もつ焼き 豚星(ぶたほし)/武蔵小山

武蔵小山駅から徒歩数分、商店街を少し外れたところにある大人気のもつ焼き屋。もつ焼きと聞くとハードボイルドな店を想像しがちですが、当店は実に清潔であり、女子や家族連れの受け入れもバッチグーです。
買収おめでとう、でいいのかな。どう?宝くじに当たった気分は?

今夜は古い友人と飲み。先日、彼が勤務する外資系企業が買収され、保有する自社株を放出することにより小金を得たばかり。「うーん、ラッキーと言えばラッキーだけど、なんかこう、虚しいんだよね」寂寥感という表現がピッタリの表情を彼は浮かべる。
牛肉のタリアータ。生肉原理主義には嬉しいレアレア感であり、この品質のタリアータが900円で食べれるとは、世界広しと言えども当店ぐらいでしょう。

「日本法人の立ち上げメンバーとして無我夢中で頑張ってきたつもりなんだけど、急に大企業の歯車だよ。今はとにかく拡大拡大利益利益」夢や希望はお金を手にした途端に欲望に変わるものなのだ。
串焼きはおまかせの10本を頂きました。お店は大忙しのてんてこまいで、1本1本についての説明はありませんが、平均1本170円と考えればカリテプリに優れたものばかり。売り切れの串もいくつかありました。

「また転職することになるんだろうなあ」彼は令和最大級の溜息をつく。「外資系企業を渡り歩いてる連中ってさ、別にステップアップしてるわけじゃないんだよね。海外発の新しい製品やサービスは日本に断続的に流入してて、各企業のステージごとに、俺たちみたいな人種が常に必要とされる。見知った奴らがアメリカ発のベンチャーの企業でのべつ幕無しに暗躍してる。ある程度、組織と市場が仕上がったら用済みで、次のスタートアップへと向かわざるを得ない。そういうエコシステムが完成してるんだよなあ」
「表面上の待遇は良いんだけど、なんかこう、自分で物事をコントロールしている気が全くしないんだよね。期待役割と作業は本国主導で完璧に細分化されていて、システマティック。100点以外は0点の世界。仕事、つまんねえなあ、飽きたなあ」
「なまじギャラが良い分、リスク取って独立しようって気にもなりづらい。もちろん自分は日本におけるコーディネーターに過ぎないって自覚があって、自分自身では何も価値を創り出せないって自分が一番よく知ってるから、そもそも何にも挑戦できないんだけど」人生は何事もなさぬにはあまりにも長いが、何事かをなすにはあまりにも短い。
カラスミポテト。フレンチフライにカラスミパウダーをかけただけというシンプルなものですが、糖質補給にちょうど良い。カラスミの独特の旨味が酒を誘います。

「やりたいことは特にないけど、やりたくないことなら沢山あるんだよね」彼は自嘲気味に笑った。「子供でもしっかり育てるかあ」子育て、立派じゃないか。失った物を取り戻すんじゃなくて、今あるものを大切にすればいい。成功も失敗もさして重要じゃないよ。続けることこそ肝腎だ。
「そうだ、ところで最近オススメの、旨くて高くないレストラン、どこ?」なんて雑な質問。人を使うことに慣れた漢の発言である。うーん、『高くない』って言っても、人によって金銭感覚は違うしなあ。具体的にいくらぐらい?「うーん、2万円ぐらいかな」
お前、それはズレとるぞ。何が「表面上の待遇は良い」だ。仕事つまんないとか贅沢なこと言ってんじゃねえ。『高くない』とは一般的に当店のような価格設定を指すべきだ。


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「東京最高のレストラン」を毎年買い、ピーンと来たお店は片っ端から行くようにしています。このシリーズはプロの食べ手が実名で執筆しているのが良いですね。写真などチャラついたものは一切ナシ。彼らの経験を根拠として、本音で激論を交わしています。真面目にレストラン選びをしたい方にオススメ。

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