すし昴(すしこう)/表参道

2019年9月にリニューアルオープンしたばかりの「すし昴」。元々の店主は四ツ谷「すし匠」で修業した後に独立を果たしたのですが、総本山がハワイに行くということで招聘され、当店は弟子の外屋敷光宏シェフが引き継ぎました。
カウンター8席ほどの小さなお店。ランチは休止となりましたが、事前に相談すれば15時から夜メニューでオープンしてくれるとのこと。魔術的な使い勝手の良さがあります。少人数制での運用であるため仕込み量が限られ、営業時間は長いですがそう何回転もしないそうです。
生ビールで乾杯。ドリンクメニューは提示されず具体的な価格は不明ですが、ビールに日本酒を2種飲んでひとりあたり22,000円だったので、トータルコーディネートとしてはそう悪くない価格設定です。
挨拶がわりに春子鯛。勿体ぶらずににぎりに突入するあたり、すし匠らしさが全開。シャリはタネとの相性を考えて赤酢と白酢を使い分けていました。
サバ。しっとりとした食感で味が濃い。負けずにシャリの味も濃く、迫力のある1カンです。
ガリは豪快なカットであり私好み。これぐらい食べ応えがあるとツマミ代わりに箸が進むので、ある意味では日本酒を飲ませる上手い仕掛けとなっています。
ヒラメは肝を挟んだものと、芽ネギを挟んだもの。酢〆されており、全体を通して酸味がその存在を主張する鮨屋だと理解しました。
タコ。どでかい吸盤に恐れおののく。シンプルですが確実に美味。大将は凄いなあ、ペースがバラバラの客全員を相手に、ロボットのように適確にテンポ良くツマミとにぎりを出していきます。およそ待たされたという印象は1秒も持ちませんでした。
深海魚のメヒカリ。たっぷり脂がのったところをギュっと炙り、凝縮感に溢れた味わい。
蒸したツブ貝も美味しいですねえ。アワビと価格差以上の何かは感じ取ることができず、もう世の中ツブ貝でいいじゃんとさえ思えてしまう味覚でした。これが、料理だ。
ホッキ貝もツブ貝に等しく旨い。日本酒をおかわりである。
シジミのスープは期待していたほど濃くはない。これまでの味の濃い芸風を踏襲するのであれば、もっとバリバリな味わいのほうが良かったかも。
ボタンエビ。味噌と卵も一緒に提供で、まさに酒のツマミという味わいです。ある意味では下戸の方は左党と同じテンションで楽しめないかもしれません。
中トロ。程よい酸味に品の良い脂。日本人に生まれて良かったと感じる瞬間である。
カマスも独特の塩気の強さが酒を呼ぶ。そうそう、当店は客層も良いですね。ウォーター系や港区女子とそのおじさんのような妙なカップルはおらず、素直に鮨が好きな善男善定が自腹で楽しんでいるという雰囲気です。
スミイカ。真っ白しろのピュアッピュアな味わいであり、あどけない甘味が心地よい。
コハダが絶品。〆はそれほど強くなく、コハダそのものの味わいが上品に出ています。コハダって、同じ魚なのに店によって全然味わいが異なるのが面白い。
少しのシャリに白エビをのせ、卵黄をたらします。何とも贅沢なTKGであり、思わずおかわりと怒鳴りたくなる美味しさでした。
ブリかわ。ブリのデブな部分をじっくりと炙り、魚の美味しさを引き出しています。
大トロは砂ずり。本マグロの希少な部位であり蛇腹とも呼ばれ、腹の一番下の部分です。上品に脂がのっており、筋も程よく柔らかい。鶏肉の砂ずりとは全くの別物です。
ツブ貝の肝。まさに江戸前フォアグラであり、酒ナシでは対峙することが難しい。粘り強い味わいであり、バケツ一杯テイクアウトして家でチビチビやりたいところ。
アナゴは白焼きで。ホクホクとした食感に穴子そのものの味わいが伝わり、ある種サッパリとした印象です。
天然の車海老は爆発的なサイズです。女性であれば一口では難しいほどの大きさであり、ムシャムシャと口の中が幸せで満たされました。塩漬けした卵黄が忍ばされており、何ともテクニカルな調味でもあります。
ブリの炙りヅケ。フワっとかおる香ばしい香りにどっしりとした味わい。うーん、こういうタネって好きだなあ。
サワラは酢〆。サワラをにぎりで食べる経験は乏しいのですが、上手に仕事をされているため割にすんなりと受け入れることができました。
イクラは一般的なサイズと異なり、海苔の高さがアッパー系です。ありそうでない楽しい軍艦でした。
カツオは燻した上でカラシが潜入捜査しています。とにかく香りが良く、ピリっとした辛味も魅力的なアクセント。
北海道のバフンウニは王道の味わい。あれ?これは海苔高くないんだと厚かましい気持ちが芽生えてしまいました。
蒸した穴子はとにかく柔らかく、優しい味わい。
追加でアジを注文。青魚特有の親しみやすい味わいがグッド。
エンガワ。これはびっくりするほど美味しいですねえ。コッテリとした脂の旨さはもちろんのこと、思い切り炙っても収縮することはなく、バクバクと食べ応えのある逸品。
追加でトロたく。マグロやタクアンの美味しさもそうですが、おお、やっぱこの店のシャリ、好きかもと振り返らせてくれる、シャリが主張した味覚です。
さらに追加でカンピョウ巻き。一般的なそれに比べるとカンピョウの量が多く、最後の最後まで酒を飲ませてくれる鮨でした。
焼きたてアツアツの出汁巻き。その名の通り出汁を食べる料理であり、ノスタルジックな気分に浸りながらご馳走様でした。
デザートはアイスクリームの抹茶小豆をチョイス。これまでの仕事ぶりに比べると、これはちょっと普通です。やはり「すし匠」の葛切り程のレベルを求めたいところです。

先述の通りお会計はひとりあたり2.2万円。鮨バブルが継続する中、この立地このクオリティでこの価格というのは実に良心的。店主や客に気取ったところは1ミリもなく、ちょっと贅沢して旨いものを食べよう!という日に最適なお店。こういう姿勢のお店に良い常連がつくのでしょう。客単価5万円で予約は半年待ちとか言われると、お店側もお客側も正直互いに疲れちゃうもんね。


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鮨は大好きなのですが、そんなに詳しくないです。居合い抜きのような真剣勝負のお店よりも、気楽でダラダラだべりながら酒を飲むようなお店を好みます。
この本は素晴らしいです。築地で働く方が著者であり、読んでるうちに寿司を食べたくなる魔力があります。鮮魚の旬や時々刻々と漁場が変わる産地についても地図入りでわかりやすい。Kindleとしてタブレットに忍ばせて鮨屋に行くのもいいですね。

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