イン ボスコ(In Bosco)/茗荷谷

「お誕生日祝いに白トリュフパーティしましょう!」と魅力的なお誘い。ちなみに昨年のお祝いも広尾「肉匠堀越」で白トリュフパーティでした。全く私は素敵な時期に生まれたものである。今年の会場は小石川の住宅街に佇む「イン ボスコ(In Bosco)」。イタリア語で「森の中へ」という意味です。
渡部敏毅シェフは麹町「エリオ・ロカンダ・イタリアーナ」で主にサービススタッフとして従事していた方。そのノリの良さとテンションの高さ、飽くなき探求心から世のフーディたちに重宝され、太く堅牢な人脈を駆使して様々なビジネスを手掛けています。料理は全くの独学だそうな。
「今夜はお祝いなので!」と、メゾンの天井から1億円相当の古い金貨が見つかった記念に造られた縁起の良いシャンパーニュを持ち込んで下さいました。2004年のシャルドネとピノノワールを用いた限定品であり、なるほどしっかりと熟成された艶っぽい香りがあり、ふくよかな果実味も滅法旨い。
白トリュフ様のお通り。今年は例年に比べて控えめな相場とのことですが、それにしても白トリュフ、です。右奥の個体はピンクがかっており最高の品質。
始まりの一口。ニンジンを主体としたジュース(?)の爽快感が印象的。黒い海苔みたいなやつは、パルミジャーノに竹炭を混ぜ込んでチップス状にしたものです。
自家製のレーズンパンにフォアグラ、そして白トリュフです。上質なハチミツの甘味と白トリュフの香りが混然一体となり至高の調味でした。
旨みギッシリのセコガニにやばたんまるなキャビア。パスタのはずなのに、麺の存在感が霞んでしまっています。しかしながらソース(スープ?)はカニの出汁が凝縮されたものであり、トッピングなしでもガチ旨い一皿でした。
白子のフラン(洋風茶碗蒸し)。「今日は鰹節を切らしているので」と、代わりに白トリュフを削って下さいました。やはりフランとして王道に美味しいのに、白トリュフが感想を全て掻っ攫っていきます。
カニクリームコロッケ、なのですが、
内容の90%はカニであり、クリームとのバランスがおかしいことになってます。六本木「すし通」のカニのにぎりを揚げたようなコロッケであり、オマールのビスク的なソースと合わせて奔放な味わいでした。
3日間かけて造ったスープにラビオリを加え、やはり白トリュフでフィニッシュします。スープのゼラチン感が半端なく、口腔内でテロテロとひっかかるほどの凝縮感でした。
シチリアのシャルドネ。シチリアのワインは豪放磊落なイメージだったのですが、こちらはパワフルでありながらも洗練された美味しさがあり、かなり好きな味わいです。
カルボナーラは一般的な造形とは大きく異なる。麺と白トリュフ、北海道の入手困難なチーズ、肉、温玉がそれぞれの存在を主張しながら盛り付けられています。
温玉は日本一高い卵、アクアファーム秩父の「輝(かがやき)」をひとりにつきひとつ贅沢に使用。なんとこの卵、1個千円もするのです。
豚肉には丁寧に火が入れられており、肉そのものの味わいはもちろんのこと、脂の香りの良さに心を惹かれました。付け合わせのキノコのソテーが野性的な味わいであり、素朴に美味しい。なんだか白トリュフじゃないキノコを食べるの、ひさしぶりだなあ。
合わせるワインはトスカーナのモンテプルチアーノ主体。先のシチリアもそうですが、実に洗練され、良い意味でイタリアらしさの薄い、上品なワインに感じます。ワインの奥は深い。
豚肉と同時並行で調理されていることは目の端で捉えていましたが、特大の唐揚げが3つも用意されました。用いる素材は青森シャモロックの年間600羽しか生産していない特別なもの。鶏肉と言えば白い肉を想像しがちですが、コチラは赤みがかった茶色であり、スッポンのような野性味が感じられ抜群に美味しい。
満腹になってもなお食べ続ける私たち。続く食材は特産松阪牛。松阪牛の中でも、兵庫県産の子牛を導入し松阪牛生産区域で900日以上肥育した牛です。生産頭数は極めて少なく、松阪牛全体の数パーセントしか存在しません。松阪牛の中の松阪牛である。
この店は一体何料理屋なのでしょう?すき焼きが出てきました。卵は再び「輝(かがやき)」です。調味は控えめであり、肉と卵の味わいを存分に発揮させてくれます。そこにトドメを刺すのがやはり白トリュフである。
〆は卵かけごはん。「輝(かがやき)」の美味しさについては既に述べましたが、そこに肉のエキスと白トリュフの風味が屹立し、史上最強のTKGと評して良いでしょう。彼の手抜き料理は絶品だ。
コニャックはRAGNAUD SABOURIN FONTVIEILLE No.35。コニャック地方で最高の土地と誉れ高いグラン・シャンパーニュ地区の、製造工程の最初から最後までを手がける生産者のもの。これはとにかく香りが良いですねえ。40度超えとアルコールは強いのですが、そのアルコール臭を飛び越えてやってくる芳醇な香りが印象的。
デザートはバスクチーズケーキ。お誕生日プレートに仕立てて下さいました。スター君には金粉が散りばめられているのがポイントです。道楽かよ。チーズケーキの味わいも絶品。なんでも隠し味に用いているコニャックが、菓子作りに用いるとは考えられないほどの高品質なものなんだそうな。
〆はディケム。濁ってプカプカ浮いているのは白トリュフです。道楽かよ。ただしこれはシャレや遊びでやっているわけではなく、ディケムの高貴な甘さと白トリュフの崇高な香りはガチでマッチします。

いやはや美味しかった。イタリア料理というよりは何でもありの異種格闘技戦であり、元麻布「エクアトゥール(l'equateur)」に似た恍惚感を楽しむことができました。やはりレストランの究極系とはこういうことであり、美食とはそういうことだと再認識した一夜。次回はまた別の食材に絞った祭りを試してみたいし、あるいはスタンダードナンバーにもチャレンジしてみたい。とにかく引き出しの多い、楽しいレストランでした。


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