ブローニュの「Le Pré Catelan(ル・プレ・カトラン)」を彷彿とさせる見事な庭園。週末の日中はウェディングで予約が埋まります。
井上旭シェフは21歳でフランスへ渡り、三ツ星「トロワグロ」や「マキシム・ド・パリ」で腕を磨いた後、帰国後は31歳の若さで銀座「レカン」の料理長に就任。その後の活躍は説明するまでもないでしょう。
今夜は連れのお誕生日祝い。泥酔すると事前に覚悟を決めていたので、泡からボトルでイっちゃいます。ワインリストをお借りしたのですが、店の格に比べると控えめな価格設定であり、結果として一番飲んでしまう価格設定でもあります。
ワインの値付けは難しいですね。私はあまりに法外な価格設定に直面すると「ビールください」「水でいいです」とヘソを曲げてしまい、結果として料理の印象も悪くなってしまうので。
乾杯のお供にはシンプルなグジェール。チーズの程よい旨味と塩気が食欲を掻き立てる。
アミューズには戻りガツオ。元気いっぱいのカツオの味覚だけで頬が緩むのですが、トッピングされたマスの卵もバランスの良い味わい。イクラだけが魚卵ではないのだ。
パンはプレーンで一般的なもの。今後、ソースがハッキリした料理が続くので、これぐらいの控えめなもので丁度よいのでしょう。バターは無塩と有塩の2種でいずれも高品質。
オマール海老とカリフラワーのムース ジュレ仕立て。これまた物凄い量のオマール海老がやって来ました。分解されてはいますが、1人前で1尾近くあるのではなかろうか。迫力のある食感に豊かな甘味、質実剛健なジュレの風味。まさに絶品と形容すべき1皿です。
フォアグラはフランかソテーのいずれかからの選択であり、ふたりでソテーをチョイス(食事では同じものを食べたほうが記憶に残り易いらしい)。フォアグラ・カブ・トリュフ・ソースと遊び心の無い直球勝負な構成です。
魚はアイナメ。淡泊な魚を補うのがソースの役割。アサリを中心にとった出汁を活用しており、品の良いアイナメの味覚にキャベツの甘味、アサリの旨味が折り重なる。
メインは当然にイノの代名詞とも言える「子羊のパイ包焼きマリアカラス(Maria Callas)」を注文。ロゼ色に焼き上げた仔羊にムギュっとフォアグラを詰め込んでパイ包み焼きにするという、食い道楽を地で行く1皿です。優しくクリアな仔羊の旨味にソース・ペリグーの迫力のある風味が乗っかり、特定個人のスペシャリテとしては最強クラスに旨い料理です。
ちなみに当館での結婚式披露宴においては、コチラのメニューを指定することも可能とのこと。結婚式でこのレベルの料理が食べれるとは羨ましい。
合わせるワインは少しひねってジゴンダスを選択。パワフルで濃厚な味わいであり余韻が長く、マリアカラスにピッタリ。我ながらセンスの良い
ワインにはまだまだ余裕あったので、チーズも頂くことにしました。クロミエは控えめな味わいでジゴンダスの重みには乾杯でしたが、テット・ド・モワンヌとエポワスのセクシーな風味がワインに妙に良くあいました。エロい。
デザートも最もヘヴィなものを選択。コッテリとしたバナナに濃厚なショコラ、キャラメル風味のアイスクリームと、恐らくは世界でもトップクラスに重いミルフィーユ。味濃いめ原理主義の私にとってピッタリの存在です。
毒を食らわば皿まで。調子に乗ってデザートワインまで注文。味の濃いミルフィーユに覆いかぶさるワインの甘味。日本人にはあまりない発想である。
お茶菓子に引き続き、お誕生日プレートが登場。何ともキュートな絵柄であり、絵と字が下手な私にとっては尊敬しかないのですが、このお皿、グレープ系のソースが満たされており、口にすることができ、実際に美味しいのが凄い。
「うーん、さすがだわ、こういうことなのね」舌を巻く、という表現がピッタリの表情で私を見つめる彼女。「ブログで自分のことをモテるとか書いててどんだけキモいオッサンだよって思ってたけど、確かにあなた凄いわ。こんなに素敵なお祝いができるだなんて。女の子が喜ぶツボを知っている。これまでの教育の賜物よね。歴代の彼女たちに感謝だわ」ちなみにこの日のデートはこのディナーだけでなく、丸1日かけて彼女のお誕生日を祝福し続けていたのです。臆病な自尊心と尊大な羞恥心。それが私をそうさせる。
随分と過去に寛容だねえ、僕のことをそんなに評価してくれるなら、独り占めしたいとかいう気持ちは芽生えないわけ?私は意地悪な観測気球を上げてみる。「そういう趣味は全く無いなあ。魅力的な才能は世に出るべきよ。天賦の才はシェアして皆で楽しむの。美術品だって、公衆の縦覧に供されてこそ価値を持つ。あなたはあたしにとって特別な人だけど、みんなにとっても特別な人。それでいいじゃない」そう、あなたはあたしにとって特別な人。彼女は確認するようにひとりごちた。
ツイート
関連記事
「好きな料理のジャンルは?」と問われると、すぐさまフレンチと答えます。フレンチにも色々ありますが、私の好きな方向性は下記の通り。あなたがこれらの店が好きであれば、当ブログはあなたの店探しの一助となるでしょう。
- ガストロノミー ジョエル・ロブション ←最高の夜をありがとう。
- アピシウス ←東京最高峰のレストラン。
- ナリサワ ←何度訪れても完璧。
- ナベノイズム ←世界観がきちんとある。
- ル・マンジュ・トゥー/神楽坂 ←接客は完璧。料理は美味そのもの。皿出しのテンポも良く、とにかく居心地の良いお店。客層も好き。
- TAIAN TOKYO(タイアン トウキョウ)/西麻布 ←流行り廃りに捉われないマッチョな料理。
- ア・ニュ Shohei Shimono/広尾 ←リニューアルしてリベラルに、旨けりゃなんでもいいじゃん的に
- ラフィナージュ(L'affinage)/銀座 ←王道中の王道。銀座とは考えられない値付け。
- ル・マノアール・ダスティン/銀座 ←まさに正統。
- SUGALABO ←料理だけなら一番好きかも。
- エクアトゥール ←天才によって創られる唯一無二の料理。
- ete(エテ) ←美食の行き着く先はお抱えの料理人。
- レヴォ ←人里離れた場所にありながら、日本いや世界でもトップレベルのフランス料理店。
- マノワール・ディノ(Manoir d'inno)/表参道 ←料理は直球勝負。ワインは高くない。
- フロリレージュ ←間違いなく世界を狙える。
- クレッセント/芝公園 ←グランメゾン中のグランメゾン。
- アサヒナガストロノーム/日本橋 ←そこらのフランス料理店とは格が違う。
- ティエリー マルクス ←料理の良さはもちろんのこと、ワインのペアリングが見事。
マノワール・ディノ