内装は北島亭とは丸っきり異なり、鮨屋のカウンターのような誂えです。大きな身体から愛嬌たっぷりに発せられる大きな語り口が楽しい。常連にも一見客にも分け隔てなく接してくれ、小倉「照寿司(てるずし)」に近い昂奮を覚えました。
最初にバター茶。アールグレイに塩やバターを加えた液体で内臓を温め、今後迫り来る津波のような量に備えます。そう、当店は北島亭のエスプリを引き継ぎとにかく量が多いことでも評判です。
ドリンクメニューに細かく値段は記載されていませんでしたが、逆算するに恐らく1杯千円かそこらでしょう。ボトルワインも1万円を切るものが多く、銀座のおフランス料理としては控えめな価格設定です。
名刺代わりに差し出される1品。グジェールの生地にホタテやホタルイカをたっぷり挟み込み、卵黄とキャビアをトッピングします。これはもう、反則級の美味しさですね。皿に盛り付ければ立派な1皿になるものをフィンガーフードにしてしまう気前の良さ。
生ウニのコンソメゼリー寄せ 。北島亭ラヴァーであれば誰もが愛するスペシャリテですが、当店は大石大将流にテーラリングされており、アワビやボタンエビが加わるなどパワーアップ。素材が華やかになった分、その素材の良さを活かすためかコンソメの旨味は控えめです。それにしても豪華な料理だ。ホテルのレストランならこれだけで3,800円を請求されても文句は言えません。
「とにかく量が多い」と方々から脅されていたので、パンは味わうというよりはソースを拭う用途にしか用いませんでした。
トロカツオにレフォール(西洋わさび)。シャリ(?)には25年熟成のバルサミコ酢を用いており、カツオの脂質とバルサミコの爽やかさが程よくマッチしています。
スッポンのコンソメ。素朴な一皿ですがスッポンの美点を最大限引き出しています。辛うじて形を保っている小カブを少しづつ崩しながら立体的なスープへと変化します。
八寸は青首鴨のテリーヌ、菜の花、野菜のゼリー寄せ、毛ガニのサラダ。見目麗しく、それぞれきちんと美味しく、量も多い。特に青首鴨のテリーヌがいいですねえ。野性味溢れる逞しい肉をベリークリアに仕上げています。
「しのはら」よろしく助手より最中が手渡されます。 中身はフォアグラのムースにキンカンのコンポート。アクセントにチョコレートではなくカカオニブを用いているのが心憎い。グランマルニエ(オレンジのリキュール)の香りもセンスが良い。
エスカルゴを日本流にサザエで用意します。中にはサザエの身だけでなくシイタケやタケノコも。たっぷりのバターが見た目ほど濃くないなと思ったのですが、なるほどハマグリの出汁で伸ばしてケインにならないようにしているとのこと。
お魚は根室産のキンキ。なのですが、バックに控えるホワイトアスパラガスの存在感がやばたんまる。これはもう、魚料理というよりもアスパラ料理です。ソースにはタケノコを多用しており、木の芽の風味もベストマッチ。
こちらも北島亭のDNAを引き継ぐラム肉。手前の脂身が無いバージョンは岩塩パイで包んでじっくりと時間をかけて火を通します。実に清澄な味わいであり、ブラインドで食べればラムだと答えられないかもしれません。他方、奥の骨付き部分はたっぷりと脂がのっており、肉というよりも脂の香りと甘味を楽しむ1品。香草パン粉やマスタードを用いて脂っぽさを中和します。
こちらも古巣へのオマージュでしょうか、お口直しにスイカのジュースにシャーベット。
肉料理2皿目は飛騨牛のランプ肉。厨房の奥にDJブースのような焼き台が備え付けられており、そちらの炭火で丁寧に丁寧に焼かれていたものです。表面はちょっぴり焦がしており食欲をそそる香り。肉そのものは語幹や見た目よりも軽やかな味わいであり、赤ワインがゴクゴク進みます。付け合わせのポテトグラタンなど、何でもない料理が美味しいのが本物の証拠です。
オマール海老を先の焼き台で焼き、大きな土鍋で炊いたゴハンに放り込みます。ほぅーらほらほらエビだよーん。
もう少し調理を加え、ブイヤベース風味のリゾットが完成しました。タレの美味しさはもちろんのこと、追加で加えられたボタンエビの甘味が強烈。オマールのツメの部分はフライにされており、〆のお食事ながら何とも手の込んだ1品です。
ゴハンものがもう1皿。〆のカレーです。小麦やバターなどを用いておらず、素材の旨味や出汁のみを用いたもの。意図的に調味を控えているためか、これまでのパワー系料理に比べると若干物足りなさを感じました。個人的には手綱を緩めず駆け抜けて欲しかったです。
デザートはイチゴのミルフィーユ。目の前でパイが焼かれカットされクリームとイチゴに順々に挟み込まれていくライブ感が楽しい。前任地のデザートはとにかく素朴で話題でしたが、やはり甘味は見た目も味も派手な方が私は好きです。
ハーブティーで内臓を労い、ごちそうさまでした。
お会計は3.5万円ほど。これだけの質の多量多皿コースを食べて、それなりに飲んでこの支払金額はリーズナブル。オープンキッチンのフランス料理屋は多いですが、ここまで客にガンガン絡んでいく芸風のフレンチは斬新。大将の愛されキャラも含め、他所ではなかなか真似できない芸当でしょう。従業員同士の仲が良さそうなのも見ていて気持ち良い。自分が働くならこういう職場だなあ。告るデートとかではなく、大食いの友達とワイワイ楽しみにいきましょう。オススメ!
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「好きな料理のジャンルは?」と問われると、すぐさまフレンチと答えます。フレンチにも色々ありますが、私の好きな方向性は下記の通り。あなたがこれらの店が好きであれば、当ブログはあなたの店探しの一助となるでしょう。
- ガストロノミー ジョエル・ロブション ←最高の夜をありがとう。
- アピシウス ←東京最高峰のレストラン。
- ナリサワ ←何度訪れても完璧。
- ナベノイズム ←世界観がきちんとある。
- ル・マンジュ・トゥー/神楽坂 ←接客は完璧。料理は美味そのもの。皿出しのテンポも良く、とにかく居心地の良いお店。客層も好き。
- TAIAN TOKYO(タイアン トウキョウ)/西麻布 ←流行り廃りに捉われないマッチョな料理。
- メシモ(MECIMO)/小田原 ←重厚長大なレストランの裏をかく魅力的な設計
- ア・ニュ Shohei Shimono/広尾 ←リニューアルしてリベラルに、旨けりゃなんでもいいじゃん的に
- ラフィナージュ(L'affinage)/銀座 ←王道中の王道。銀座とは考えられない値付け。
- ル・マノアール・ダスティン/銀座 ←まさに正統。
- SUGALABO ←料理だけなら一番好きかも。
- エクアトゥール ←天才によって創られる唯一無二の料理。
- ete(エテ) ←美食の行き着く先はお抱えの料理人。
- レヴォ ←人里離れた場所にありながら、日本いや世界でもトップレベルのフランス料理店。
- マノワール・ディノ(Manoir d'inno)/表参道 ←料理は直球勝負。ワインは高くない。
- フロリレージュ ←間違いなく世界を狙える。
- クレッセント/芝公園 ←グランメゾン中のグランメゾン。
- アサヒナガストロノーム/日本橋 ←そこらのフランス料理店とは格が違う。
- ティエリー マルクス ←料理の良さはもちろんのこと、ワインのペアリングが見事。
- エステール(ESTERRE)/大手町 ←料理もサービスもパーフェクト。外せない食事ならココ。