クラウン時代と同じく開放的な店内(以上、写真は公式ウェブサイトより)。それほど広いわけではありませんが、座席数を絞っているため空気にはゆとりがあります。Martin PITARQUE PALOMARシェフならびにThomas MOULINペストリーシェフはいずれもアラン・デュカス系列で活躍した後に日本へと赴任。
ウェルカムドリンクとしてデトックスウォーター(?)が供されました。丸い氷のグラスに注がれ面白いのですが、味そのものはナリサワの「木のエキス」的によくわかりませんでした。
アミューズは海苔を練り込んだ生地にタラの刺身をトッピング。いきなりタラを生で食べると面食らいましたが、磯の香りと共に面白い味わいです。
ワインは幅広いラインナップ。値付けも幅広く、料理と合わせて真面目に検討すれば30分近くを要します。今回はランチなので、アラン・デュカス・セレクションのシャンパーニュを1本で通します。1.3万円。ホテルで飲む泡のボトルとしてはお買い得。
続く小皿はワサビが主体。何かの葉っぱや大根など、正直意図がよくわからない料理でした。来日しているシェフたちは、日本を何か勘違いしているのではあるまいか。
パンは本棚から金太郎飴的にせり出した部分を切り落とすという斬新なプレゼンテーション。バケツに入った北海道産のバターが迫力満点。
水分量が多く、フィナンシェのようにしっとりとした舌触り。穀物の複雑な風味も興味深く、大変レベルの高いパンでした。
私の前菜は「長崎産鱸のマリネ 茄子とジュニパーベリー」。火入れが思っていたよりもずっと手前でありレアレア状態。スズキ本来の甘味と旨味が感じられ、その上で全体を酸味でまとめ上げる。鮨屋や日本料理屋にも試してもらいたい魅力的な味わいです。
連れの前菜は「オートアルプ産ヒヨコ豆 ヴォライユのコンフィ 月桂樹のプードル」。味は悪くないとのことですが、いまいち映えません。
続く私の料理は「岩手産ホワイトアスパラガスと柑橘のクックポット」。旬はこれからの料理なので野太さはまだまだですが、やはりホワイトアスパラガスの独特の甘味は楽しいですね。先の料理に続いて酸味を上手く起用しており、ヘルシーで爽快な一皿です。
連れの魚料理は「福井産鰆 バターナッツスクワッシュ 唐墨」。ダイナマイトのようなサイズのサワラであり、元はいったいどんな個体なのでしょう。「魚というよりも鶏肉に近い」とは彼女の談。さりげなそうで全然さりげなくないカラスミの量に嫉妬する。
メインは「千葉産仔豚 新玉葱 蓬のコンディメント」。この豚肉料理は信じがたいほど美味しいですねえ。ナッツの香りのする清澄な肉。脂と旨味のバランスが良く、濃いめのソースを身に纏って快楽的な味覚を提供してくれます。無理に赤ワインをあわせなくとも泡または白でも充分勝負できる清らかな風味。この味を一生知ることのないユダヤならびにイスラム教徒が不憫でならない。付け合わせの美しさにも注目。
デザートは「アラン・デュカスのカフェと蕎麦の実のコンポジション」。これはまあ、あんまり別に普通のスイーツでした。無理に蕎麦とかやらんでいい。
捲土重来。追加で頂いたチョコレートケーキは目が覚めるほどの美味しさ。芳醇なカカオに風味が鼻腔に広がり、滑らかな舌触りが官能的に口腔内を満たします。ポップコーン(?)的な弾けた香りもアクセントに良し。
お茶菓子も細かく配慮がなされた品々であり、蕎麦のアレではこれはまあ、あんまり別に普通とか言っちゃってゴメンナサイ。
コースを一通り食べふたりで泡を1本飲んで、お会計はひとりあたり2万円。アサヒナガストロノーム(ASAHINA Gastronome)に迫る費用対効果の高さです。しかも割高になりがちなホテルでこの控えめな価格設定。恐らくはホテルの看板のために料飲部が戦略的にやってるだけで、ライセンス料などを加味してこのお店だけの採算をみると全然儲かってないと思います。これは新手の慈善事業である。
それにしてもパレスホテルはいいなあ。クラウンからアラン・デュカスに変わったけれど、本質的にはあくまでパレスホテル。披露宴やイベントでも高次元な料理をミスなく完璧に出し切る軍隊のような規律の良さ。私が料理人であれば一度は働いてみたい環境です。
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「好きな料理のジャンルは?」と問われると、すぐさまフレンチと答えます。フレンチにも色々ありますが、私の好きな方向性は下記の通り。あなたがこれらの店が好きであれば、当ブログはあなたの店探しの一助となるでしょう。
- ガストロノミー ジョエル・ロブション ←最高の夜をありがとう。
- アピシウス ←東京最高峰のレストラン。
- ナリサワ ←何度訪れても完璧。
- ナベノイズム ←世界観がきちんとある。
- ル・マンジュ・トゥー/神楽坂 ←接客は完璧。料理は美味そのもの。皿出しのテンポも良く、とにかく居心地の良いお店。客層も好き。
- TAIAN TOKYO(タイアン トウキョウ)/西麻布 ←流行り廃りに捉われないマッチョな料理。
- メシモ(MECIMO)/小田原 ←重厚長大なレストランの裏をかく魅力的な設計
- ア・ニュ Shohei Shimono/広尾 ←リニューアルしてリベラルに、旨けりゃなんでもいいじゃん的に
- ラフィナージュ(L'affinage)/銀座 ←王道中の王道。銀座とは考えられない値付け。
- ル・マノアール・ダスティン/銀座 ←まさに正統。
- SUGALABO ←料理だけなら一番好きかも。
- エクアトゥール ←天才によって創られる唯一無二の料理。
- ete(エテ) ←美食の行き着く先はお抱えの料理人。
- レヴォ ←人里離れた場所にありながら、日本いや世界でもトップレベルのフランス料理店。
- マノワール・ディノ(Manoir d'inno)/表参道 ←料理は直球勝負。ワインは高くない。
- フロリレージュ ←間違いなく世界を狙える。
- クレッセント/芝公園 ←グランメゾン中のグランメゾン。
- アサヒナガストロノーム/日本橋 ←そこらのフランス料理店とは格が違う。
- ティエリー マルクス ←料理の良さはもちろんのこと、ワインのペアリングが見事。
- エステール(ESTERRE)/大手町 ←料理もサービスもパーフェクト。外せない食事ならココ。