冨久屋(ふくや)/富山

富山の飲み屋街から少し離れ、飲食店と住宅が綯い交ぜになったエリアにある日本料理店「冨久屋(ふくや)」。ミシュラン1ツ星。公民館というかなんというか、入り口に下足箱があるヘンテコな建物の2階にあります。
店内はカウンター席にテーブル席がいくつか。席の間隔を広めにとり仕切り板を配するなど新しい生活様式を体現するお店です。

大屋丈二シェフは東京都出身。西麻布「霞町すゑとみ」で修業し、実家の蕎麦屋の料理を担当しながら腕を磨いたのち独立。富山の食材に拘り、自ら釣りに出たりキノコを採りに行ったり熊を丸々一頭さばいたりと、未だお若いのに求道者の沼に片足を突っ込みつつあります。
生ビールは650円と安い。しかも薄はりのグラスで丁寧に丁寧に注がれ、東京のアホな居酒屋を叱りつけたくなるレベルです。その他、日本酒をいくつか頂いたのですが、いずれも1合千円前後と大変良心的な価格設定です。
手際よく通される冷製の茶碗蒸し。出汁の旨味が強く、じゅんさいのツルっとした食感と相まって、真夏の夜にピッタリの先付です。
キスの塩煮。わおー、こんなに潔い料理ってアリなんだ。しかも、それこそ絶妙な塩加減でめちゃんこ旨い。キスって、天ぷらでハフハフ熱いうちに食べきるから正直、魚としての味ってようわからんもんですが、この料理を通せばなるほどこれがキスなのかと得心する、気づきの多い1品でした。
子供のゲンコツほどにワシワシと取りまとめられた毛ガニ。これはもう、当然に美味しいですね。仄かに酸のきいた和風のジュレと共にサッパリと頂きました。1万円かそこらのコース料理でこれだけのカニが出るとは恐れ入る。
変化球でコロッケ。シンプルにジャガイモと豚肉だけでキレイに揚げられたものであり、ジャガイモの甘味がしみじみ旨い。
近海もののクジラ。富山湾って何でも獲れるんだなあ。処理も良いのか実に清澄な味わいであり、上質な馬肉を食べているかのようです。
アマダイを唐揚げに。まさに甘いタイであり、揚げているというのに生よりも軽い食後感。サクサクとあっという間に平らげてしまいました。
お椀はウナギに冬瓜。こういった形で鰻を食べるのは初めてですが、なるほど蒲焼のコッテリとした味わいとはまるで別物。変幻自在のエンターテイナーともいうべき、鰻の可能性を感じたお椀でした。
白エビとアカイカをカラスミと共に頂きます。まさに道楽といった味わいであり、日本酒が進む進む。
お刺身はウニ、ボタンエビ、マグロ、メゴチ(だっけ?)。いずれも近海ものであり、やはり1万円かそこらのコース料理でこれだけの素材を揃えられるとは、富山という土地の魅力ひいては当店の実力に他ならないでしょう。
ジューシーな水なす。良い素材をシンプルに調理し、食材そのものの魅力を引き出しています。量もたっぷり。溢れ出るナス食ったなあ感。
長芋の天ぷら。こちらもやはり素材を前面に押し出した料理でありシミジミ旨い。
アマダイのお頭焼き。お頭とかアラとか、そういうの、好きなんですよねえ。身や油、皮など魚のありとあらゆる美味しさが凝縮する部分であり、手を使いながらチュパチュパと最高の酒のツマミです。
トマトの冷製。雑味が無く和の美味なる調味が光ります。コースも終盤だというのにこのスイスイと胃袋に収まる感。
〆の炭水化物は漫画のようなオニギリ。釜でしっかりと炊いたのち、専用のおひつで水分を調整した上で握りに入るという手の込みよう。程よい塩気に海苔の香り。郷愁を誘う締めくくりでした。
デザートは水ようかん。よくこの形を保っていられるなと感心するほど、触れれば崩れてしまう食感ならびに触感です。上質な甘味に品の良い豆の香り。おいしゅうございました。
一通りを食べ、お酒をチョイチョイ飲んでお会計は1.5万円弱。わーお、ナイスな費用対効果ですねえ。東京の調子に乗った和食店であれば余裕で倍は請求されることでしょう。大将は癒し系でおっとりとした雰囲気であり、しかし料理に対する意識が高く、料理人としてかなり信用できる人物に感じました。今度は一番高いコースにしちゃおうっと。

食べログ グルメブログランキング


関連記事
和食は料理ジャンルとして突出して高いです。「飲んで食べて1万円ぐらいでオススメの和食ない?」みたいなことを聞かれると、1万円で良い和食なんてありませんよ、と答えるようにしているのですが、「お前は感覚がズレている」となぜか非難されるのが心外。ほんとだから。そんな中でもバランス良く感じたお店は下記の通りです。
黒木純さんの著作。「そんなのつくれねーよ」と突っ込みたくなる奇をてらったレシピ本とは異なり、家庭で食べる、誰でも知っている「おかず」に集中特化した読み応えのある本です。トウモロコシご飯の造り方も惜しみなく公開中。彼がここにまで至るストーリーが描かれたエッセイも魅力的。