1日3組限定のオーベルジュ「薪の音」。以前に金沢の別館に滞在したことがあるのですが、今回は富山県は南砺市の総本山にお邪魔します。世界遺産の合掌造りとかあの辺のド田舎(失礼)にあります。
1日3組のみ宿泊可能なのですが、ダイニングもそれぞれ個室が与えられています。賢島の「ひらまつ」に似た仕様であり、このあたりコロナ向きかもしれません。
オーナーは江戸の終わりから7代続く農家であり、地元で公務員として奉公しつつ集落の町内会長を務めたりと地域に深く根を下ろした方であり、ある意味でフランスのオーベルジュを体現した施設でしょう。
アルコールは値付けがバラバラで、地ビールは結構たけえなあと思いつつ地元のワインはダバダバ注いでくれたり、謎にナパのワインがお値打ちであったりします。我々は泡から入り南砺の日本酒を楽しみつつメインにはケンゾーという全集中の呼吸で飲酒しました。そう、骨の髄から酔えるのがオーベルジュの美点である。
アミューズはニンジンのムース(?)に地元の生ハム。ニンジンがオムレツのような造形であり、味覚もそのように感じてくるから面白い。生ハムは絶品。塩気よりも旨味が強く、欧米のそれよりも整った味わいです。
こちらは日本酒に向いたおつまみセットでしょう。旨味の強い食材に燻製をかけ、度し難いほどに日本酒が近づいてくる。ノンアルコールでは厳しい1皿です。自家菜園の盛り合わせ。ゴボウのスープに始まり大地を感じる野菜の味覚が百花繚乱サムライガールズ。もう少し味を加えたければ金沢の支店でも頂いた玉ねぎソースで味変するよろし。
続いて太刀魚。地元のネギを挟んでやはり酒が進む味わい。美味しいのですが、もはやフランス料理ではなく創作和食の領域に踏み込んでいます。アマダイはバリっと焼いて頂きます。先の「フレンチでなく創作和食」の声が聞こえたのか、こちらはエビの風味がきいた濃いめのソースでした。
私のメインは牛肉のステーキ。クドくなくするりと味わう味覚です。美味しいのですが、付け合わせの野菜のほうが目立ったような気がしなくもない。連れのメインは牛テールの煮込み。途端にクラシックな料理であり、紫鈴にピッタリの味覚です。
ご飯とお味噌汁もつきます。ライスはショウガの風味が効いて美味しいのですが、フレンチなのか創作和食なのかどっちつかずな気がしないでもない。思い切ってゴハンセットは取っ払って、パンに力を入れるのも良いかもしれません。
デザートに入ります、スペシャリテの干し柿アイス。こちらで獲れた柿を干し柿にしてラム酒に漬けて頂きます。柿の味わいはもちろんのことキャラメル風味の大人の味わいも見逃せません。
また、私は一休のダイヤモンド会員様であるため、その特典としてデザートはいくらでも追加OKとのこと。さすがにひとりで全種類はアレなので、ふたりで仲良くシェアすることとします。敷地内で獲れたイチヂクのコンポート。イチヂクって自分の家で獲れるもんなんだ。
ブドウにヨーグルト風味のシャーベット(?)。ブドウと言えば液状化して飲むことが殆どですが、なるほどこうやって生のまま向き合うのも乙なものです。
〆は焼きたてのフォンダンショコラ。主軸はもちろん周囲に配備されたショコラも中々のクオリティです。
フルーツティーで〆てごちそうさまでした。
1泊2食付きでひとりあたり4万円なので、夕食代は酒抜きで2万円ほどといったことでしょうか。地元というか自分ちの食材を多用する姿勢には好感が持て、派手さはありませんが着実に旨いディナーでした。専業レストランと比べると好みが分かれるかもしれませんが、旅館メシと捉えれば最高峰の味わい。GoToと絡めて是非どうぞ。
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「東京最高のレストラン」を毎年買い、ピーンと来たお店は片っ端から行くようにしています。このシリーズはプロの食べ手が実名で執筆しているのが良いですね。写真などチャラついたものは一切ナシ。彼らの経験を根拠として、本音で激論を交わしています。真面目にレストラン選びをしたい方にオススメ。