木村泉美シェフはもともと建築・設計関連の仕事に就いていたのですが、鮨好きが高じて独学で鮨の道に入り独立開業。月の大半を海外で過ごし、世界的な料理人とのポップアップイベントも数多く手掛けるなど、いわゆる伝統的な鮨職人の斜め上の視点です。
アルコールはビールや日本酒などを頂いたのですが、いずれも1杯千円かそこらでしょう。「ウチは街の鮨屋なんで!」とざっくばらりとした雰囲気の大将。ゲストに対する気遣いがあり、フランクで楽しい雰囲気の鮨屋です。
まずは越中バイ貝。スダチをギュッと絞り、旨味の強い塩でバリっと頂きます。コリっとした歯ごたえも良く、素敵な導入です。
さっそくにぎりが出てきました。プリっと弾けるような食感のエビ。シャリが特徴的で、ギリギリに精米し直前に炊いて赤酢に混ぜて仕上げるそうな。米の一粒一粒に存在感がしっかりとあります。
海老を紅白で。左は富山の名物「白海老」。フレッシュながら舌に吸い付くような甘味があります。
カワハギ。ネギトロのようなミンチ上のものを肝で和えています。シャリとタネの量が反転しているのではないかと心配するほどの頭の大盛であり、味の濃い海苔と共に思わず笑みがこぼれます。
「梅酢餡の茶碗蒸し」。具の無いシンプルな生地に梅酢餡が注がれており、コチョコチョと混ぜてグイっと飲むように食べます。なんでも富山の湧き水を用いて作っており、毎週律儀に汲みに行くのはもちろんのこと、イベントの際にも連れていくそうな。
アジのたたき。まさに健康優良児といった元気いっぱいの噛み応えであり、派手な味付けについつい酒が進みます。ところで昼夜2回転づつをこなすだけあって、大将のにぎりと厨房の連携が完璧。チャッチャカチャッチャカとタイミングよく皿が出てきます。
オニカサゴ。フレッシュで透明感のある味わい。しかしやはり弾力は強く、しっかりと魚を食べているという実感があります。
アオリイカ。細かく細かく包丁が入っており、トロトロと水のような喉越しです。くちどけが見事で口腔内にへばりつき甘味が強調されました。
小丼はシャリにズワイガニを混ぜ込み、ウニとイクラを重ね合わせます。これは当然に旨い多重奏であり、これを不味という人間は極刑に処せられます。
ヒラメは昆布締めされているのですが、しっかりと弾力は残っています。私は料理に食感を求める主義なので、このあたりの魚はガチタイプです。
前述の白海老をコノワタ(ナマコの内臓の塩辛)で和えたものに、ホタルイカのジャーキー。日本酒乾燥機とも言うべき1皿であり、左党には堪らない逸品です。
クロムツ。うおー、これはめちゃんこ旨いですねえ。どでかいサイズにホロホロと崩れる身のこなし、焼き目の香ばしさ。本日一番のにぎりです。
サクラマス。このあたりの名産が続きます。味が濃く迫力のある味覚です。
鰻の白焼き。「さっき捌いたものを焼いただけ」とのことですが、東京のダレた蒸し鰻とは丸で別の食べ物です。バリっ、ザクッ、ジュワ!
