店内はひのき舞台を彷彿とさせるシンプルな設計。工藤順也シェフは2代目であり、25歳の時からお父様から店を引き継いだそうです。現在お父様はシェフのサポート役にまわり、二人三脚で鮨に取り組む様は心温まる。
酒が安い。ソムリエールが真剣に入れる生ビールは700円。日本酒は殆どが1合千円であり、ルイロデのボトルでも10,000円です。「すし宮川」もそうでしたが、札幌は高級店と言われるところでも酒はリーズナブルであることが多いのが嬉しいですね。
まずは今シーズンの終わりを迎えつつあるタイ。バリっとフレッシュで適度な噛み応え。白子も健康的な味わいで、幸先の良いスタートです。
アワビ。ムチムチとした食感を放ち、最上級の酒のツマミといって良いでしょう。
カツオをバリっと炙って海苔醤油で。健やかな味わいの身と香ばしい焼き目の対比がグッドです。
旬の子持ちヤリイカにウニを詰めました。ぐはー、何とも表現しがたい享楽的な味わいです。イカでこんなにトロっとした舌ざわりになるんやな。
半生のくちこ。ナマコの生殖巣です。珍味と評されることが多いですが、このくちこに限っては何とも上品な味わいでクセなどは一切ありませんでした。
春子鯛は肉厚にカット。ほのかに香る昆布。シャリのサイズや温度とのバランスもよく、素敵なにぎりです。
サヨリも肉厚。これは美味しいサヨリですねえ。サヨリは私的にあまり存在感の魚と捉えていたのですが、この個体は別格。味も強い。人生で一番美味しいサヨリでした。
キンメダイも素晴らしい。香り良し味よし。サヨリから引き続きこのあたり全力で美味しいです。
マグロは凛とした味わいであり、上質な酸味が口蓋を埋め尽くします。
大トロは上質なバターのような風味があり、ブラインドで食べれば先のマグロと同じ食材とは思えないかもしれません。ちょっとくどい面もあり、さっきのマグロのほうが私は好き。
ウニの軍艦はシャリよりむウニのほうが量が多い。シャリの味わいも海苔の風味もウニに圧倒されており、贅沢なことにウニの味しか記憶に残りませんでした。
ノドグロは丼で。コッテリとした脂を放つノドグロを、シャリに混ぜ込みながら柔らかく頂きました。美味しいのですが、隣のオッサンの食べ方が汚く、ズルズルと音をたてながら吸い込むように口に運ぶのが気になってしょうがなかった。カウンターは難しい。
コハダは見た目はキリっとしてかっこいいのですが、酢と塩が思いのほか強く私のタイプではありません。
毛ガニ。足の部分とほぐした部分をセットでギュウっと握りこみます。美味しいのですが、先のコハダの強烈な余韻が舌に残っていたのが勿体ない。
ホタテは炙ってから身をほぐし、先の毛ガニと同じようにバラバラの状態で握りこみます。個人的にホタテはフレッシュなものを特大サイズで食べるのが一番と考えていたのですが、これはこれでありですねえ。食感にリズムがあふれ、ホタテの旨味も強く感じる。私的に新たな気づきのあるにぎりでした。
アナゴも調味は控えめであり、塩でチラっと頂きます。ホロホロと舌先でほぐれるこの食感はアナゴでしか表現できないでしょう。
ギョクで〆てごちそうさまでした。ここから追加で出ていないタネを注文することができ、ほとんどのゲストが全クリアを狙っていました。良く食べる奴らだぜ。
私はかんぴょう巻きを一本。ハーフでの対応も可能なのですが、私はかんぴょう巻きが好きなのだ。
そこそこ飲んで、お会計はひとりあたり3万円強。知名度とクオリティを考えれば思いのほかお値打ちでした。一方で、これはお店側に何の責任も無いことなのですが、みんな煽り過ぎじゃないですかね?大将は普通に感じの良いニイチャンであって、「オーラがある」「まるでオペラを見ているようだ」とネット上の口コミで褒め称えられているのは過剰だと思います。お前の家のオペラはどんなだよ。
のんびりゆったりとマイペースで真摯に鮨に取り組む好青年。良い意味ですごく普通の鮨屋でした。みんな神格化しすぎ。ハードルがあがりまくりで、あれではお店も常連も迷惑してると思います。ネット社会の功罪を垣間見た夜でした。
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鮨は大好きなのですが、そんなに詳しくないです。居合い抜きのような真剣勝負のお店よりも、気楽でダラダラだべりながら酒を飲むようなお店を好みます。
- すし匠/ワイキキ ←このお店の真価が問われるのは数十年後のはず。
- 照寿司(てるずし)/北九州 ←世界で最も有名な鮨職人。
- すし宮川/円山公園(札幌) ←人生でトップクラスに旨い鮨。
- 鮨とかみ/銀座 ←赤酢のシャリが印象的。
- 鮨さいとう/六本木一丁目 ←価格設定に色々と考えさせられる。
- 東麻布天本/赤羽橋 ←欅坂46のような鮨。
- らんまる/不動前 ←鮨の入門編として最適。
- 紀尾井町 三谷/永田町 ←単純計算で年間3億円近い売上。恐ろしい鮨屋。
- 鮨 猪股(いのまた)/川口 ←にぎりのみの男前鮨を喰らえっ!
- 鮨舳/瓦町(高松) ←真っ当な江戸前。銀座の半額で何度でも通いたい。
- 天寿し/小倉 ←何度でも行きたいし、誰にでもオススメできるお店。
- 鮨 安吉/博多 ←お会計は銀座の半額。ミシュラン2ツ星は荷が重いけれども、この費用対効果は魅力的。
- 鮨 一幸(いっこう)/すすきの ←真摯に鮨に取り組む好青年。
- ひでたか/すすきの ←鮨は好きだけどオタクではないライト層にとっては最高峰に位置づけられるお店。
- 鮨 志の助/新西金沢 ←とにもかくにも費用対効果が抜群すぎる。
- 小松弥助/金沢(石川) ←「まごころでにぎる」を体現する鮨屋。
- 太平寿し/野々市(石川) ←金沢の人が東京で鮨を食べると頭から湯気を出して怒るに違いない。
この本は素晴らしいです。築地で働く方が著者であり、読んでるうちに寿司を食べたくなる魔力があります。鮮魚の旬や時々刻々と漁場が変わる産地についても地図入りでわかりやすい。Kindleとしてタブレットに忍ばせて鮨屋に行くのもいいですね。