靴を脱いで家屋に上がり、ライトアップされた中庭を眺めながら廊下をぐるりと回ってメインダイニングに到着。うわーお、めちゃんこカッコイイ空間じゃん。どうやって搬入したんだと疑問が生じる特大の長テーブルもキマってます。舞台装置としてすごくいい。鎌倉には古民家をリノベしたお店ですが、ここまで振り切ったお店は中々ないでしょう。
この手のお店の割にアルコールがすこぶる安い。ビールなんて1杯750円です。我々は良く飲むふたりなので、まずは2人で1本泡を空け(5,100円)、続いて紹興酒のデギュスタシオンに突入しようという目論見です。
名刺代わりに供されるのは白菜のスープ。金華ハムで出汁を取ったシンプルのスープであり、パスネットのような懐かしさが感じられる味わいです。身体が温まったなあ。このスープには温度以上に温まる何かがある。
続いて麺。アワビの肝を練り込んだパスタに鮑の身とウニをトッピング。これはずるい組み合わせですねえ。美味しくないわけがない。贅沢にも1口で食べ切ったのですが、あと10口は食べたくなる余韻がありました。
スペシャリテの「よだれ鶏」。丹波高坂地鶏というありがたいブランド鶏を用いており、思いのほか脂質が多くたっぷりとジューシー。パサっとした鶏に旨味と辛味で迫るよだれ鶏が多い中、この料理は鶏肉の美点を上手に引き出しています。
続いて焼き餃子。この系列お得意の「よだれ鶏のタレに何かをつけて食べる」という二段階発射方式です。厚めの生地にギュウギュウに詰め込まれた餃子は何もつけなくてもそのままで美味。別にタレいらんじゃんと思ったのですが、ものは試しと浸してみると、悔しいが旨かった。
フカヒレは珍しくガリっと焼いています。沖縄で食べる焼いた豚足のようなニュアンスがあってコラーゲン満開。1万円かそこらのコース料理にこのサイズのフカヒレが出るとは驚きである。
フカヒレも二段階発射方式。ヒカヒレの出汁を用いて即興でリゾットを作ってくださいました。天下一品のスープを上品にしたような風味であり、バンコクのフカヒレの名店「ホック・フカヒレ・レストラン(HOCK Shark Fins)」を思い出す。チラリと漂うトリュフの香りもグッドです。
やまゆりポーク。まだまだ序盤だというのにメガトン級の食べ応えの1皿です。普段フランス料理ばかり食べている私にとっては斬新な構成であり、記憶に残るストーリーです。いまパソコンの変換で「記憶に残るstoryです」と表示されたのですが、アルファベットで書いた瞬間にバカっぽく見えるのは不思議な現象です。
話は逸れますが、昔わたしの上司が評価面談か何かで「キミのメソッドをフォーミュラにできたらビューティフルだよね」と発言したので、もう二度と関わらないことを決意し、それ以来お話していません。元気にしてるかな。
肉と聞いたので紹興酒のデギュスタシオンに入ります。試験管のようなグラスで5種の紹興酒を飲み比べ@1,700円。これってめちゃくちゃお買い得じゃないですか?私は紹興酒について詳しくなくその微細なニュアンスを言語化することはできませんが、費用対アルコール度数が優れていることは確認できました。隣のオッチャンなんて2周飲んでたぞ。
五島列島からきたやってきたクエ。ギュっと身が引き締まっていながらフワリとした食感もあり、旨味も増して美味。子持ち昆布は素敵なアイデアですね。程よい塩気が楽しいアクセントです。それにしても肉の後に魚か。料理を出す順序が自由自在。常識とは18歳までに身に付けた偏見のコレクションである。
〆は麻婆豆腐。四川料理のお店で麻婆豆腐と聞くと構えてしまいますが、ぜんぜん辛くありません。どちらかというと肉の旨味や辛さ以外のスパイシーさが豊かであり、複雑かつ純粋に美味しい麻婆豆腐です。
麻婆豆腐と言えば、やはり白米は外せません。脇のザーサイの漬物が個人的にツボ。
デザートはアイスモナカ。アイスクリームは先の飲み比べのうちの1杯と同じ紹興酒から作られており、香り高い魅力的な甘味です。
小菓子が面白い。中華料理のお店でこんなにもバラエティ豊かなお茶菓子が出るのは初めてです。全てがチャイニーズチャイニーズしているわけではなく、西洋風のものもあって縦横無尽。
何とかという有難い中国茶で〆。お会計はひとりあたり1.7万円程度。この空間とこの料理、このお酒でこの支払金額は実にリーズナブルです。
残念なのは客層。たまたまかもしれませんが、港区を煮詰めたような団体がすぐそこのカウンターに居たためうるさくってしようがなかった。個室ならまだしも肩を寄せ合って食べるカウンター席なのだから、その辺はお店側が注意して雰囲気をコントロールして欲しいところです。
料理や世界観はすごく好き。インスタに媚びない姿勢もクール。コスパもよい。しかしながら客層が運に拠ることを考えると重要な食事では使いづらく感じました。今のところ騒いだもん勝ち行儀よくしたもん負けです。貸し切りで来るといいのかなあ。
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それほど中華料理に詳しくありません。ある一定レベルを超えると味のレベルが頭打ちになって、差別化要因が高級食材ぐらいしか残らないような気がしているんです。そんな私が「おっ」と思った印象深いお店が下記の通り。
- チャイナハウス龍口酒家(ロンコウチュウチャ)/幡ケ谷 ←東京の10,000円以下の中華だとダントツ好き
- センス(Sense)/日本橋 ←あれだけ香港に通い詰めた結果、日本の飲茶が一番とは実に複雑な心境。
- 中華バル 池湖(いけこ)/渋谷 ←度を越した費用対効果。
- 倶楽湾(クラワン)/田町 ←あの水煮牛肉の美味しさは確か
- 味覚/虎ノ門 ←世界一辛い麻婆豆腐
- 飄香/麻布十番 ←十番のランチではトップクラス
- チャイニーズレストラン直城/高輪台 ←空間の居心地の良さや総体的な美味しさには価値がある
- 紫玉蘭/麻布十番 ←税込800円は神のなせる業
- Mott 32(卅二公館)/中環(香港) ←この中華料理はちょっと東京には無い
- Lung King Heen(龍景軒)/中環(香港) ←総合力という意味では香港における飲茶で私的ナンバーワン
- 蓮香居(Lin Heung Kui)/上環 ←好きなものを好きなだけ食べているのにも関わらず、ひとりあたり1,000円と少しという驚異の費用対効果
- 唐閣(T'ang Court)/尖沙咀(香港) ←3ツ星の料理がこの価格帯で楽しめるのは実にリーズナブル
- Shang Palace(香宮)/尖沙咀(香港) ←ミシュラン星付きの飲茶でこの値段ならまあまあ
- 杭州酒家(Hong Zhou Restaurant)/湾仔 ←1杯3,000円の蟹味噌あんかけ麺