井本/薬院(博多)

博多の中心地からは少し離れた住宅街にある「井本」。食べログ4.04(2020年3月)でブロンズメダル獲得の京料理店です。井本達也シェフは「はな邑」「祇園川上」など京都の名店で腕を磨き、29歳の若さで独立。
カウンター10席ほどの店内。大将の作業台とゲストのテーブルがシームレスに繋がっており臨場感抜群。「あ、いま作ってるアレは俺たちのだな」のように進捗状況が把握できるので、目で楽しみながら味わうことができます。
うすはりのグラスで飲む生ビールが最高に旨い。値段が記載された飲み物メニューは無いのですが、最終支払金額から逆算するにビールや酒1合はそれぞれ千円ぐらいだと思います。
タイの子にワラビ、フキ。タイの子の天然の塩気が酒を誘い、フキの滋味あふれる味わいがグッド。
甘鯛にはカラスミがトッピングされており、調味は控えめながら素材の風味を最大限に活用するといった芸風です。
イイダコに空豆。タコの独特の食感と旨味がやはり酒を誘います。空豆のホクホクとした青い味もナイスです。
ハマグリのしんじょうにタケノコ。ハマグリの味わいがシンプルに伝わってくる調理。タケノコについては素朴すぎるきらいがあり、もう少しアジコイメでもよかったかもしれません。
 お刺身は赤貝にタイ、
そして対馬のヨコワ。ヨコワとはクロマグロの幼魚なのですが、この刺身が絶品。赤身と脂のバランスが良く、上からとろーりかかったソース(醤油?)も旨味も絶妙。ちょっとした海苔のアクセントが素晴らしく、本日一番のお皿でした。
白魚の桜蒸し。白魚が北原里英級に目を合わせてくるので緊張する。白魚の優しい味わいに桜の香りがふわりと漂い、なんとも乙な一皿です。
アワビとホワイトアスパラの天ぷら。トップを飾るのはこのこ(ナマコの卵巣)です。やはり調味は最小限に抑え素材の味を全面に押し出し、塩気などはこのこに任せるという、できそうでできない勇気の要る料理です。
赤貝の紐に菜の花、ウド。季節を充分に感じられる仕様であり、酢味噌の品の良い酸味が心地よい。
 炭で炙ったフィレ肉にはタラの芽の天ぷらをトッピング。フィレ肉の美味しさは当然として、タラの芽の大人の苦みが堪らない。赤ワインが欲しくなりました。
お食事はシンプルにタケノコごはん。やはり調味は控えめであり食べ疲れすることなく、気がつけば3杯もおかわりしお釜ごと完食してしまいました。
予想していた事態ですが、お漬物もやはり美味しい。
唯一(?)しっかりとした塩気のあるお味噌汁で〆てごちそうさまでした。
デザートは練りたてのわらび餅。これがもう、わらび餅としては筆舌に尽くしがたいほどの美味しさであり、そのへんの菓子屋で売られているものとはまるで別の食べ物と言えるでしょう。

お会計はひとりあたり2.4万円。東京で同じ料理を食べれば1.5倍は請求されてもおかしくないクオリティであり、心の底から満足したディナーでした。これだけの皿数をバラバラに来る客に対してテンポ良く提供しているため、大将は油田での火災ぐらい忙しい思いをしているでしょうが、それをきちんとやり切っているのが素晴らしい。どこかの割烹のように無駄口を叩かずに黙々と調理に集中する姿勢は紛れもなくプロです。博多で真面目な和食を食べたい場合に是非どうぞ。


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