店内は臨場感抜群のカウンター席とテーブル席がいくつか。それほど大きいお店ではなく、伊藤力シェフが全ての料理にきちんと関与しています。彼はサービス出身なのですが、牛肉卸を営む友人に影響を受け牛肉を主軸に置いた肉割烹を開業。めちゃくちゃイケメンです。渋い。私的2020年上半期ナンバーワンのイケメン料理人です。肉に真摯に向き合いながらもお弟子さんたちには柔らかに接し、とても良い雰囲気の職場です。私の息子を修行に出したいぐらいである。
超がつくほどの高級店ではありますが、ビールなど普通の酒は千円前後と意外にリーズナブルです。ルイナールのボトルも1.8万円と、祇園のワインという意味ではむしろ割安か。一方、圧倒的な価格帯を誇るワインなどもオンリストされており、お酒については知識を持って臨むべきお店でしょう。
肉のお出汁で開幕。なるほどビーフの動物的なニュアンスが感じられ面白い。
牛タンの昆布締め。これがタンなのかと衝撃を受ける透明感。ブラインドで食べれば牛タンとは答えられないほど綺麗な味わいであり、冒頭にしてこの店は只者ではないと気づかせてくれる逸品。現代美食博物館があるとすれば、必ず選出される一皿でしょう。
イチボのたたき。透明感のあるタンから一転、ガツっと肉を感じさせてくれる味覚。表面を炭火でバリっと炙り、内側はレアレアで。脂身もほとんどなく、肉の旨味が強烈に感じられる1皿です。
牛テールのスープ。旨い。これは語るほどにチープになる完成された美味しさです。葛をもちいてトロみをきかせた口当たりもすごくいい。スープを吸った加茂茄子もジューシーで素晴らしい。
薄切りのサーロインに小浜の赤ウニ。ご覧の通り、問答無用の美味しさです。サーロインの計算されたスライスがいいですねえ。脂っぽくウっとなることがなく、まるでネギトロのように滑らかに胃袋に落ちていきます。ウニも小指の先ほどのサイズながら、味わいが山ほど詰まっていました。
山形の名人が育てたアスパラ。太いだけならまだしも、この水分含有量は何なのでしょう。揚げてあるのにジューシーなエキスをたっぷりと保持しています。揚げ油には牛脂を用いているなど一貫して牛にこだわる姿勢もすごくいい。生ハムも牛であり、じんわりと溶けだす脂が極上のソースとなります。
淡路島のタマネギ。ちょっと炊いただけとのことですが驚くほど糖度が高い。雑味がなくスラっとした味わいであり、玉ねぎ嫌いの少年少女はまずはここから始めると良いでしょう。
薄切りの牛肉を更ににバンバンと削ぎ落していく店主。ああ!死ぬほどもったいない食べる食べる!と引き止めたくなるほど豪快な掃除に冷や汗が出ます。しかしその牛肉の中の牛肉ともいうべきコアな部分のみを食べるしゃぶしゃぶは神懸った旨さ。畢竟、美食とは取捨選択なのである。
メインディッシュは王道にステーキ。いくつか選択肢があり部位によって値段はかなり異なってくるのですが、私は控えめな価格設定のヒレ肉をチョイス。周りのゲストはシャトーブリアンだ何だと懐具合を気にしない集団が多く、タワーマンションの低層階に住んでいるような劣等感を覚えました。
しかしながらヒレ肉で充分に旨いというか、むしろ人生最高レベルに美味しいステーキでした。世界最高峰と名高い「ピータールーガー」のステーキよりも全然美味しい。量もかなりのものであり、普通サイズの胃袋の持ち主であれば完食は難しいのではあるまいか。その場合は肉弁当として折り詰めに仕上げてお持ち帰りできるそうです。
〆のお食事はシンプルに白米で。それでもお漬物や味噌汁など堂に入った味わいであり、肉の昆布巻きにした煮込み(?)も旨味がたっぷりで最高のカロリーでした。
調子に乗ってライスをおかわりすると、卵黄のヅケをトッピングしてくれました。これが、旨い。食欲がぶり返す美味しさであり、〆であるはずなのにあろうことか酒が進んでしまいました。
デザートも突き抜けています。最高級とも言うべき「太陽のタマゴ」にマスカルポーネチーズのアイスのイケムがけ。ちなみにイケムとはすげえ高いデザートワインであり、まさに道楽、贅の限りを尽くしたフィニッシュでした。
それほど飲まなかったためか、ひとりあたり4万円弱で収まりました。絶対値としては高いですが、質と量を考えればむしろ割安ではないかと感じさせる凄味のあるお店です。とにかく牛肉だ、と、コンセプチュアルなのもすごくいい。ひたむきにビーフなのにストーリーを持たすことのできる構成力、明快さ。これは確かに匠だわ。確かに肉の匠だわ。
高価ではありますがその価値は充分にある肉割烹。京都で肉を食べるなら三芳。オススメです。
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和食は料理ジャンルとして突出して高いです。「飲んで食べて1万円ぐらいでオススメの和食ない?」みたいなことを聞かれると、1万円で良い和食なんてありませんよ、と答えるようにしているのですが、「お前は感覚がズレている」となぜか非難されるのが心外。ほんとだから。そんな中でもバランス良く感じたお店は下記の通りです。
- かどわき/麻布十番 ←人生で一番の和食かも。
- と村/虎ノ門 ←季節を切り取る、究極の旬を楽しむエンターテインメント。
- しのはら/銀座 ←予約困難となって当然だ。
- 温味/すすきの ←旨い!多い!安い!完全無欠の三ツ星和食店。
- 龍吟/六本木 ←モダンスパニッシュとさえ感じる前衛的な和食。外人にオススメ。
- いち太/外苑前 ←フランス料理のように多層的な味わい。
- 田がわ/御幸町(京都) ←幸村卒業。近い将来、星獲得間違いなしのリーズナブルな和食。
- 又吉/祇園(京都) ←雰囲気のある街並みに溶け込む費用対効果抜群のお店。
- カモシヤ クスモト/福島(大阪) ←独学でもトップに立ててしまうのか。
- 島之内 一陽/難波 ←カジュアル和食の最高峰。
- 和やまむら/奈良駅 ←ミシュラン3ツ星。料理が抜群に旨いガールズバー。
- 季節料理なかしま/白島(広島) ←同じくミシュラン三ツ星和食にしては圧倒的な安さ。
- 日本料理 幸庵 ←こちらも費用対効果が素晴らしい。ミシュラン三ツ星って実はお買い得?