クレアバックス(Crear Bacchus)/赤坂

「分子ガストロノミー」「モラキュラー」「液体窒素」「エスプーマ」など10年も前に流行った技法を惜しげもなく多用するお店が赤坂の地に2016年3月11日にオープン。スタッフ全員が東北出身者であり、東北への想いをのせて東日本大震災が起きたその日に開店したそうです。
鈴木佑多シェフは若松河田「小笠原伯爵邸」大阪「ルポンドシェル」などの星付きレストランで修業を重ねました。席まで案内してくれたサービスの方から夜の香りを感じたのですが、何と彼がオーナーソムリエだそうな。
シャインマスカットとシャンパーニュ、貴腐ワインで作ったスムージー的な食前酒。わかり易い味覚であり万人受けする味わいです。
北海道の秋鮭を軽く燻製にしたものやミンチ(?)にしたものを主軸に置いたもの。透明の器の中にある飾りがガチャガチャしてて視覚的に食べづらいなあと思いながら口に運ぶと、素材の味が主張する芯の通った味わいでした。
パンはコチラとブリオッシュの2種をご用意。
机に置かれた試験管には3種の塩とトリュフオイルが。スポイトでトリュフオイルを突っついて、塩を置きながら自由自在にパンを食べる。飽きない演出です。
燻製の香りを閉じ込めたガラス製のボウルを開くと露地栽培の有機野菜に熟成した生ハムにチーズ。その存在を主張するのは「ウフ・アン・ムーレット(œufs en meurette)」というブルゴーニュの名物卵料理。赤ワインのソースでつくるポーチドエッグの一種なのですが、強いメッセージ性を感じました。
魚料理は黒メヌケ。見た目は悪いですがクセのない魚です。その調理が結構凝っていて、半生燻製のボウル状の内側にはクネル的なすり身が隠されており、周囲のソースも含めて見た目とは裏腹に何ともクラシックな味わいで驚きました。
メインはフランス産のホロホロ鳥。左と右の皿でソースを使い分けており、フランス料理人としての気概を感じました。旨味が程よく凝縮され、その上でしっかりと水分を保ったジューシーな調理であり美味。付け合わせも主題を邪魔することなく味覚のバリエーションを増やし素直に美味しい。コンセプトとはまるで異なるクラシックな味わいです。
デザートはチョコレート菓子で作ったカゴに盛られた、卵に見立てたフロマージュブラン。黄色いソースはマンゴー味。仕上げにホワイトチョコレートを液体窒素でどないかしたものを振りかけ、ジャニーズのコンサートのようなモクモクが出来上がりました。
こちらは口に含むと呼吸と共に全身からモクモクが噴き出してくるので動画撮影ポイントです。しかしこの演出、日本では10年以上前にマンダリン「タパスモラキュラーバー」が始めたと記憶しているのですが、一周回って臆面もなくやりきる姿勢に爽快感すら感じました。
以上、食事だけだと税サ込で5,000円を切ります。これはどう考えたって安すぎでしょう。もちろんイノベーティブ系のレストランは食材が大したことがないパティーンが多く、覚悟していたよりも安く付くこともあるのですが、当店は食べてみればしっかりとクラシックな料理を体現しているという意味で、ある種のポジティブな違和感を覚えました。これはちょっと夜にお邪魔して、ワインのフルペアリングをつけて楽しんでみたいと思います。また来よう。


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