店内はゆとりのあるカウンター席が7~8つにお座敷も8席ほど。デートにも、男同士でも家族でも、色々な使い方ができそうです。全体的に店構えのセンスがすごくいいですね。大都市の最先端の金のかかった鮨屋と同等かそれ以上の風格がありました。
生ビールは7~800円と、ミシュラン星付きレストランとしては良心的な価格設定。ビールの後は日本酒をいくつか頂いたのですが、富山の地酒が勢ぞろいであり旅行者にとってはテンアゲの瞬間です。
大門太郎シェフは小樽や札幌の鮨屋で修業し、帰郷して「鮨 大門」を開業。外連味なく実直なお人柄で私のモロタイプな性格です。女将さんの雰囲気も素敵であり、食べる前からこれは良いお店だと確信。
まずは魚津産のヒラメ。そう、富山湾は「天然の生け簀」とも呼ばれており、そのリッチな漁場からダイレクトに魚をゲットできる魚津港は目と鼻の先。美味しくないわけがありません。
マグロの赤身に生のニシン。いずれもヅケにしてあります。マグロの美味しさはご覧の通り。生のニシンのヅケは初めて食べるかも。想像以上にコッテリと脂が強くブリに似た印象を持ちました。
白エビにバフンウニ。地元の食材が連チャンされるのが良いですねえ。ネトネトと艶っぽい甘味を感じる一方でフレッシュでもある白エビ。バフンウニは適量を調味料のように用いています。「白えび亭」も悪くないですが、やっぱりこういう風に背筋を伸ばして食べたいな。
生のカラスミにサクラマスの卵の味噌漬け。おー、これもやばたんまるな旨さです。言葉にできない美味しさとはこの珍味のためにあるのかもしれない。凝縮感に溢れ旨味の密度が濃い。日本酒の速度が一気に高まった瞬間です。
とらふぐ白子をバリっと炙り、火で固まった外皮はまるで薄い薄い生地のよう。箸を入れるとミルキーな旨味がドバーと溢れ出る。のちのドーバー海峡である。じっくりと蒸したアワビも魚津産。富山湾は本当に何でもあるなあ。仮に世界が終わっても、富山湾さえあれば人類は平和に暮らせるような気がしました。
甘鯛に空豆。甘鯛はツマミというよりも食事と呼ぶに相応しいポーションであり、その辺の弁当のメインディッシュよりも大きいくらいです。付け合わせのラディッシュは漬物になっているのか、酸味がきいて美味しかった。
椀物という扱いでしょうか、これまた大量のアイナメが品の良いスープに浸かってやってきました。箸でホロりと崩して恵比須顔。こんがり焼いたネギも香ばしい。
にぎりに入ります。まずは真鯛。筋肉質でムキムキした食感。シャリは1年寝かせた魚津産コシヒカリの古米を用いており、やはり地元の魚との相性が良いのでしょう。テレビ番組であれば「テロワール」と大きくテロップが出たかもしれません。
さっそくお味噌汁が出てきました。海藻がたっぷりのアツアツバージョン。当店のように握りの序盤にアツアツを出して、冷ましながら自分のペースで飲むという仕組みはありそうでない。
剣先イカ。程よい細かさに包丁が入っており、適度な歯ごたえと喉越しを楽しむことができます。
他方、ホタテは髪の毛のように細く包丁が入っており斬新な仕様。個人的にはホタテの歯ごたえが好きなのですが、これはこれでありよりのありでしょう。
アジ。やはり筋肉質な個体であり、アジそのものの味も濃い。少し水分が抜けたニュアンスのシャリともよく合う。
おや、これは珍しい、生のシャコです。ネットリと舌ざわりにエビのようなセクシーな甘味。これに火を通せばカニみたいな味になるんだから、シャコとはまことに不思議な節足動物である。
本ズワイガニ。カニそのものの濃密な味わいはもちろんのこと、トップを飾るカニミソのビターな味わいもすごくいい。
佐渡のマグロ。ほえー、この辺ってこんなにコッテリしたマグロ獲れるんだ。意外にも酸味が強く、バランス感覚のあるにぎりでした。
サクラマス。富山と言えばお土産で貰う「ます寿司」が有名ですが、それとは全く印象の異なる繊細な味わいです。とにかく香りが良く旨味もあり、アタックの強いタネでした。
日本海の真打登場、ノドグロです。辛うじて形は保っていますが、口に含んだ途端にジュブジュブと溶けていく。
アナゴもノドグロに負けじとホロホロ仕立てです。タレの調味が結構ハッキリしており私好みでした。
〆は北海道のウニ。「やはり値段が下がっている」とのことで、爆盛り仕立てです。海苔の量もたっぷりであり、巻物というよりもウニと海苔のツマミを食べたなという印象。
追加でカンピョウ。正統的な味わいで心が温まります。あと、今更ですが、このシャリ、好きかも。粒のひとつひとつに存在感があって噛みしめるたびにしみじみと旨い。
デザートの自家製プリンが地味に旨い。そのへんのデパ地下スイーツを凌駕する味わいであり、バケツサイズでテイクアウトしたいほどの美味しさでした。
