寿司(てるずし)」と合わせて北九州の旅程に是非とも組み込みたいお店。オススメです。

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