乳白色の柔らかい印象をもつインテリア。店名は「ボニュ=母乳」。人間が初めて口にするもの、原点を意識してのネーミングだそうです。「エキュレ」や「いぶさな」同様に、食事中は彼がずっとセコンドについていてくれ、その解説を聞きながら食事をするという斬新な業態です。日本語ができない人には厳しいかも。
ワインリストはなく、価格帯を指定すればそのレンジにおさまるものを何本か持って来てくれます。値付けとしてはかなり良心的で、ほとんど利益を乗せてないものもあるのですが、スタートラインがそもそも高いので、ワインに理解のある方と来た方が楽しめるでしょう。
お通しに自家製のビーフジャーキー。蔓草牛(後述)を用いており、噛みしめるほどに旨味が溢れ出ます。凄まじい凝縮感。ビーフジャーキーと言えば手頃なアメリカ土産、という私にとっては衝撃の一口でした。
数十種類のフレッシュなハーブが組み込まれたサラダ。身体にスっと沁み込んでいくような、東洋の医学を思わせる1皿。味そのものというよりも、身体への定着を楽しむことができました。
続いてブルターニュ産の生きたオマール。「シンプル+オリジナリティ」が当店の求める料理であり、シンプルでありながら、当店でしか絶対に食べることのできない料理を目指しているそうです。この特大のオマールが、、、
5分かそこらでビスクに変身。綺麗な甲殻の香りが強く、思いのほかクリアな味わい。一般的にビスクとは濃厚さで勝負な面がありますが、当店のそれは一番出汁のような澄んだ味わいが楽しめます。ところで身はどこ行ったんや。祇園「にくの匠 三芳(みよし)」のように潔い食材の削りっぷりに脱帽する。
順次トーストがサーブされるのですが、これが地味にめっちゃうまい。パクパクと軽やかに食べ進めることができます。
こちらはシイタケのリゾット。バターやオリーブオイルなどは一切用いず、水と塩のみで調味します。食べる前からシイタケの香りがプンプンに漂っており、口に含むとその風味が爆発。米なのにシイタケよりもシイタケの味わいが強い1皿です。
トマトのパスタ。少人数制であるため茹で加減は完璧。トマトは酸味を感じる骨格のある味わいであり、また、奥に隠れたトマトのヘタを用いた調味も興味深い。トマトよりもトマトの良さを引き出しています。
極太のホワイトアスパラガス。こちらは塩釜ならぬ土釜で熱を通しました。わざとらしさのないクリアな甘味が印象的で、そのエキスをたっぷりと湛えたジューシーさも堪らない。ソースは酸味がハッキリとしており緩急溢れる一皿です。
6時間かけて焼き上げる「ボニュ焼き」。まずはランプの部分。「蔓草牛(まんそうぎゅう)」といって、とっても凄いお肉だそうです。このあたりムッシュ来栖もノってきて、この肉の素晴らしさをかなり早口で熱弁されており、ギークな面を垣間見ることができました。味はもちろん美味しいのですが、あまり好きな肉質ならびに火入れではありません。まあ、好みは人それぞれ。
こちらはサーロイン。お、こっちのほうが断然美味しいぞ。栗のような香りを放つ焼き目。食感はサクサクとステーキとはかけ離れた歯ざわりが面白い。それでいて噛んだ時には肉汁が決壊し、歯を押し返してくるような弾力・タフさも感じられました。
デザート1皿目はミルクのアイスクリーム。店名を具現化したものなのか、不必要に濃厚な印象はなく、ミルクの味わいを強く感じながらもサラっとした余韻でした。あと3つは食べれるぜ。
プリンは卵における卵黄と卵白の比率を保ったまま、ミルクと砂糖だけで丁寧に仕上げたもの。かなりコシの強い舌触りおよび味わいなので、ちょっと肩が凝る1皿でした。
小菓子の「水チョコ」が絶品。クリームではなく水を用いた生チョコ(?)であり、まさに水のように瞬で口の中に溶けていきます。カカオの風味をダイレクトに楽しむことができ、カカオ原理主義にとっては堪らない1口でした。
お会計はひとりあたり6万円。絶対額としてはめっちゃんこ高いですが、納得感のある支払金額です。レストランというよりは実験室・研究所・秘密結社といった意味合いが強く、マッドサイエンティストである来栖のおじさんのヲタ芸を楽しみに行く場所。食べログのような媒体に載るべきお店ではなく、コスパとか、おいし~とか、映え~とか、そういう世界観からはかけ離れた異空間。なお、バリっとしたレストランからは対極に位置する芸風であるため、サービス料を一切取らない点に逆矜持を感じました。
食べ手に経験を求めるお店であり、求道者が自腹で行くべきお店です。ギャルがオッサンに連れて行ってもらうのはダメ。ゼッタイ。
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「好きな料理のジャンルは?」と問われると、すぐさまフレンチと答えます。フレンチにも色々ありますが、私の好きな方向性は下記の通り。あなたがこれらの店が好きであれば、当ブログはあなたの店探しの一助となるでしょう。
- ガストロノミー ジョエル・ロブション ←最高の夜をありがとう。
- アピシウス ←東京最高峰のレストラン。
- ナリサワ ←何度訪れても完璧。
- ナベノイズム ←世界観がきちんとある。
- ル・マンジュ・トゥー/神楽坂 ←接客は完璧。料理は美味そのもの。皿出しのテンポも良く、とにかく居心地の良いお店。客層も好き。
- TAIAN TOKYO(タイアン トウキョウ)/西麻布 ←流行り廃りに捉われないマッチョな料理。
- メシモ(MECIMO)/小田原 ←重厚長大なレストランの裏をかく魅力的な設計
- ア・ニュ Shohei Shimono/広尾 ←リニューアルしてリベラルに、旨けりゃなんでもいいじゃん的に
- ラフィナージュ(L'affinage)/銀座 ←王道中の王道。銀座とは考えられない値付け。
- ル・マノアール・ダスティン/銀座 ←まさに正統。
- SUGALABO ←料理だけなら一番好きかも。
- エクアトゥール ←天才によって創られる唯一無二の料理。
- ete(エテ) ←美食の行き着く先はお抱えの料理人。
- レヴォ ←人里離れた場所にありながら、日本いや世界でもトップレベルのフランス料理店。
- マノワール・ディノ(Manoir d'inno)/表参道 ←料理は直球勝負。ワインは高くない。
- フロリレージュ ←間違いなく世界を狙える。
- クレッセント/芝公園 ←グランメゾン中のグランメゾン。
- アサヒナガストロノーム/日本橋 ←そこらのフランス料理店とは格が違う。
- ティエリー マルクス ←料理の良さはもちろんのこと、ワインのペアリングが見事。
- エステール(ESTERRE)/大手町 ←料理もサービスもパーフェクト。外せない食事ならココ。