カフェのようなカジュアルな雰囲気の店内。正面には完全にオープンな厨房が置かれており面白いデザインです。ナリサワとハジメという最強クラスに高価なフレンチがタッグを組んだということで、さぞやお高いのでしょうとビビっていたのですが、ランチ6,000円にアルコールのペアリングが5,000円で、ひとりあたりの合計は1.2万円程度に落ち着くと聞いて胸を撫でおろす。
乾杯は小田原の地ビール。食材だけでなく酒まで小田原に拘るのがいいですねえ。食前酒と言えば何でもかんでもシャンパーニュな風潮に一石を投じる一杯で乾杯。
最初にバターナッツの冷製スープ。塩気がかなり強く、飲むというより食べるという印象の強いスープです。
リエットは台座の生地にアクティブに盛り付けられており、何ともジューシーな仕上がり。一般的にリエットとはパンに付随する嬉しいオマケという位置づけですが、当店のそれはひと品と成立しうる食べ応えのある逸品です。
最初のワインがフラン100%という興味深いペアリング。赤ながら爽やかな味わいであり、先のリエットの脂質に程よくフィットします。
イワシとタコ。イワシの強い旨味をタコのしっかりとした食感が受け止めミラクルに調和しています。トッピングはパクチーであり、これほど上品にパクチーを活用できる料理人は稀有な存在でしょう。
合わせるワインはロワールの自然派。そうは言ってもビオビオした押しつけがましい味はなく、旨味がたっぷりで先のイワシにマッチする。この時点で確信しました、このソムリエは相当のワインヲタクです。
空のような皿に盛り付けられるのは小田原産のマグロにアジに野菜たち。この料理はべらぼうに美味しいですねえ。素材の良さを単刀直入に引き出しており、ややもすると日本料理のような潔さが感じられます。大間や戸井だけがマグロではない。これが料理だと語り掛けてくる絶品。
おや、大阪の日本酒。なるほど日本料理には日本の酒ということでしょう。ベースはあくまでもフレンチですが、場面に拠っては変幻自在。センスの問われるペアリングです。
地元のブランド牛「相州牛」のタルタルにウニを並べます。見た目こそウニウニしていますが、味覚では肉の存在感が大きい。噛んでも噛んでも味が沁みだしてくるマッチョな肉であり、酸の効いた調味がクドさを一掃してくれています。
パンは見た目こそシンプルですが、非常に奥行きのある味わいであり、タルタルと同様に噛みしめる程に味が滲み出てきます。
サワラの身は程よく生で残し最も美味しいポイントでの提供。対して皮目はパリっと仕上げられており絶妙な調理です。出汁(?)からは和の要素が多分に感じられ、アオサの磯の香りも嗅覚を刺激する。
ソムリエの引き出しは多く、ピエモンテのバルベーラが登場。果実味がたっぷりで上品な酸味・ミネラルも感じられ、これがバルベーラかと思わず唸る、躍動感に満ちた1杯です。
メインの肉料理はやはり相州牛。松阪牛のようにバカみたいに脂がのっているわけではなく、赤身の味で勝負できる上質な肉。付け合わせの取り扱いも見事であり、6,000円のランチのメインとしては常識外れのクオリティです。
グルナッシュのビオを合わせます。黒糖のような香りに凝縮感のある果実味。酸味とタンニンのバランスが良く、グルナッシュらしいスパイシーさも保持。なるほど先の肉料理に完璧に一致した味わいです。
最初のデザートはお米のジェラートにアラレちゃん。美味しいのですが、もうちょっと量が欲しいかな。美味しいだけにストレスの溜まるサイズ感でした。
ペアリングはどぶろく。先のジェラートをそのまま溶かしたかのような濃密さにヨーグルトのような酸味。朝の起き抜けに飲んだとしても問題の無い爽やかな味わいです。
続く甘味は栗。スープにしたり煮たりと栗の美点が百花繚乱。トッピングの白玉が優しい食感を提供します。
食後のお茶は色々選べるのですが、和テイストの食事の数々に敬意を表し、緑茶を頂きました。
小菓子もきちんと手造り。シャインマスカットを牛皮で包み、カボチャのケーキにカヌレと最後の最後まで手抜き無し。ランチもディナーもやって、ここまで凝った作業をして、シェフに疲労が蓄積しないかと心配になりました。
冒頭にも述べましたが、これだけ飲み食いしてひとりあたり1.2万円という奇跡の価格設定。都心であれば3万数千円を請求されても納得のいくクオリティです。我々は小田原であるとのコンセプトがしっかりしており、ナリサワやハジメといった重厚長大なレストランの裏をかく魅力的な設計です。東京からわざわざ訪れる価値は大いにアリ。次回はディナーで店のフルパワーを堪能したいと思います。
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「好きな料理のジャンルは?」と問われると、すぐさまフレンチと答えます。フレンチにも色々ありますが、私の好きな方向性は下記の通り。あなたがこれらの店が好きであれば、当ブログはあなたの店探しの一助となるでしょう。
- ガストロノミー ジョエル・ロブション ←最高の夜をありがとう。
- アピシウス ←東京最高峰のレストラン。
- ナリサワ ←何度訪れても完璧。
- ナベノイズム ←世界観がきちんとある。
- ル・マンジュ・トゥー/神楽坂 ←接客は完璧。料理は美味そのもの。皿出しのテンポも良く、とにかく居心地の良いお店。客層も好き。
- TAIAN TOKYO(タイアン トウキョウ)/西麻布 ←流行り廃りに捉われないマッチョな料理。
- メシモ(MECIMO)/小田原 ←重厚長大なレストランの裏をかく魅力的な設計
- ア・ニュ Shohei Shimono/広尾 ←リニューアルしてリベラルに、旨けりゃなんでもいいじゃん的に
- ラフィナージュ(L'affinage)/銀座 ←王道中の王道。銀座とは考えられない値付け。
- ル・マノアール・ダスティン/銀座 ←まさに正統。
- SUGALABO ←料理だけなら一番好きかも。
- エクアトゥール ←天才によって創られる唯一無二の料理。
- ete(エテ) ←美食の行き着く先はお抱えの料理人。
- レヴォ ←人里離れた場所にありながら、日本いや世界でもトップレベルのフランス料理店。
- マノワール・ディノ(Manoir d'inno)/表参道 ←料理は直球勝負。ワインは高くない。
- フロリレージュ ←間違いなく世界を狙える。
- クレッセント/芝公園 ←グランメゾン中のグランメゾン。
- アサヒナガストロノーム/日本橋 ←そこらのフランス料理店とは格が違う。
- ティエリー マルクス ←料理の良さはもちろんのこと、ワインのペアリングが見事。