メシモ(MECIMO)/小田原

「ねえ、このまえ行ったメシモ(MECIMO)、すごく良かった。早くディナーでも行こうよ」とのことで、1ヵ月と時を空けずして小田原へ。彼女は港区からほぼ出ない生活を送っているのにも関わらず、メシモ(MECIMO)にはコンビニ気分で出かけます。美食には人を狂わせる何かがある。
ランチにくらべるとグっとシックな雰囲気。席数は抑え、テーブルの配置なども大幅に変わっていました。お昼時ではカジュアルな印象でしたが、なかなかどうして夜はスタイリッシュな今風のレストランじゃないですか。
乾杯はビールなのが当店のお家芸。この日は伊豆韮山のクラフトビール「反射炉ビヤ」の
ヴァイツェンでした。フルーティーな香りにきめの細かいテクスチャー。イネディットにもにた華やかな空気を感じました。
最初の第一歩は菊芋のぶくぶくスープ。かなりの高温で内臓が活性化。塩気も強く食欲が刺激されます。
カジキを燻製しハム状にしたもの。カジキと言えば水っぽい肉質を思い浮かべますが、こちらの料理は凝縮感に溢れ、ややもするとコッテリとした脂さえ感じます。パートナーの赤カブも含めアミューズに最適な味覚です。
合わせるワインはロワールのシュナンブラン。ソムリエから作り手へと転向したワイナリーとのことで、スモーキーなニュアンスと先の燻製料理が実によく合う。
赤カレイのベニエ。思いきりの良い揚げっぷりであり、ザクっとした食感に舌鼓。ソース的な位置づけの豆のペーストや、トップを飾るパクチーなど、それぞれの構成要素が意義深い。ピマン・デスペレット(PIMENT D'ESPELETTE)の刺激もグッド。
小田原で獲れたマグロにアジ、周りを飾る食材も全てこのあたりのものです。やはり素材の良さを単刀直入に引き出しており、日本料理のような趣が感じられました。前回よりも脂質の少ないマグロであったため、少しパンチに欠けたかもしれません。少しだけね。
やはり和食のニュアンスが強いのか、日本酒が登場。木槽天秤搾りというややこしい造りの酒であり、ソムリエは情熱をもって解説を進めます。他のお客様の対応もあるため程々でトークを切り上げるのですが、まだ言い足りなかったこともあるのかバックステップで名残惜しそうに話しながら下がっていく姿に心あたたまります。
リゾーニ(Risoni)という米粒の形をしたパスタ。味覚はシンプルにムール貝の出汁とチーズのみ。にしては中々にパンチのある味わいであり、さしずめ大人の箸休めといったところでしょう。
合わせるワインはシェリー。レーズンやナッツなどの複雑な香りが素敵。ただし、これ単体では美味しいのですが、先のパスタに合わせるには迫力がありすぎるような気もしました。
本日の魚料理は金目鯛。バリっとした皮目とシットリとした身の対比が素晴らしい。金目鯛からとられたスープも繊細ながら濃厚で、ネギや海苔(?)と共に素敵な海の味覚が楽しめました。
ワインはヴィオニエ。花束を手渡されたかのような華やかな香りがあり、控えめなアルコール度数と相俟ってグイグイいけてしまいます。若干の海藻っぽいニュアンスも先の料理によく合う。
美味しそうに日本酒を飲む連れが記憶に残ったのか、オマケのペアリングとして日本酒もお出し頂けました。なるほどコチラに合わせると金目鯛の皿は和食の色合いが強くなり、まるで先鋭的な割烹料理屋を訪れているような気になります。
ほぅーらほらほらエビだよーん。やはり地元の赤座海老は炭で焼いている?意図的に焦がしている?スモーキーな風味が強烈であり、海老の甘味にアダルトな印象を植え付けます。海老の身には凝縮感があり旨味が強い。浜焼きの海老を上品にしたような暴力的な気品に溢れており、本日一番のお皿でした。
ボージョレっぽい風味だなあと首を傾げると、ローヌのグルナッシュやシラーをボージョレっぽい製法で造ったものとのこと。品種からは及びつかないフレッシュさであり、これをブラインドでシラーと当てられる人は少ないでしょう。それぐらい軽く飲み口の良い赤でした。
メインはおなじみ相州牛。結構な塊肉であり食べ応えも抜群。赤身や脂のどちらかに偏ることもなく、ちょうど良い塩梅で赤身と脂が同居しています。何より付け合わせのキノコたちが絶品。連れはパンを用いてタワシでこするが如く、皿のソースを拭いきっていました。
岡山のコルトラーダ。フィルターなし、 清澄剤なし、熱処理なし、もちろん亜硫酸もなし、ブドウ100%のワインを手掛ける作り手です。品種はメルロとのことですが、何もしないメルロってこんなにクリアなんだと瞠目する味わい。ブドウジュースのようにスルスルと飲んでしまいました。
デザート1皿目は新米のジラートにパフ。後を引く素朴な味わいであり量を食べたくなります。
合わせる酒はどぶろく。むしろこの酒が先にあって先のジェラートを設計したのではと疑う程よく合う1杯。ドロリとした口当たりに濃密な酸味。スプーンで食べたくなる液体です。
デザートは和栗。主役の栗はもちろん、白玉の優しい食感や蕎麦のクランブルによるアクセントもグッド。ただしやはり量は控えめであり、また、一か月前のものと全く同じ仕様であったので、デザートもたっぷり食べたい派の私としては物足りなく感じました。
小菓子も手造り。ついさっき「物足りなく感じました」といいつつ、小菓子でここまで凝ってくれるのだからまあいいか。牛皮で包んだブドウが個人的にツボ。
食後の飲み物はコーヒー紅茶などから選べるのですが、私はほうじ茶、彼女は緑茶を指定。1万円のコース料理にワインペアリングが6千円、税やら何やらを含めてもひとりあたり1.8万円程度です。感覚的には都心の生意気なフレンチの倍の費用対効果を誇ります。

カテゴリーとしてはフランス料理に含まれるのでしょうが、日本料理的なトーンも強い。ベスト50あたりが喜びそうなテイストであり、ミシュランが次回の湘南特別版を作るのであれば必ずノミネートされることでしょう。外国からの客人を温泉宿にお連れし、〆のレストランとして案内すれば高評価間違いなし。小田原という地にありながら世界基準で語ることのできる素晴らしいレストランでした。


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