以上を食べ、ビール1杯に2合を飲んでお会計は1.7万円。銀座の半額で味と居心地の良さはそれ以上。やっぱり地元のお魚を中心に出してくれるのが嬉しく、また、費用対効果にも貢献しているのでしょう。豊洲の魚は世界中の飲食店との奪い合いで否が応でも割高になる。東京の鮨はもうオワコンなのかもしれません。一方で、東京の調子に乗った店にもある程度通わないと地方の良さに気付けない。今後の鮨戦略について色々と考え込んでしまった一夜でした。
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鮨は大好きなのですが、そんなに詳しくないです。居合い抜きのような真剣勝負のお店よりも、気楽でダラダラだべりながら酒を飲むようなお店を好みます。
剣先イカ。程よい細かさに包丁が入っており、適度な歯ごたえと喉越しを楽しむことができます。
他方、ホタテは髪の毛のように細く包丁が入っており斬新な仕様。個人的にはホタテの歯ごたえが好きなのですが、これはこれでありよりのありでしょう。
アジ。やはり筋肉質な個体であり、アジそのものの味も濃い。少し水分が抜けたニュアンスのシャリともよく合う。
おや、これは珍しい、生のシャコです。ネットリと舌ざわりにエビのようなセクシーな甘味。これに火を通せばカニみたいな味になるんだから、シャコとはまことに不思議な節足動物である。
本ズワイガニ。カニそのものの濃密な味わいはもちろんのこと、トップを飾るカニミソのビターな味わいもすごくいい。
佐渡のマグロ。ほえー、この辺ってこんなにコッテリしたマグロ獲れるんだ。意外にも酸味が強く、バランス感覚のあるにぎりでした。
サクラマス。富山と言えばお土産で貰う「ます寿司」が有名ですが、それとは全く印象の異なる繊細な味わいです。とにかく香りが良く旨味もあり、アタックの強いタネでした。
日本海の真打登場、ノドグロです。辛うじて形は保っていますが、口に含んだ途端にジュブジュブと溶けていく。
アナゴもノドグロに負けじとホロホロ仕立てです。タレの調味が結構ハッキリしており私好みでした。
〆は北海道のウニ。「やはり値段が下がっている」とのことで、爆盛り仕立てです。海苔の量もたっぷりであり、巻物というよりもウニと海苔のツマミを食べたなという印象。
追加でカンピョウ。正統的な味わいで心が温まります。あと、今更ですが、このシャリ、好きかも。粒のひとつひとつに存在感があって噛みしめるたびにしみじみと旨い。
デザートの自家製プリンが地味に旨い。そのへんのデパ地下スイーツを凌駕する味わいであり、バケツサイズでテイクアウトしたいほどの美味しさでした。
以上を食べ、ビール1杯に2合を飲んでお会計は1.7万円。銀座の半額で味と居心地の良さはそれ以上。やっぱり地元のお魚を中心に出してくれるのが嬉しく、また、費用対効果にも貢献しているのでしょう。豊洲の魚は世界中の飲食店との奪い合いで否が応でも割高になる。東京の鮨はもうオワコンなのかもしれません。一方で、東京の調子に乗った店にもある程度通わないと地方の良さに気付けない。今後の鮨戦略について色々と考え込んでしまった一夜でした。
関連記事
鮨は大好きなのですが、そんなに詳しくないです。居合い抜きのような真剣勝負のお店よりも、気楽でダラダラだべりながら酒を飲むようなお店を好みます。
- すし匠/ワイキキ ←このお店の真価が問われるのは数十年後のはず。
- 照寿司(てるずし)/北九州 ←世界で最も有名な鮨職人。
- すし宮川/円山公園(札幌) ←人生でトップクラスに旨い鮨。
- 鮨とかみ/銀座 ←赤酢のシャリが印象的。
- 鮨さいとう/六本木一丁目 ←価格設定に色々と考えさせられる。
- 東麻布天本/赤羽橋 ←欅坂46のような鮨。
- らんまる/不動前 ←鮨の入門編として最適。
- 紀尾井町 三谷/永田町 ←単純計算で年間3億円近い売上。恐ろしい鮨屋。
- 鮨 猪股(いのまた)/川口 ←にぎりのみの男前鮨を喰らえっ!
- 鮨舳/瓦町(高松) ←真っ当な江戸前。銀座の半額で何度でも通いたい。
- 天寿し/小倉 ←何度でも行きたいし、誰にでもオススメできるお店。
- 鮨 安吉/博多 ←お会計は銀座の半額。ミシュラン2ツ星は荷が重いけれども、この費用対効果は魅力的。
- 鮨 一幸(いっこう)/すすきの ←真摯に鮨に取り組む好青年。
- ひでたか/すすきの ←鮨は好きだけどオタクではないライト層にとっては最高峰に位置づけられるお店。
- 鮨 志の助/新西金沢 ←とにもかくにも費用対効果が抜群すぎる。
- 小松弥助/金沢(石川) ←「まごころでにぎる」を体現する鮨屋。
- 太平寿し/野々市(石川) ←金沢の人が東京で鮨を食べると頭から湯気を出して怒るに違いない。
この本は素晴らしいです。築地で働く方が著者であり、読んでるうちに寿司を食べたくなる魔力があります。鮮魚の旬や時々刻々と漁場が変わる産地についても地図入りでわかりやすい。Kindleとしてタブレットに忍ばせて鮨屋に行くのもいいですね。