福田祐三シェフは箱根「オーベルジュ オー・ミラドー」、代官山「パッション」、マンダリン「シグネチャー」などで腕を磨いてきました。
店は狭く横並びのカウンターが4席ほどに、角が丸まって4~5人で座れるテーブル(?)席。なのですが、信じられないことにこの4人テーブルに相席させられました。客単価2万円近いフランス料理店で相席は初めての経験です。それならそうと予約の時点で言っておいてくれよ。鮨屋のL字カウンターで視線が交錯する程度ならギリOKですが、このお店はマジで他人と真正面に向かい合って食べなければなりません。
ワインリストをお願いすると「ワインリストはございません」。どうして日本にはワインリストやドリンクメニューを作らないフランス料理店が多いのか。フランス料理の本場フランスでは殆どの店があるというのに。しかもグラスの泡は岡山産で1杯2,000円と高杉晋作。
まずは自家製のワッフルに岩塩を散らし、トリュフをスライスします。これはわかり易い香りと味覚で良いですねえ。アミューズに最適な一口でした。
続いて余市のブリに唐津の黒イチヂク。こちらも余計な調味は施さず、塩を主体に攻めてきます。ブリのコッテリとした旨味にイチヂクの上品な甘味が良く合う。
ここからワインはお料理に合わせて適当に出してもらうことに。それにしても相席がキツい。目の前の年配の男性が少し年下の取引先を「メシでも食おうよ」と呼び出し、身体をベタベタと触っています。これが#MeTooか。辛い仕事である。そんな光景を見ながら飲むワインの味は中くらいです。
青大豆で造った豆腐にカブのソース?豆腐の味はまあまあですが量がとにかく多く途中から飽きが来ました。様々なスパイスを用いた調味は面白い風味が炸裂しありよりのありです。
パンが焼きあがりました。赤ワインを練り込んだものであり、酵母の風味というか何というか、滋味深い味覚であり、パン職人としてもかなりの腕前です。
タコにカボチャのソース?タコは和食の煮ダコに方向性が似ており噛みしめるほどに旨味が溢れてくるのですが、対面のオッサンがクチャ食いの天才で咀嚼音がどこまでも行き届いており、ここまで食欲を減退させるASRMは中々ありません。
ソーセージではなく、リードヴォー・揚げた栗・チャコールブレッドの三種の神器を網脂で包んで焼きあげたもの。リードヴォーの味わいはもとより、クリのサクサクとした食感にリズムが生まれ、チャコールブレッドのグロい色合いも一周回っていとをかし。
そうそう、水の代わりにハーブティーを自由に飲んで良いのは嬉しいですね。しかしながら4人テーブルで1つのポットをシェアという形式は無理。場末の中華料理屋ならともかく客単価2万円弱の店でポットを奪い合うだなんてセクシーじゃありません。
メインは牛肉。岡山は吉田牧場のブラウンスイス種の経産牛だそうで、年に3~4頭しか出荷されないそうな。加えて熟成師(?)が何十日もかけて熟成させたスペシャルなものらしいのですが、前置きの割にはまあこんなもんかという印象です。量が少ないのも難点。希少が美味しいとは限らないので、個人的にはもっと普通の肉を美味しく焼いて欲しいなあ。
ワインのサービスのタイミングが悪く、今か今かと手ぐすねを引いて待っているというのにピロピロと鳴るお店の電話の対応を行う店員。目の前の客を大切にせず顔の見えない電話線の向こうの相手に5分も費やすとは何事か。シェフも料理にかかりきりで客のペースを全く掴んでおらず、全体が見えていないお店に感じました。
パンをサービスするタイミングも悪い。料理を食べ切った後に出されても超困ります。料理人として焼きたてのアツアツを出したいという気持ちはわからないでもないですが、これだけタイミングが悪いのであれば冷めても良いから自分のペースで食べたいところ。
〆の食事はガーリックライス。「普段はパスタなんですけど、この前イベントで出したら好評だったので」とのことですが、家庭料理の延長であり普通の美味しさです。そりゃイベントでガーリックライス出たら8割の確率で美味しいって言うよ。でも今夜はそうじゃないでしょう。
またパンが焼きあがりました。ワッフル→パン→パン→ガーリックライス→パンと、この店は炭水化物の国からの出店に違いない。それぞれのパンは非常に美味しいのですが、やはり当店はパン屋ではないので、パンだけを連続で出されても困ってしまいます。「お持ち帰り頂けますよ」とかそういう問題じゃない。
チーズはコースの中に組み込まれていました。由緒正しきアイリッシュクリームチェダーでありチーズそのものは美味しいのですが、今なぜここでこのチーズなのかは意図が不明。チーズを自動的に出すことに馴染みのない日本人に出すには特殊すぎるチーズに感じました。
デザートは洋梨コンポート、スーズというフランスの薬草酒のプリン、ラムのクリーム。これはベーシックで美味しいですねえ。量もたっぷりであり、フランスのビストロっぽい質実剛健な美味しさがありました(値段は全然ビストロじゃないけど)。「ねえ、もっと食後酒飲んだら?俺、泊まって帰ろうかな?」とは対面のオジサンの談である。まじきっついわ、この相席。
お会計はひとりあたり2万円。それぞれの料理はかなり美味しい部類に入るのですが、ワインやパンをサーブするタイミングの悪さ、皿を客がいちいち受け取ったり厨房に返したりする煩雑さを考えれば、客単価2万円の格のお店ではありません。ひとり2万円って言ったらあんた、バリバリのグランメゾンの「アサヒナガストロノーム(ASAHINA Gastronome)」行けますからね。フランス料理店のUXとしては最低レベルでしょう。
加えてこの相席強要という地獄のシステム。私は気心の知れた女の子とお邪魔したのでギャグで済みましたが、仮に友達以上交尾と未満の女子をお連れし、さあ今夜は口説くぞという勝負のタイミングで目前でセクハラが繰り広げられ「俺、泊まって帰ろうかな?」のスマッシュが突き刺さってしまうと、まだ何もしていない私も同性ということで厳しい立場に置かれたことでしょう。
果たしてどういう客層を狙ったお店なのか頭を抱えてしまいました。行くなら貸し切りでどうぞ。
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白金高輪は粒揃いの佳店が多いです。ちょっと不便な立地も良いんでしょうね、若い子たちを寄せ付けることが無くて。