木山義朗シェフは岐阜県出身。地元の日本料理店を経て京都「和久傳(わくでん)」に身を預け、16年もの間、和久傳において腕を磨いた一本気な料理人です。店内はカウンターが8席に個室といった仕様。おひとり様からグループでの利用もOKと使い勝手は幅広い。
先頭打者ホームラン。鰻の印籠(骨を抜いたぶつ切り)をバリっと焼いて、飯蒸しにトッピング。飯蒸しには松の実が混ぜ込まれており、何とも食欲を掻き立てる一品です。
大間のウニはジューシーに炊かれた賀茂茄子に乗せられます。ナスだけでも美味しいのにウニを乗せるだなんて反則行為。接着剤として蓮根をすりおろして粘り気を出したものを用いるのもセンスが良い。
小さなお椀はスッポンのお出汁。タネには上質なアワビとスッポンのエンペラを用いており、さらにはゴマ豆腐でボリュームアップしています。それぞれ主張の強い食材なはずですが謎の一体感があり、ベリーグッドな一品でした。
お造りは甘海老のたたき。物理的にマジで叩いて粘り気を出し、昆布などで風味を付与したタルタルのような仕様です。それに加え、海老味噌やお出汁で造ったジュレを格子状に並べ、お野菜などで彩りを与えます。なんてセンスの良い一皿なのでしょう。甘海老そのものやジュレの美味しさもさることながら、レモンの皮なのでアクセントを組み込むのがブラボーです。
「ウチのメインディッシュです」と胸を張って提供されるのはお椀。前述の霊験あらたかなる名水に、2種の鰹節と1種の鮪節をブレンドしてササっとつけて一番出汁。まさに作り立て絞りたての逸品であり、なるほどタネよりも出汁に迫力を感じます。もちろんタネも毛ガニとハモを用いたしんじょうであり、これも逸品。
焼き物はノドグロ。梅肉を塗りつけながら焼いたものであり、ノドグロの強烈な脂がキレイに中和されました。付け合わせの胡麻和えも本当に美味しい。
特大の岩ガキはライムと塩でシンプルに頂きます。私は幸せなのかもしれない、少なくとも生ガキが苦手な民よりは。
天ぷらも旨い。いわゆる繊細系とはまた異なる芸風であり、強烈な旨味を湛えた明石のタコには相当酒を飲まされました。枝豆やトウモロコシにも大地を感じるパワーがあり、素材の味が実に濃い。
炊き合わせはアコウダイに白ずいき、セロリなど。さっぱりと、しかしやはりしっかりとした出汁を感じる仕組みであり、フィナーレに向かいながらも手抜きは一切ありません。
さて、炭水化物の時間です。当店は5種のお食事を用意しており、好きなものをチョイスする制度です。禁断の「5種全部ください」もOKであり、後の糖質ゴールドラッシュである。
まずは冷製のお茶漬け(?)でしょうか。濃い味付けのニシンと共に、氷水の中を泳ぐ米粒をかっ食らう。ひんやりと夏にぴったりの味覚です。
続いてカツ丼のアナゴバージョン的なもの。2杯目にしてメラゾーマのような破壊力であり、しかも量や醤油味だけで攻めることなくきちんと繊細に美味しい。
胡麻そうめん。なるほど米だけでなく麺と来ましたか。蒸留された担々麺が如く品の良い味わいでありスルスルと胃袋に収まります。これはノーカン、まだまだ食べれる。
自慢の鰹節をたっぷりとゴハンに乗せ、上質なおじゃこをぶっかけ、更には色の濃い卵黄まで乗せてきます。もうキミしか見えない、と独り言ちてしまいそうなストレートな美味しさ。
大トリはアジのヅケ丼。残り物のアジを用いたまかない飯というわけでは決してなく、その場で木箱から恭しく味を取り出し身を切りつけ、ライブでヅケにしていきます。これはひとつの完成された料理であり、このままコースの流れに組み込んでも全く問題のないレベルでしょう。
デザートはスイカをくりぬいた器にスイカならびにそのゼリーなど。この甘味もお代わりOKとのことでしたが、さすがに炭水化物5杯で胃袋を使い果たし、ワンターンでフィニッシュです。
店主自らお茶をたてて下さり、抹茶の羊羹で胃袋が完璧に完成。ごちそうさまでした。
以上を食べ、酒を3合飲んでお会計は2.9万円。これは何かの間違いではないかと椅子から転げ落ちそうになる費用対効果の良さです。なるほど周りのゲストがあまりお金を気にせずガンガンに飲みまくっている理由が良くわかりました。
お料理の良さもさることながら、従業員みんなの雰囲気も素敵です。お弟子さんたち皆がきちんと自分の言葉で料理を説明でき、また、年齢が倍近いゲストとも上手く言葉を掛け合う雑談力の高さといったらない。良い職場。将来が楽しみ。みんな立派に巣立っていくんだろうなあ。
京都で一番好きなお店が見つかってしまったかもしれません。超オススメ!
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