小田原駅から徒歩20分弱。商店街を抜けていくので、体感ではもっと近くに感じます。B級グルメの汚い店だろうと高を括っていたのですが、思っていたよりも全然しっかりとした店構え、いや、むしろ高級店と評して良い誂えのお店です。
店内はカウンターが中心ですが、個室や宴会スペースもあるようです。雰囲気としては高級割烹のそれなのですが、フレンドリーな大将を始め、みな楽しそうに酒を酌み交わしており、酒場としての魅力に溢れています。
地元のビールで乾杯。当店のプライベートブランドの日本酒もあり、どんな味かと大将に尋ねたのですが、「ああ、それは大したことないから他の酒のほうがいいよ!わっはっは」と、実にフランクです。
5品980円の盛り合わせを注文。「全部違うタネで4周ぐらいはできるからね!」と腕をまくる大将。そのざっかけない気性とは裏腹に、スープは驚くほど繊細。昆布の風味が強くどこまでも澄んだ味覚。これはれっきとした日本料理であり、ゴックゴク飲めてしまいます。
タネは東京で一般的に食べられるものとは全く異なり、融通無碍な芸風です。鯵と鰯を丸ごとミンチにした団子や金目鯛で造ったナルトなどが記憶に残りました。
そうそう、小田原おでんは小田原特産の梅を使用した「梅みそ」をつけるのが定番。その他、ワサビやカラシなど味変しながら楽しんでいきましょう。さすが箱根、箸置きが寄木細工だと感心していると、「ああ、それ、ニセモノニセモノ!知り合いが寄木細工の職人で、いい加減にしろっていつも怒られてるんだよね」
ある程度は覚悟していましたが、この玉子は相当に美味。ラーメンで育った世代としては半熟原理主義な面も否めませんが、しっかりと火を通し出汁を沁み込ませた玉子もまた違った魅力があります。お隣は海老のすり身をふんわり仕上げた上品な揚げ物。
牛スジはホロホロと舌先で崩れるほど柔らかく煮込まれ、濃厚な煮汁と共にビーフシチューのような様相を呈しています。ネギのさっぱりとしたアクセントも良く、迫力のある一本でした。
「おでん種コンテスト」で優勝した「チーズロールキャベツ」。トロトロに溶けたチーズとベーコンにクリアな出汁が不思議と良く合う。
〆はアジの押し寿司。アジの味に凝縮感があり、昆布の風味も魅力的でした。
好き放題飲み食いしてお会計はひとりあたり5,000円ほど。これはリーズナブルですねえ。おでんというよりも和食を食べたという満足感があり、旨い酒と旨いスープでお腹がタプンタプンに満ちました。東京の家賃の味がするおでんとは一味も二味も異なる美味しさに重畳の至り。オススメです。
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「東京最高のレストラン」を毎年買い、ピーンと来たお店は片っ端から行くようにしています。このシリーズはプロの食べ手が実名で執筆しているのが良いですね。写真などチャラついたものは一切ナシ。彼らの経験を根拠として、本音で激論を交わしています。真面目にレストラン選びをしたい方にオススメ。