鮨わたなべ/札幌

すすきの鮨激戦区にある「鮨わたなべ」。本店は中標津町にあるのですが、その支店という位置づけで札幌に進出。円山公園に移転した「姫沙羅 (ひめしゃら) 」の跡地です。
店内はカウンター中心ですが個室もあります。渡部朋仁シェフはもちろん中標津町出身であり、東京の鮨屋や和食店で腕を磨いたのち地元で独立。本店はスタッフに任せ本人はすすきのの地で気炎を吐きます。
乾杯として手元に牛乳を置かれるのに面食らう。何でも中標津町には「牛乳消費拡大応援条例(通称『牛乳で乾杯条例』)」というものがあり、宴会の始まりには地元の名産品である牛乳で乾杯する風習があるそうな。
さっぱりとしたエゾモズクで開始。線は細いのですが芯の強さがあり噛み応えがあります。量もたっぷりで暑い一日の締めくくりにぴったりです。
お酒は絶対値としては高くないのですが量が少なく、価格は1杯千円前後ながら量は半合ほどといった印象です。北海道産のものに拘らず全国各地から取りそろえているという印象です(これは米が北海道産だけど)。
いきなりにぎりに入ります。マツガワガレイ。厚めのスライスにしっかりと昆布で締まった大人の味覚。なお、当店の鮨は2部構成であり、まずはにぎりで、途中でお料理を挟み、〆に再びにぎりに戻るという構成。
春子鯛。北海道産のものは珍しいそうで、しっとりとした歯触りにホロホロと崩れ行く口当たり。
トロ。文句なしに美味しい。脂の甘さ赤身の酸味、共に満点のバランスでした。
コハダは思いきりの良い締め方。酸が強く口の中の雑味が綺麗にカットされます。
ボタンエビは卵がたっぷり。海老そのものの甘さはもちろんのこと、卵のコクが酒の消費を後押しします。
ほえー、スルメイカをこういう鮨で食べるのは珍しい。少し火が入ってお酒のツマミのような味覚です。
ホッケ。いわゆる居酒屋で出るようなホッケは網で獲るらしいのですが、コチラは釣りでキャッチするそうです。なるほど味の方向性は確かにホッケなのですが、なんとも静謐で犯しがたい美味しさがあり心に残りました。
シメサバ。さっぱりとした酸が先のホッケの余韻を断ち切ってくれます。
タコ。私の知っているタコとは似ても似つかない仕様。なんでも釧路とかあのへんで揚がったものらしいです。当店は道東への愛情がオホーツク海のように広く深い。
お料理に入ります。マツタケの土瓶蒸しはスープがたっぷりであり、ヘンにこねくり回すことなくマツタケの風味をたっぷりと感じられる仕組みでした。
サワラは調味たっぷり量たっぷりであり、その辺の焼魚弁当のフィッシュを凌駕するポーションです。味が濃く酒を呼ぶ。
シメサバをツマミで。当店は要所要所でシメサバが登場し、ひとつ前の料理のアフターフレーバーを整理する重要な任務を担っています。
地元のアワビをじっくりと煮込み肝のソースで頂きます。アワビは欧米系の料理でも用いられる食材ですが、鮨屋で食べるのが一番旨い気がする。
アワビの身を食べてからが本番。肝のソースにシャリを投入し、床もみよろしく米の一粒一粒にまでソースを絡めて頂きます。鼻から抜ける磯の香り。半分食べ進めてからは更にアワビのスープを投入しお茶漬けのように。
クジラのヅケ。それほど好きな食材ではないのですがこの皿は別格。臭みなどは一切なく濃くて複雑な風味が味蕾を制覇する。本日一番のお皿でした。
焼きたてのギンナンをホクホクと頂き箸休め。
茶碗蒸しにはカニの内子とパプリカのタレを流し込む。パプリカの赤い風味に内子のコクがベストマッチ。
ブリのスモーク。昨夜の「此方彼方(こなたかなた)」でも出てきましたが、札幌では流行ってる調理法なのかしら。付け合わせに地元のフルーツトマトを置くのが面白い。
ぬか漬け、ギョク、黒豆とコース終了の挨拶のような三部作が出てきますがご安心下さい。ここから〆の鮨に入ります。
赤身のヅケ。先のクジラが心に残りましたが、やはりマグロの味覚は気品あふれるものであると再確認。
ウニ。ひたすらに甘く上品な風味を湛えており、舌先でシュパっと消えて口腔内でリゾットとして化けて出てきます。
ラストの巻物はぶつ切りのマグロにフレッシュなイクラもたっぷりと。海苔の量もバリバリと存在感を発揮しており、海の香りに満ちたフィニッシュでした。
お椀は先のボタンエビのヘッドの味噌をがきいており濃密にして濃厚。
デザートは冒頭に関連して牛乳のアイス。やはり濃密にして濃厚な味覚であり、その長い長い余韻を楽しむ逸品。

お会計は2万円強。東京の同格の鮨屋での支払金額を考えれば随分とお買い得。加えて北海道しかも道東のニッチな食材を多用しており旅行者にとっては堪らないストーリー性があります。鮨を前半と後半に分けるのは心理的な何かを狙ってかもしれませんが、早めに満腹中枢が刺激されてしまった点も否めませんが、いずれにせよリーズナブルなお店でした。

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鮨は大好きなのですが、そんなに詳しくないです。居合い抜きのような真剣勝負のお店よりも、気楽でダラダラだべりながら酒を飲むようなお店を好みます。
この本は素晴らしいです。築地で働く方が著者であり、読んでるうちに寿司を食べたくなる魔力があります。鮮魚の旬や時々刻々と漁場が変わる産地についても地図入りでわかりやすい。Kindleとしてタブレットに忍ばせて鮨屋に行くのもいいですね。