焼肉いぶさな/参宮橋

拾った電車の回数券で東京に行き、その時たまたま買った宝くじで2億円を当て、5年で全て食べ尽くしたという「美食の王様 来栖けい」が手掛ける焼肉屋。しばらく前に彼が主宰するフュージョン系「エキュレ」にお邪魔し強く心に残り、当店も食べログ4.15で百名店入りしているので期待は大きい。
焼肉屋というよりも北欧あたりのセンスの良いカフェのような内装。結構な広さなのですが、1日に2組しか予約を取らず、すべての肉を彼が責任をもってキッチリと焼いてくれます。店名は年間約10頭しか出荷されないブランド牛「いぶさな牛」から。
客単価が4万円前後の超高級店ではありますが、飲み物の価格設定は良心的。上質なクラフトビールが小瓶で780円と、小売価格に手数料を少し上乗せした程度でした。予約制で立派なボトルワインもお出し頂けるようで、その場合は「ボニュ」から事前に用意しておくんかな。
1番、センター、オオモモ。ムッシュ来栖が「しみじみ系」と評するモモ肉。これぞ赤身肉といった深みのある味わいであり、咀嚼するたびにジンワリと旨味が滲み出てきます。
ちなみに熱源は最高級の備長炭で鉄板は6kgもある特注品。肉を5対5の割合で焼くのは素人であり、当店は9.5対0.5の割合で焼き、1枚の肉に火入れのグラデーションをつけるとのこと。とにかくムッシュ来栖が愛情を持って焼肉に接しているのがビンビンに感じ取ることができ、そのような真剣勝負の中で食べるカイノミの味わいは格別である。
ミスジ。なるほど9.5対0.5の割合というのも納得で、表面はサクっと香ばしく、噛み進めるごとにジットリと肉の旨味が溢れ出てきます。「どれだけ待てるかが勝負です」と、眉間に皺を寄せる美食の王様。今度セルフで焼肉する時に試してみようっと。
サーロインは1.5cmの厚さと、本日のラインナップでは最も分厚いものでしょうか。サーロインと言えば脂がキツい印象ですが、こちらに限ってはきちんと赤身が美味しい。もちろん脂の旨味もグッド。
サラダはシンプルなものですが、葉っぱの一枚一枚に至るまで高品質。ところで「サラダはおかわりOK」とのことだったので、そうお願いしたのですが、お会計が思っていたよりも少し高かったので、2杯目は別料金だったのかもしれません。
ブリスケ。英語でいうブリスケット(brisket)であり、前股の内側にある肩バラ肉。牛丼屋でよく用いられる部位ですが、それとは全く別物。柔らかい割に妙にサッパリとした味覚が印象的。
ところで当店の焼肉は基本的に何もつけずに食べることが多いのですが、タレを使用する場合は唐辛子ベースのタレと醤油ベースのタレの2種。しっくりくす甘味を出すために、秘密の食材を溶け込ませています。
三角バラはいわゆる「特上カルビ」。お好み焼きのコテのような武器を用いてギュっと焼き目を付けていきます。
マエスネ。すね肉なのかなあ、だとしたら焼肉で食べるのは初めての部位です。食感が独特で肉の味が強く、興味深い味わいでした。
ライスが旨い。取り立てて説明はありませんでしたが、あのギークなムッシュ来栖であろうから、とことんこだわり抜いたものなのでしょう。ジャスミンライスのように米の香りが高いものであり、品の良い甘さがバッチグーです。
リブロース。やはり欧米系のステーキ屋で食べるものとは全く異なる印象であり、焼肉とステーキは別物だと感じます。
ハバキ。大腿骨筋に巻き付いている部分であり、赤身主体の「しみじみ系」。
鉄板の上で直立不動する丸腸。コッテリとした脂にガシガシとした繊維(?)の食感が印象的です。
ステークアッシュ(STEAK HACHE)すなわちフランス風のハンバーグステーキです。つなぎなどは入っておらず牛肉100%であり、タレにジャブジャブに浸して頂きます。余計なものが入っていないクリアな肉をライスの上でワンバンさせる歓びといったらない。
ザブトン。巷の焼肉屋では「薄くて脂っぽい割にたけえなあ」という印象が強い部位ですが、当店のそれはやはりキッチリと肉の味が感じ取れます。
ハラミ。つい先日コロナセールでナイスな鉄板焼きハラミを頂いたところですが、それとはまた違った上質な味わい。サクサクとした食感がクセになる。
イチボ。お尻のあたりの柔らかい部分。しっとりとした口当たりであり、実に円やか。
シキンボ。後ろ足の外側部分。マッチョな噛み応えであり濃厚な赤身の味わいが堪りません。
サーロイン再登板。今回は薄いカットでの提供であり、さっぱりとしたすき焼きを食べているような感覚。同じ肉でも切り方で味わいは変わるのだ。焼肉の終盤って満腹で惰性っぽくなることが多いですが、ひとつひとつシッカリと爪痕を残していくのが凄い。
〆は1.5cmの厚さにカットされたシャトーブリアン。ヒレ中のヒレといった柔らかさであり、サクサクと小気味良く歯が刺さっていきます。バリっと付けた焼き目も食欲をそそる。最後の最後で「食欲をそそる」だなんて恐ろしい子。
食後は凍頂烏龍茶のシャーベットでサッパリ。ごちそうさまでした。

お会計はひとりあたり3.7万円。単一の焼肉という意味では目を剥くような価格設定ではありますが、ひとりあたり400グラムの肉を食べている計算であり、その量ならびに質を加味すれば納得の食後感です。私は焼肉という料理(?)をあまり好まないのですが、その私ですら当店の存在意義というものは嫌というほど身に沁みました。

多目的な料理で誤魔化すことは一切なく、正統的な焼肉の楽しみ方を突き付けるお店。インスタ映えとは無縁なので、真面目なグルメ仲間と丁寧に向き合って楽しみに行きましょう。なに、世界トップクラスの焼肉がこの値段で食べることができると思えば安いものである。

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それほど焼肉は好きなジャンルではないのですが、行く機会は多いです。有名店で、良かった順に並べてみました。
そうそう、肉と言えばこの本に焼肉担当として私のコメントが載っています。私はコンテンポラリーフレンチやイノベーティブあたりが得意分野のつもりだったのですが、まあ、自分の評価よりも他人の評価が全てです。お時間のある方はご覧になってみて下さい。