にくの匠 三芳(みよし)/祇園

祇園の風情ある町家が並ぶ一画に立つ「にくの匠 三芳(みよし)」。ミシュラン1ツ星であり、食べログでは4.56(2020年5月)でゴールドメダル獲得と大変に評判が良いお店です。
店内は臨場感抜群のカウンター席とテーブル席がいくつか。それほど大きいお店ではなく、伊藤力シェフが全ての料理にきちんと関与しています。彼はサービス出身なのですが、牛肉卸を営む友人に影響を受け牛肉を主軸に置いた肉割烹を開業。めちゃくちゃイケメンです。渋い。私的2020年上半期ナンバーワンのイケメン料理人です。肉に真摯に向き合いながらもお弟子さんたちには柔らかに接し、とても良い雰囲気の職場です。私の息子を修行に出したいぐらいである。
超がつくほどの高級店ではありますが、ビールなど普通の酒は千円前後と意外にリーズナブルです。ルイナールのボトルも1.8万円と、祇園のワインという意味ではむしろ割安か。一方、圧倒的な価格帯を誇るワインなどもオンリストされており、お酒については知識を持って臨むべきお店でしょう。
肉のお出汁で開幕。なるほどビーフの動物的なニュアンスが感じられ面白い。
牛タンの昆布締め。これがタンなのかと衝撃を受ける透明感。ブラインドで食べれば牛タンとは答えられないほど綺麗な味わいであり、冒頭にしてこの店は只者ではないと気づかせてくれる逸品。現代美食博物館があるとすれば、必ず選出される一皿でしょう。
イチボのたたき。透明感のあるタンから一転、ガツっと肉を感じさせてくれる味覚。表面を炭火でバリっと炙り、内側はレアレアで。脂身もほとんどなく、肉の旨味が強烈に感じられる1皿です。
牛テールのスープ。旨い。これは語るほどにチープになる完成された美味しさです。葛をもちいてトロみをきかせた口当たりもすごくいい。スープを吸った加茂茄子もジューシーで素晴らしい。
薄切りのサーロインに小浜の赤ウニ。ご覧の通り、問答無用の美味しさです。サーロインの計算されたスライスがいいですねえ。脂っぽくウっとなることがなく、まるでネギトロのように滑らかに胃袋に落ちていきます。ウニも小指の先ほどのサイズながら、味わいが山ほど詰まっていました。
山形の名人が育てたアスパラ。太いだけならまだしも、この水分含有量は何なのでしょう。揚げてあるのにジューシーなエキスをたっぷりと保持しています。揚げ油には牛脂を用いているなど一貫して牛にこだわる姿勢もすごくいい。生ハムも牛であり、じんわりと溶けだす脂が極上のソースとなります。
淡路島のタマネギ。ちょっと炊いただけとのことですが驚くほど糖度が高い。雑味がなくスラっとした味わいであり、玉ねぎ嫌いの少年少女はまずはここから始めると良いでしょう。
薄切りの牛肉を更ににバンバンと削ぎ落していく店主。ああ!死ぬほどもったいない食べる食べる!と引き止めたくなるほど豪快な掃除に冷や汗が出ます。しかしその牛肉の中の牛肉ともいうべきコアな部分のみを食べるしゃぶしゃぶは神懸った旨さ。畢竟、美食とは取捨選択なのである。
メインディッシュは王道にステーキ。いくつか選択肢があり部位によって値段はかなり異なってくるのですが、私は控えめな価格設定のヒレ肉をチョイス。周りのゲストはシャトーブリアンだ何だと懐具合を気にしない集団が多く、タワーマンションの低層階に住んでいるような劣等感を覚えました。

しかしながらヒレ肉で充分に旨いというか、むしろ人生最高レベルに美味しいステーキでした。世界最高峰と名高い「ピータールーガー」のステーキよりも全然美味しい。量もかなりのものであり、普通サイズの胃袋の持ち主であれば完食は難しいのではあるまいか。その場合は肉弁当として折り詰めに仕上げてお持ち帰りできるそうです。
〆のお食事はシンプルに白米で。それでもお漬物や味噌汁など堂に入った味わいであり、肉の昆布巻きにした煮込み(?)も旨味がたっぷりで最高のカロリーでした。
調子に乗ってライスをおかわりすると、卵黄のヅケをトッピングしてくれました。これが、旨い。食欲がぶり返す美味しさであり、〆であるはずなのにあろうことか酒が進んでしまいました。
デザートも突き抜けています。最高級とも言うべき「太陽のタマゴ」にマスカルポーネチーズのアイスのイケムがけ。ちなみにイケムとはすげえ高いデザートワインであり、まさに道楽、贅の限りを尽くしたフィニッシュでした。
それほど飲まなかったためか、ひとりあたり4万円弱で収まりました。絶対値としては高いですが、質と量を考えればむしろ割安ではないかと感じさせる凄味のあるお店です。とにかく牛肉だ、と、コンセプチュアルなのもすごくいい。ひたむきにビーフなのにストーリーを持たすことのできる構成力、明快さ。これは確かに匠だわ。確かに肉の匠だわ。

高価ではありますがその価値は充分にある肉割烹。京都で肉を食べるなら三芳。オススメです。

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