店内はカウンターが数席にテーブルがいくつか。20席も無い小さなお店です。水岡孝和シェフは西麻布「A-Jun」、三田「御田町 桃の木」などで経験を積んだ後に台湾へ。帰国後「黒猫夜」や「蓮香」を経て独立。
ハートランド生が700円と良い価格設定。その他の酒も千円以下であり、ボトルのワインも3千円台からと、予約の取れない飲食店としては実に謙虚な価格設定です。
豪華な前菜盛り合わせに嬌声があがる。聞いたことのない料理名が続き私のメモリをオーバーしてしまい、正確な料理名を記すことができません。左下のカツオのレモンの皮をたっぷり使った斬新なソース、ならびに左上のナマコをよだれ鶏風にしたものが特に心に残りました。
続いて中華風のシャルキュトリ盛り合わせ。手前は羊のソーセージ。様々な部位がミンチされハーブやスパイスと共にエスニックな味わい。中央の豚の台帳のネギ詰めはバリバリのホルモン臭で好みが分かれるかもしれません。奥の鴨の舌の燻製は黒猫夜でもおなじみの逸品。
たっぷりのタケノコとワカメに金華ハムのスープ。日本人にとって馴染み深い食材であるはずなのに、シェフの手にかかれば接したことのない中華料理に早変わり。
海老のさつま揚げ的なものに揚げたバジルを大量トッピング。鮮やかなグリーンにパリパリとした食感、ふわりと香る青い香りがたまりません。海老よりもバジルが目立ってしまうという稀有な作品。
こちらはスッポン。やはりスッポンそのものよりもハーブやスパイス類に目が行き、モヒートもかくやというほどミントの葉が用いられています。日本人の語彙では表現しづらい複雑性を湛えた調味。この皿はスッポン料理界でひとつの頂点にあると言って良いでしょう。
メインはラム肉。発酵リンゴや豆などを多用した謎の調味であり天才的な発想。不思議な味わいですがとにかく旨い。それに尽きる。キンカンの使い方も心憎い。
〆の麺にはビーフン。こんなぶっといビーフンがあるんやな。食べ応えも見た目のままで、良い意味でゴムのような屈強な歯ごたえが存在します。ハマグリとそのスープの上品な味覚がするすると胃袋を押し広げ、たっぷりの海苔が磯の香りを引き立てます。
デザートは杏仁豆腐にリンゴのシャーベットと桃のジュレ。杏仁豆腐のトロトロとして舌触りに濃密な甘味がシャーベットの爽やかさと対比してグッド。桃のジュレはいわゆる一般的なゼリーよりも弾力が強く面白かった。
台湾の紅茶で〆てごちそうさまでした。
素晴らしい、何も言うことは無い。本当に美味しい。中華料理といえば辛い料理を思い浮かべがちですが、決して辛いわけではなくとにかく複雑で奥行きがある。麻薬的。ハーブとスパイスの政党があればシェフは幹事長クラスには出世するのではなかろうか。
関連記事
それほど中華料理に詳しくありません。ある一定レベルを超えると味のレベルが頭打ちになって、差別化要因が高級食材ぐらいしか残らないような気がしているんです。そんな私が「おっ」と思った印象深いお店が下記の通り。
- チャイナハウス龍口酒家(ロンコウチュウチャ)/幡ケ谷 ←東京の10,000円以下の中華だとダントツ好き
- センス(Sense)/日本橋 ←あれだけ香港に通い詰めた結果、日本の飲茶が一番とは実に複雑な心境
- 南方中華料理 南三(みなみ)/四ツ谷 ←素晴らしい、何も言うことは無い
- 中華バル 池湖(いけこ)/渋谷 ←度を越した費用対効果
- 倶楽湾(クラワン)/田町 ←あの水煮牛肉の美味しさは確か
- 味覚/虎ノ門 ←世界一辛い麻婆豆腐
- 飄香/麻布十番 ←十番のランチではトップクラス
- チャイニーズレストラン直城/高輪台 ←空間の居心地の良さや総体的な美味しさには価値がある
- 紫玉蘭/麻布十番 ←税込800円は神のなせる業
- Mott 32(卅二公館)/中環(香港) ←この中華料理はちょっと東京には無い
- Lung King Heen(龍景軒)/中環(香港) ←総合力という意味では香港における飲茶で私的ナンバーワン
- 蓮香居(Lin Heung Kui)/上環 ←好きなものを好きなだけ食べているのにも関わらず、ひとりあたり1,000円と少しという驚異の費用対効果
- 唐閣(T'ang Court)/尖沙咀(香港) ←3ツ星の料理がこの価格帯で楽しめるのは実にリーズナブル
- Shang Palace(香宮)/尖沙咀(香港) ←ミシュラン星付きの飲茶でこの値段ならまあまあ
- 杭州酒家(Hong Zhou Restaurant)/湾仔 ←1杯3,000円の蟹味噌あんかけ麺