片折(かたおり)/金沢

いま北陸で、いや日本でトップクラスに予約が取れない和食店「片折(かたおり)」。金沢は浅野川のほとりという抜群のロケーション。金沢駅から歩くと30分ぐらいかかりますが雰囲気の良い場所なので、お散歩がてら徒歩でどうぞ。
ネット上の口コミによると「まず最初に待合室でタオルを首にのせる」という謎ルールがあったようですが、現在は待合室は廃止となりそのまま6席のみのカウンターへ。タオル首のせは継続中です。
摘んできた八重桜の桜湯でスタート。片折卓矢シェフは「つる幸」や「玉泉邸」で名を馳せた後に「片折」を旗揚げ。ちょづいたところは1ミリもなく、謙虚で朗らかで元気いっぱいといったお人柄です。野々市「すし処 めくみ」の山口尚亨シェフとズッ友らしく、最高の食材を手に入れるために毎日車で能登半島を駆け巡っているそうな。
まずは一献、と、天狗舞で唇を湿らせます。ちなみに2020年5月における食べログの得点は4.73であり、シルバーメダルを獲得しています。きっかけは「カンテサンス」岸田周三シェフが絶賛したことであり、その後、ムッシュ渡部健などのフーディーたちが連続して褒め称えたことにより、一気にスターダムへと昇り詰めました。
まずは海そうめん。モズクをストレートにしたような海藻であり、天然の海藻で麺っぽくなるのは興味深い。味はまあ、海藻です。
目の前で削られたばかりのカツオを用いて取った一番出汁。なるほど旨い。クリアな上品な味わいです。なのですが、思いのほかテンポが良くないですね。ゲストの数に対して従業員はそれなりにいるはずなのに、料理と料理の間にディスタンスを感じました。
先のお出汁を用いたお椀。具材は氷見の小鯛。タイが美味しいですねえ。小鯛といいつつ気前の良いポーションなので、お椀というよりも魚料理としての食べ応えがありました。
よもぎ豆腐。摘んできたばかりのヨモギを用いており、独特のほろ苦さが乙な味。
お刺身はアオリイカにコチ。いずれも獲れたてのフレッシュなものであり美味しいのですが、どうにも派手さはなくインスタ映えない。
青バイ貝。シャクシャクっとした食感が楽しい貝。肝醤油をたっぷりつけて、お酒が進むお刺身でした。
氷見のノドグロ。ノドグロと言えばハリウッド映画的にドカーンと一発ヘヴィな味わいであることが多いはずなのに、当店のそれはどうにも素朴でコメントが難しい。あまり印象に残らない高級食材でした。
キュウリ・クラゲ・シイタケを胡麻和え(?)で冷製に。これはサッパリとして美味しいですねえ。ノドグロの強い脂を掻っ攫っていき、魅力的なリセットボタンでした。
トリガイの生と炙りを交互に。臭みは無くフンニャリと柔らかく美味。クレソンのピっとした味覚とスナップエンドウの青い味わいもグッドです。
揚げ豆腐。しみじみ系の炊き合わせです。ここでもやはり絹さやがグッド。当店は能登半島の魚がクローズアップされがちですが、私は野菜や山菜のほうが心に残りました。
お食事は富山コシヒカリ。え!もう終わり!?しかもこのシンプルな白米で!?オマケで氷見牛を炊いたものやお漬物などもありましたが、もうこれで終わりという事実に衝撃を受けこのあたりあまり記憶がありません。
お味噌汁はちょっと変わった風味を感じましたが、ファクターXが何かは分析できず。

お腹に余裕がある方のために、3種のゴハンを用意しているとのことなので、こうなったら全部もらっちゃうことにしましょう。
まずはマスのゴハン。超高級シャケ弁ともいうべきクリアな味わいのマスです。
玉ねぎゴハン。この玉ねぎは美味しいですねえ。吉野家のねぎだく肉抜きといった仕様ですが、甘味が強く奥行きがある味わいです。やっぱこの店は野菜が旨い。
平飼いの由緒正しいチキンの卵を用いたTKJ。濃密特濃といったわけではないのですが、実に上品で余韻がキレイな卵黄でした。
デザート1皿目は木の芽のアイス。抹茶味を大人に仕上げたような味わいであり美味しい。
コチラは金沢のイチゴを用いた苺大福。この苺大福はべらぼうに旨いですね。生地の味覚とその食感、存在感のあるイチゴ、気品あふれる能登の大納言。人生で一番美味しい苺大福でした。
抹茶で〆てごちそうさまでした。

日本酒をいくつか飲んで、お会計はひとりあたり4万円弱。うーん、高いです。都心ならまだしも、金沢の和食店では桁外れな価格設定と言えるでしょう。めちゃんこ苦労して予約取って飛行機とバスを乗り継いで来たのに、この費用対効果と食後感は何だかなあ。
いずれの料理もそれなりに美味しいですが、大食い・バカ舌の私にとってはシンプルで繊細すぎるきらいがあり、「究極の引き算」とも評される当店の味覚を精緻に取ることができませんでした。私とは目指しているベクトルが根本的に異なり、清純派女優とグラドルのどっちが好きかといった議論に似ています。どちらが正しいというわけではなく。
しかしながら、インフルエンサーに発見されヘリコプターでいきなり頂上まで連れて来られたニュアンスは否めません。ル・パンのようなシンデレラ感。それに追随するネット上の口コミが揃いも揃ってベタ褒めなのが不気味であり、SNSという訳のわからない化け物に評価が支配されています。
みんな5.0とか4.9とか4.8とか細かい点数をつけていますが、目を閉じて胸に手をあてて、本気でそう思っていると言えるのでしょうか。てゆーか50段階ってすごくない?私は冷房をフルパワーの18℃に設定するタイプなので、このあたりの繊細な刻み方はちょっとついていけないなと思った夜でした。


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