店内はカウンターのみで7~10席といったところ。市川克海シェフは「菊の井」で7年、「あら輝」で4年腕を磨き、2012年上野毛で独立した後に、南麻布へと転戦。上野毛時代は1.6万円だったおまかせコースが南麻布に来た途端に3.3万円に跳ね上がりました。
飲み物メニューは無く(またかよ)、後から逆算するにビール千円、日本酒2千円、ワインは無限大といった価格設定です。ビールや日本酒はバイトが用意するのですが、ワインについては大将が恭しく用意するため、その間全ての調理がストップし、かなり待たされます。
まずは明石のタイ。筋肉質でマッチョな味わい。
明石のイシダイ。プレーンなタイに比べるとやんわりとした食感であり、代わりに旨味が強かった。
初ガツオはフレッシュすぎるきらいがあり、水っぽくあまり美味しくありません。まだまだ季節はこれからなのかな。
蒸し鮑はたっぷりとご用意。ムキムキとした歯ごたえに上品な調味です。
この時点で18:20なのですが、このタイミングで常連客が入店し、大将は彼らにかかりきりとなり半側空間無視の状態。先に入店していた客全員が隔離され待機させられるという憂き目にあいました。
18:50になってようやく次の料理が出てきました。タケノコとミル貝なのですが、30分も待たされれば美味しさも半減である。
ここからは客全員が一列となって同じタイミングで鮨が提供されていきます。こんなことなら30分遅く来れば良かったぜ。
さて上野毛「あら輝」といえばマグロですが、「いちかわ」も同じくマグロに一家言あり。まずは勝浦産の赤身であり、赤身そのものにしっかりと味があるという印象です。
ガリは薄切りでしっかりと水気が切られています。個人的には丸のまま漬けこんで目の前にダイスカットされるタイプのほうが好き。また、バイトの気がまったくきかず、人材というよりも頭数です。次の酒は聞いてこないわ空いたガリは変えないわで色々と原辰徳でした。
が、後からフロムエーの求人に
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赤身と中トロの間の部位。なるほどマグロ自慢の店だけあって、思わず目を閉じて咀嚼してしまうほど美味しいです。シャリは赤酢でマイルドな味わい。小さめサイズであり、女子でも一口で余裕でパクパクいけるでしょう。
蛇腹と霜降り。品の良い酸を感じる一方で、脂の甘味が強烈です。ところで当店のにぎりは全体を通して圧が緩く、箸で食べるとボロボロと壊れてしまいがち。そのたびに大将は客全員にスミマセンスミマセンと謝って周っており、その様は誤字脱字だらけの小説家のようです。
アオリイカが抜群に旨い。厚めにスライスされたものに伝統工芸のように細かく細かく包丁を入れており、舌の上でまさにとろけるといった食感です。
春子鯛も分厚い。当店はマグロに関しては薄く小さい上品なカットですが、その他のタネについては川口「猪股(いのまた)」のような力強さを感じました。
鹿児島出水のアジも滅法旨い。やはり大ぶりなカットに包丁を入れ、食べ応えの強さと舌触りの良さを見事に両立させています。
巻物は天草ウニ。シャリとウニの量が同じぐらいであり当然に旨いのですが、それってハコからスプーンですくって直接食べるのとあんまし変わらんやん、という思いもあります。
大トロのヅケ。美味しいのですが、和牛の焼肉のようなニュアンスであり、あまり上品とは言えないにぎりでした。
ハマグリは丁度良い煮具合であり品の良い調味もグッド。ツメのパンチとの対比が良かったです。
〆にノドグロ丼。美味しいのですが、焼魚定食感が出てしまうのが難点。普通ににぎりで食べたかったです。
赤だしはイマイチ。食器が分厚くスープ類をグイグイ飲むには違和感があり、ワインをジョッキで飲むようなテイストがあります。
というわけで、無理オブ無理なお店でした。食べ物はさすがに美味しいですが、そりゃあひとありあたり3万も4万も払えばこれぐらい当たり前だよねという感想です。同じマグロ推しの江戸前という意味では銀座「とかみ」のほうがレベルは高い上に価格は3割引き。
また、大将の常連に対する特別扱いが気持ち悪く、他の一見客に対してはうわべだけの礼儀正しさ、冷たい無関心を示してきます。常に見えないガラス板を1枚隔てられているような疎外感がそこにある。どうして一番最後に来た常連に他の客全員がペースを合わせなければならないのか。おしゃべりしてないでさっさとにぎれよ。そんなに常連を大切にしたいなら会員制・紹介制にするか、大切な客が来る際は人払いすれば良いのに。
ここ数年訪れた鮨屋、いや、飲食店の中で、最も不愉快な思いをした夜でした。何で3万も4万も払って嫌な思いせなあかんねん。もはや屈辱と言ってもいいレベルです。訪れる際は必ず常連に連れて行ってもらいましょう。
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鮨は大好きなのですが、そんなに詳しくないです。居合い抜きのような真剣勝負のお店よりも、気楽でダラダラだべりながら酒を飲むようなお店を好みます。
- すし匠/ワイキキ ←このお店の真価が問われるのは数十年後のはず。
- 照寿司(てるずし)/北九州 ←世界で最も有名な鮨職人。
- すし宮川/円山公園(札幌) ←人生でトップクラスに旨い鮨。
- 鮨とかみ/銀座 ←赤酢のシャリが印象的。
- 鮨さいとう/六本木一丁目 ←価格設定に色々と考えさせられる。
- 東麻布天本/赤羽橋 ←欅坂46のような鮨。
- らんまる/不動前 ←鮨の入門編として最適。
- 紀尾井町 三谷/永田町 ←単純計算で年間3億円近い売上。恐ろしい鮨屋。
- 鮨 猪股(いのまた)/川口 ←にぎりのみの男前鮨を喰らえっ!
- 鮨舳/瓦町(高松) ←真っ当な江戸前。銀座の半額で何度でも通いたい。
- 天寿し/小倉 ←何度でも行きたいし、誰にでもオススメできるお店。
- 鮨 安吉/博多 ←お会計は銀座の半額。ミシュラン2ツ星は荷が重いけれども、この費用対効果は魅力的。
- ひでたか/すすきの ←鮨は好きだけどオタクではないライト層にとっては最高峰に位置づけられるお店。
- 鮨 志の助/新西金沢 ←とにもかくにも費用対効果が抜群すぎる。
- 小松弥助/金沢(石川) ←「まごころでにぎる」を体現する鮨屋。
- 太平寿し/野々市(石川) ←金沢の人が東京で鮨を食べると頭から湯気を出して怒るに違いない。
この本は素晴らしいです。築地で働く方が著者であり、読んでるうちに寿司を食べたくなる魔力があります。鮮魚の旬や時々刻々と漁場が変わる産地についても地図入りでわかりやすい。Kindleとしてタブレットに忍ばせて鮨屋に行くのもいいですね。