LURRA°(ルーラ)/東山(京都)

2019年夏にオープンしたイノベーティブ・フュージョン系のレストラン「LURRA°(ルーラ)」。東山の町家を改装したカッコイイお店であり、あまり深く考えずにジャケ予約しました。12席一斉スタートの2回転制であり東京っぽいオペレーション。実際この日のゲストは全員が東京からでした。
ニュージーランドのレストランで働いていた3人の同僚が意気投合して京都に創りあげたお店。ベンチャー企業のような闊達とした雰囲気のティームワークであり、誰が偉いのか誰が下っ端なのかわからないフラットな組織です。名刺誰から渡せばいいか困るやつです。従業員のほとんどが面積の広いタトゥーを入れており、レッドホットチリペッパーズのホームパーティにお邪魔したような気分。
当店は一通りのコース料理と飲み物のペアリングがついて総額3万円チョイ。お料理に合わせた飲み物を提供することが前提のパッケージ商品であり、一体的なものとして捉える必要があります。アルコールのラインナップはドンペリの無い81といったところであり、カクテルや日本酒多めのワインは少な目といった構成でした。
最初にチュロス。これは美味しいですねえ。うげげ最初から揚げ物かよと懐疑的に口にしたのですが、思いのほか軽くサクサクと食べ進めることができ、また、チーズの旨味やタマネギの甘味との組み合わせが素晴らしく、ひとつの料理として一体化して楽しむことができました。
続いて枝豆、ピスタチオ、湯葉、キャビアなど。うっかりキャビアに目が行きがちですが、枝豆の食感と逞しさ、湯葉の濃密な風味を楽しむ1品です。
トマトに山羊のチーズ、エルダーフラワー。トマトの中にはセミドライしたトマトが詰め込まれて凝縮感に溢れる酸味が印象的。山羊のチーズは自家製のものなんですが、もうちょっとパンチというか、山羊らしさがあっても良いと思う。
馬肉に牡蠣の風味を貼り付けて、パリパリと葉っぱを並べます。悪くないのですが、いつまでも手軽なフィンガーフードが続いているという印象もあり、もっと素材を前面に押し出しながらしっかりと量を食べたいなと思い始めた瞬間です。
鮎をLURRA°流に仕上げました。見た目は派手ですがシンプルな調味であり、鮎の苦みがしっかりと活きた調理です。鮎って美味しいけれど映えないことが多いので、このようなプレゼンテーションはお見事。

ところでLURRA°とはバスク語で「地球」という意味であり、最後のマルは新手のモーニング娘。ではなく地球を周る月を意味しているとのこと。ドラクエのルーラもバスク語から来てるんかな。
お野菜特集。京都北部の大原という地域の畑から獲れるものを美しく展開します。見た目はもちろん、ハーブやスパイスの使い方、塩加減などを含めセンスに溢れた1皿です。ちなみに当店の火入れにはガスを用いず、薪火での調理を徹底しています。
お肉は乳牛の経産牛。凝縮感があって逞しい味わいなのですが、ちょっと雑味が強いというか脂身の多いスルメ感があります。肉だけで食わすのであればもう少しクリアな個体のほうが私は好き。
〆のお食事はトウモロコシごはんを焼きおにぎりにしたお茶漬け。中華風のスープを注ぎ、万人受けする美味しさです。装飾のパリパリがチボリ公園の夜景みたい。
デザートは場所を移動してこの日のゲストみんなでひとつの丸テーブルを囲み、無理くりトークさせられるのですが、この仕組みは好きじゃありません。私は他人に身の上話をすることが苦手だし、かといって他人の自慢話を聞くのはもっと嫌。中目や上原、三茶あたりにいそうなクリエイティブ系の30代がサステナビリティについて語り合う空気感であり、特大の丸メガネは必修科目。港区おじさんとその女子みたいなのが来れば相当に浮くことでしょう。この席に移動したい人はすればいいし、苦手な人はカウンター席のままでいるという選択肢を残して欲しいところです。
他人の話なんか興味ないけど、かといってガン無視すると雰囲気を乱すしなあ、うわーなんか時計回りに自分の職業とか説明していく雰囲気じゃんやべーもうすぐこっちの番だトイレでも行くかうげートイレ誰か入ってんじゃんさては先に逃げやがったな、のようなお気持ちが脳内を支配していたので、デザートについては味もへったくれもありませんでした。
ちなみにトイレへのアプローチは一旦外に出て坪庭を経由します。ストックされた薪や象徴的に植えられた3本の木、空へとつながる丸い窓などカッコイイ。
席に戻ると未だに身の上話が続いていたので、ラストのスイーツをちょっぱやで頂いて逃げるように退店。このドーナッツは中に桃のアイスクリームが詰まっており美味しい気配があったのですが、やはり食べる環境というのは重要なのである。
かなり特殊なお店でした。飲食店として限定して見れば、食事はまあまあ美味しいレベルでありながら皿出しのテンポが悪く(何であんなにスタッフが大勢いるのに仕事が遅いんだ!)、食材や酒の質を考えれば3万円はちょっと高いなあというのが素直な感想です。

他方、味覚だけでなく体験や世界観を楽しむという意味では価値のあるお店であり、レストランという業態の在り方を世に問い、新しい世界を提案し続ける存在意義は大きい。ヒロユキ・マチダと共にどうぞ。

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