思食(オボシメシ)/赤坂

2020年6月という地獄のタイミングでオープンした「思食(オボシメシ)」。赤坂のど真ん中に強烈な圧のあるエクステリア。外観からして只者ではない感に溢れた焼肉屋です。お店を預かるのはムッシュ柳野友明。一時代を築いた阿佐ヶ谷「SATOブリアン」を長く支えた焼肉業界の有名人です。
おおー、エクステリアに勝るとも劣らない内装。こんなにゴージャスな焼肉屋は、いや、レストランとしてもは中々ないでしょう。高名な左官職人が手掛けた壁やテーブル、カッシーナの椅子など全てにおいて妥協かありません。3階のVIPルームではつい先日、ヒカル門りょう宮迫が撮影していったそうな。
今夜は常連にお連れ頂いたので、ドリンクは全て連れにお任せ。我々はボトル中心に組み立てましたが、コラヴァン的秘密兵器があるためグラス売りはもちろんペアリングも充実しているようです。
まずは「鮑粥」。済州島の郷土料理だそうで、韓国産の稚魚(?)を当店で育てて大きくするそうです。クニっとした歯ざわりに海の豊かさが詰まった味覚。旨味たっぷり。
おや、フォアグラとブリオッシュが出てきました。なんでも当店は焼肉だけでなく韓国料理のテイストを取り入れたフランス料理も出すとのこと。それらの料理を担当するのは帝国ホテル「レ セゾン」銀座「ロオジエ」で腕を振るい、パリでも活躍した青木誠シェフ。日本フランス料理界の重鎮が晩年を焼肉屋で過ごすとは、人生は長い。
さてお肉の時間。当店は特定のブランド牛を取り扱うというわけでなく、日本各地からその時に良いものを良いタイミングで仕入れているそうです。この日は「のざき牛」が中心。ええ肉や。
まずはタン。シャクっとした歯ざわりに透き通るような肉の味わい。塩なども用意されるのですが、そのままで充分に美味しい。
これはハラミだったっけな。タンに比べると肉々しいタッチであり赤ワインを呼ぶ味わいです。
コンソメのモトは牛・鶏そしてスッポン。スッポンのネトっとした風味が堪らないですねえ。牛のみのコンソメよりも濃度が増している印象です。
オマール海老はコチュジャン風味のソースで。プリっとした食感にジューシーな舌ざわり。ソースは確かにコチュジャン風味で面白いのですが、海老に対して保守的な私としてはもっと普通の味付けで良かった。
肉に戻ってシャトーブリアンとイチボ。ダーマペンで刺したかのように瑞々しい滑らかな肉質です。
なんと、ソースはペリグーで出てきました。牛の出汁にマディラ酒とトリュフを起用したソースであり、本当に焼肉屋でフランス料理を出しています。しかしながらそれらの工夫をも一掃し無力化する肉の迫力といったらない。ベタベタといやらしい脂は無く清々しさすら感じるお肉の味わい。
お口直しにサラダ。ジュレがたっぷりで彩りも豊かな今風な一品。個人的にはチョレギ的な雑なサラダも食べたかったかな。
出ましたカツサンド。こちらに関しては問答無用の美味しさです。パンの食感に肉そのものの味わい、濃密なソースと天下一品。このカツサンドを美味しくないという輩には懲役1年と6月を求刑する。
〆はすき焼き。仕様する部位はヒレとカルビ。あまりすき焼きとして起用しない部分であり興味が立ち上がる。焼き台で炙ってから割下に絡めるのも面白い。
ぐわー、これは美味しいですねえ。すき焼き界のプリマドンナとも言うべきゴージャスな味覚であり、もはや別の料理としてカテゴライズしたほうが良いかもしれません。肉の美味しさはさることながら、割下と卵黄の親和性も抜群。
ライスも絶品。「銀の朏(みかづき)」という謎ブランドの希少品。これがもう、ゴハンとして信じがたいほど美味しい。大粒で弾力があり、甘さだけでなく深みがある。豊かさが違う。すき焼きのお供とか関係なく白米単体としてバクバク食べてしまいました。こんなに美味しい白米は八尾「とんかつマンジェ」以来である。
フィニッシュは平壌冷麺。そのへんの軟弱な冷麺とは一線を画す味わいであり、麺そのものに複雑な味わいがありました。サッパリとした調味であり満腹ですがシャラっと胃袋におさまります。
食べきれなかったライスはオニギリとして持たせてくれました。これが単に握っただけでなく牛のしぐれ煮(?)を混ぜ込んだものであり、先の白米すき焼きとはまた違った美味しさです。

美味しかった。お邪魔する前は焼肉に韓国風のフレンチが加わるってどんなやねんと半信半疑でしたが、そういった表現に必ずしも当てはまるものではなく、ジャンル問わず高度な肉料理を提供する店と捉えた方が良さそうです。ただし、正直なところフレンチの要素は謎であり不要に感じました。この際、もっと肉に特化しても良いような気もします。肉好き仲間と共にどうぞ。

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それほど焼肉は好きなジャンルではないのですが、行く機会は多いです。有名店で、良かった順に並べてみました。
そうそう、肉と言えばこの本に焼肉担当として私のコメントが載っています。私はコンテンポラリーフレンチやイノベーティブあたりが得意分野のつもりだったのですが、まあ、自分の評価よりも他人の評価が全てです。お時間のある方はご覧になってみて下さい。