サワラは燻製にかけたのか、ハムのような仕上がり。プイィ・フュメとか合いそう。ギョクはバームクーヘンのような重層が特徴的。
大トロは和歌山産。王道中の王道といった味わいです。
このあたりではコハダは獲れないとのことで、マイワシ。程よい締まり具合であり、適度な脂の強さもあって私好み。
鉄火巻き。シャリは少なく海苔とマグロの味覚が支配的であり素直に美味しい。
カサゴとノドグロのしゃぶしゃぶ。うーん、美味しい。程よく熱を通したおかげか甘味が増し、食感にもグラデーションが生まれています。鬼おろしや木の芽のアクセントもすごくいい。
ノドグロのネギマにズワイガニのにぎり。先のしゃぶしゃぶはメスですが、こちらの焼き鳥風では脂が強いオスを用いています。ジューシーで猛々しい脂が堪らない。
かぶす汁。富山の郷土料理とも言うべきごった煮エスプレッソです。魚の骨と血を水だけでひたすら煮詰める、日によって材料によって味の異なるスープ。まさに海の幸を凝縮した味わい。これに麺をぶち込んだだけでラーメン業界を制圧できそうな暴力的な魅力があります。
ラストは穴子。とろとろとしたアタックではありますが、噛み応えをきっちりと残した絶妙な食感です。ツメの調味も強く私好み。
デザートは塩ミルクのジェラートを最中で挟みます。この最中が抜群に美味しい。米の香がプンプンに漂い、まるでおせんべいを食べているかのような、記憶に残る味わいでした。
食後にお出し頂いたお茶。くわー、これは甘い。砂糖の甘さではなく、お茶本来のピュアな甘味が詰まっています。その辺の寿司屋の雑なアガリとは次元の異なる液体であり、強く意志を感じました。
オマケで二番茶をコールドで頂いてご馳走様でした。以上、一通りを食べて所要時間は1時間!速い!新幹線の予約を慌てて前倒ししました。お会計は2万円強と銀座の半額最高か。
味やテンポの良さもさることながら、大将の雰囲気も素敵ですね。思わずアニキと呼びたくなる格好の良いオヤジであり、革ジャンが似合いそう。気さくに声をかけてくれるのですが、手は仕事を継続しており曲芸に近いスループットを誇ります。一方で、映画を早回しで観ているかのようなスピード感であり、いきなり本番が始まって終わってしまったような感覚は拭えないので、人によっては情緒が無いと感じてしまうことでしょう。
勿体ぶらずに旨い魚をひたすら貪り食う、それぐらいの腹積もりでお邪魔すると良いかもしれません。気の置けない仲間同士でどうぞ。
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鮨は大好きなのですが、そんなに詳しくないです。居合い抜きのような真剣勝負のお店よりも、気楽でダラダラだべりながら酒を飲むようなお店を好みます。
- すし匠/ワイキキ ←このお店の真価が問われるのは数十年後のはず。
- 照寿司(てるずし)/北九州 ←世界で最も有名な鮨職人。
- すし宮川/円山公園(札幌) ←人生でトップクラスに旨い鮨。
- 鮨とかみ/銀座 ←赤酢のシャリが印象的。
- 鮨さいとう/六本木一丁目 ←価格設定に色々と考えさせられる。
- 東麻布天本/赤羽橋 ←欅坂46のような鮨。
- らんまる/不動前 ←鮨の入門編として最適。
- 紀尾井町 三谷/永田町 ←単純計算で年間3億円近い売上。恐ろしい鮨屋。
- 鮨 猪股(いのまた)/川口 ←にぎりのみの男前鮨を喰らえっ!
- 鮨舳/瓦町(高松) ←真っ当な江戸前。銀座の半額で何度でも通いたい。
- 天寿し/小倉 ←何度でも行きたいし、誰にでもオススメできるお店。
- 鮨 安吉/博多 ←お会計は銀座の半額。ミシュラン2ツ星は荷が重いけれども、この費用対効果は魅力的。
- 鮨 一幸(いっこう)/すすきの ←真摯に鮨に取り組む好青年。
- ひでたか/すすきの ←鮨は好きだけどオタクではないライト層にとっては最高峰に位置づけられるお店。
- 鮨 志の助/新西金沢 ←とにもかくにも費用対効果が抜群すぎる。
- 小松弥助/金沢(石川) ←「まごころでにぎる」を体現する鮨屋。
- 太平寿し/野々市(石川) ←金沢の人が東京で鮨を食べると頭から湯気を出して怒るに違いない。
この本は素晴らしいです。築地で働く方が著者であり、読んでるうちに寿司を食べたくなる魔力があります。鮮魚の旬や時々刻々と漁場が変わる産地についても地図入りでわかりやすい。Kindleとしてタブレットに忍ばせて鮨屋に行くのもいいですね。