おぎ乃/赤坂

ミシュランガイドの発刊以来3ツ星を取り続けている奥田透シェフの右腕が赤坂で独立。荻野聡士シェフは高校卒業と共に「嵐山吉兆」に入り、その後「銀座 小十」で経験を積み、姉妹店である「銀座 奥田」のシェフを務めたというバリバリの経歴です。
ちなみにシェフの兄ちゃんは「のんき」グループの荻野貴匡社長であり、父ちゃんはムッシュ片岡鶴太郎という華麗なる一族。
新店らしくピッカピカな内装で目が冴えます。芸術家でもある鶴ちゃんの絵も飾られていました。「まずは一献」と、シェフ自らお酒を注いでくださいました。徳利に菖蒲をぶっ刺した菖蒲酒で端午の節句をナイスゴーさせます。
暖かくなってきたので冷製のすり流しでスタート。ホワイトアスパラガスの濃密な甘味にトマトの爽やかな酸味が良く合います。
毛ガニとバフンウニがタッグを組み、もうこの勢いはやめられない止まらない。非常にわかり易く単刀直入な1皿であり、この料理に文句をつける輩は極刑に処す。
お椀は削りたての鰹節の一番出汁で。格調高い香りであり口をつける前から美味しさが伝わってきます。具材はアイナメ。スープに負けない強い魚の風味。加えて底を支えるヨモギの葛豆腐(?)に隠し切れないプロの腕前を感じました。
酒も安い。きちんとメニューが用意され、生ビールは800円、日本酒もたっぷり入って千円~です。
お刺身は猛者海老、コチ、イカ。「猛者海老(モサエビ)」は山陰地方で揚がる幻の海老だそうで、見た目も強そうであり、味わいもマッチョ。鉄分なのか何なのかミネラルを感じる個体です。
すぐそこで炙られるカツオのタタキ。食欲をそそる香りであり、分厚くザクザクとした食感もお見事。地味にタレもめっちゃ旨い。
ノドグロは炭で炙って香り良し。歯ざわりに弾力を感じ味蕾では凝縮感が躍動する。こんなに美味しいノドグロはなかなかありません。コロナ禍ならではの出物である。
シーズンが始まった鮎。アタマにのせているのはキュウリであり本体と共に爽やかな味覚です。
焼物は太刀魚。4キロの特大サイズであり、厚みというか高さというか、こんなに圧の強い太刀魚は初めてです。それでも身質はフンワリとエアリーであり美味。アオサの餡(?)も印象的な演出です。
ここに来て派手な八寸が登場。湯葉の冷製茶碗蒸しに奄美のもずく酢、タイラガイ、貝の出汁の何か(忘れた)、タイのチマキ、煮ダコに卵黄主体の厚焼き玉子。何とも美しい盛り込みであり、食べてもナイス。お酒が進みます。
追加トッピングでハマグリを揚げたもの。衣はオカキ的な何かであり、ノスタルジックな味わいの奥にジューシーなハマグリと、得難い美味しさがここにはあります。
宮崎の尾崎牛。ただのデブな和牛とは一線を画し、赤身の旨味が伝わるお肉です。バリっと焼き目をつけたタケノコを携え、ふんわりと泡立てた卵のソースを流しかけ、当店流のすき焼きとして頂きます。これは旨い。以上。我が語彙の貧弱さを呪う1皿です。
フィナーレへ向けてがんもどき。基本に忠実、心温まる味覚です。
料理長ならびに副料理長(彼女も「奥田」からの卒業組)はラストのメシに思い入れがあるらしく、なんと2種類も用意してあるとのこと。コチラの具材は伝助穴子。穴子の迫力はもちろんのこと、熱の通ったタマネギも名脇役。
コチラはアワビ。お茶碗に盛ってもらう際には肝のソースがたっぷりと注がれ、炭水化物であるにも関わらず酒が進みます。いずれも主役級のお食事であり、食いしん坊には堪らない仕組みでした。ところでこの器かっこええな。
デザートは胡麻のブランマンジェ。見た目は地味ですが、これ、物凄い胡麻の香りがするんです。胡麻よりも胡麻の香りがする。外人に食べさせればアメイジングと叫ぶに違いない。アイデア賞なお皿でした。
続いて「天使音(あまね)メロン」。小ぶりで見てくれはイマイチらしいのですが、味は抜群。極限まで熟したメロンであり、まるで蜜を吸っているかのような味わい。蜜です。
で〆る。東南アジアのどこかの村の特産品のような味わいのお茶は「阿波晩茶」。徳島県の特産品である乳酸菌発酵茶であり、興味深い〆でした。

お腹いっぱい食べ、そこそこ飲んでお会計は3万円ポッキリ。うおー、これはベリーナイスな費用対効果ですねえ。「銀座 小十」も見事な食後感ですが、当店はその上を行く幸せを感じました。帰り道にオーディオブックで割と暗い系の小説を聴いていたのですが、その内容が全く頭に入って来なかったほどの多幸感です。

「のんき」グループは好きだし、何より私は小学生時代に原宿の鶴ちゃんショップで彼のボクサー姿のペンケースを買っていたレベル。この家系とは遺伝子レベルで相性が良いのかもしれません。今月のスマッシュ・ヒット。赤坂にミラクルな店が爆誕しました。オススメ!


食べログ グルメブログランキング

関連記事
和食は料理ジャンルとして突出して高いです。「飲んで食べて1万円ぐらいでオススメの和食ない?」みたいなことを聞かれると、1万円で良い和食なんてありませんよ、と答えるようにしているのですが、「お前は感覚がズレている」となぜか非難されるのが心外。ほんとだから。そんな中でもバランス良く感じたお店は下記の通りです。
黒木純さんの著作。「そんなのつくれねーよ」と突っ込みたくなる奇をてらったレシピ本とは異なり、家庭で食べる、誰でも知っている「おかず」に集中特化した読み応えのある本です。トウモロコシご飯の造り方も惜しみなく公開中。彼がここにまで至るストーリーが描かれたエッセイも魅力的。