つば甚/金沢

1752年創業という気の遠くなる歴史を重ねてきた「つば甚」。前田家お抱えの鍔師(刀のツバを作るプロ)がノリで始めたレストランが始まりであり、今では金沢屈指の老舗料亭となりました。ミシュラン1ツ星(写真は公式ウェブサイトより)。
入店して数十秒でテンションがマリアナ海溝のように深まりました。感染症に対して神経質の極み。ディズニーランドを超える過剰包装です。「ウチの指示にしっかり従って食事をします。言いつけを守ります」的な書面にもサインさせられ、「何かあってもウチの悪評が立たないよう証拠を残す」ことが一丁目一番地となっています。ダサすぎて役満。
何でもかんでも「感染症対策のため~」とコロナのせいにしていますが、要は作り置きセッティング済の食事をセルフサービスでどうぞというスタイル。酒も当然に手酌です。
八寸は甘海老を何かに漬けたものが美味しかったのですが、やはり何の説明もなくそこに置いてある紙を勝手に読んで食えという姿勢であり、このような雰囲気の中で味わう食事ほど無味乾燥なものはない。てゆーかそんなにコロナ気になるなら枝豆みたいに手づかみ前提の食べ物出すなよ。
さすがに椀物などアツアツで出さねばならない料理については給仕が運んで来るのですが、新入社員なのかバイトなのか紛う方なき素人。せめてマックとかファミレスで修業積んでから来いよ。ガタガタと震えながら料理を並べる様を見せつけられるとこっちまで緊張してしまい食事どころではありません。あーあーあー、着物が料理についちゃうってば!

もちろんこれは彼女が悪いのではなく、そのような素人をアサインした会社の責任者です。私の記憶にある限り客単価数万円の店では最低クラスのサービス内容でしょう。
他方、料理はそれほど悪くはありません。例えばこのヒラメの刺身など絶品の域に近く大変に満足しました。しかしながらやはりガクガクブルブルされるため危なっかしくてしょうがなく、配膳速度が絶望的に遅い。そしてこれでは料理人が可哀相だ。
酒も高い。アサヒの小瓶が税込で千円を超える価格設定であり市価の約5倍。日本酒もワインも無茶苦茶な価格設定であり相当に心が閉じました。しかも「ビールを1本、グラスを2つ」という間違えようのない私のオーダーを間違えるなど、おままごと以下の接客です。
焼物はノドグロと丸茄子の田楽。「観光客にはノドグロ出しときゃいいんでしょ」的なメッセージ性のあるクオリティであり、脂ばかりがベタベタして美味しくない。他方、ナスはジットリとジューシーに仕上がっており美味しかった。
甘鯛の松笠焼き。鯛そのものはそれほど悪くないのですが、調味が繊細を通り越してプレーンであり食べ応えが無い。ガクガクブルブルしているので液面が波立っています。俺そんなにガラ悪いかな。別にザイるっぽいわけではないと思うのだけれど。
能登牛に松茸のフライ。ノドグロ同様に「能登って名のつくもん出しときゃいいんでしょ?」という思惑が見え隠れし、下品な脂がベタベタで不味い。マツタケに至ってはフライにする意図が全く不明であり、悲劇を通り越して喜劇です。
ズワイガニのジュレがけ。こちらはサッパリとした調味であり、その中でカニの旨味と湯葉の滑らかさが加わり私は結構好き。
〆のお食事はウナギご飯に冷麦。わ!なんだこの冷麦!超美味しい!上質な稲庭うどんのような食感であり、冷たく深みのあるスープと共に傑作といって良い仕上がりです。こんな場面で最高峰の冷麦に出会えるとは人生いろいろである。
メロン・ナシ・ブドウなどの季節の果物や水ようかんなどは一般的な高級和食のそれでした。
この店はやばたにえんということで途中から酒の注文を控えたためお会計はひとりあたり2.5万円ほどで済みましたが、それでも2.5万円です。もちろん歴史ある建造物の中で文化を味わうという意味ではこんなものなのかもしれない。俺はベルサイユ宮殿で食事をしたんだ、俺はベルサイユ宮殿で食事をしたんだと無理やり納得するように努めました。

それにしても、何かのペナルティかと思えるほどの低いサービスレベルは何なんでしょう。プライベート感丸出しで行ったからド新人が配員されたのかなあ。接待感バリバリでお邪魔すればもう少し対応(担当者)が違ったのかもしれません。予約の際は必ず電話で、いかに重要な会食かを熱弁したほうが良いでしょう。こちらからは以上です。

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