小十(こじゅう)/銀座

ミシュランガイドの発刊以来3ツ星を取り続け、同じ銀座で「銀座奥田」「すし晴海」を手掛け、パリとニューヨークにも出店という八面六臂の大活躍の奥田透シェフ。
カウンターは8席。凛とした空気が漂い、これぞ日本料理といった設えです。とは言え客を緊張させる雰囲気は微塵も無く、肌のキレイな大将はニコニコと笑みを絶やさずどのゲストにも満遍なく話しかけ、入店5秒でこれは居心地の良い店だと安心しました。
しかしながら生ビールは3口ほどの量で950円とひきつけを起こしそうになる。「ビールはビールであって酒ではない」「び、び、ビールは飲み物です」と、意味不明の反応を示す連れ。丁寧に注がれ文句なしに美味しいのですが、人生で最も高価なエビスであったことも確かです。
八寸が派手。座布団のように大きな葉っぱに季節を切り取った食材が勢ぞろい。右上のカレイの昆布締めにカラスミを纏った逸品が酒飲みには堪らない味。また、イクラそのものの美味しさも心に残りました。
お椀は素晴らしく美味しいですねえ。引かれたばかりのカツオと昆布の味わいが実にフレッシュであり旨味もたっぷり。饅頭のようにデカい海老しんじょうは食べ応えはもちろん、味わいも抜群。本日一番のお皿でした。
刺身は3種。ヅケとトロにウニをトッピングするという最強トリオは安定の味わい。恐らく初めて食べるメイチダイという魚は脂がのっていて甘味がある。今朝北海道から届いたばかりのボタンエビも問答無用の美味しさでした。
日本酒は1合1,500円前後~と、ビールに比べて相対的に割安です。ただしプレミアム系の酒も潜んでいるので、きちんと値段を確認しながら注文しましょう。
アワビとレンコン。ソースはもちろん肝のソース。これはもう、どうやったって美味しいですね。レンコンとアワビの食感の対比に始まり肝が織りなす重層的な味わい。
炭火でジュジュっと勢いよく焼かれたのはカマス。掛け布団のように包み込んでいるのは松茸です。旨味が強く迫力のある味わいのカマスは焼いただけで酒のツマミ。控えめな香りを放ちながらグニグニとした食感は合わせて食べるにちょうど良し。
神戸牛系のブランド銘柄「太田牛」の炭火焼き。なるほど肉の味に芯があり、脂が豊富ながら少しもクドくない。幾種類ものキノコたちの香りと食感もグッドです。あとギンナンが旨いな。
ニシンとナスを炊いたもの。ナスのトロリとした食感にビビッドな風味のニシンがベストマッチ。ちょこんと乗せられた生姜の風味も程よいアクセントです。
〆の食事は天然の大鰻を炭火焼きにした上で柳川鍋にしてしまうという道楽。ギンギンに生命力を感じる食べ応えに上品な出汁が染み渡り、秒速で1億粒のライスを食べてしまうほどの味わいです。
水菓子がオシャレなプレゼンテーション。シャインマスカットに巨峰、梨を秋の装いです。ゼリー寄せの部分が一番美味しかったりして。
自家製のわらび餅は流石の美味しさ。スーパーの最後らへんのコーナーで売られている100円のわらび餅とは別の食べ物と考えたほうが良いでしょう。

飲んで食べてお会計はひとりあたり3万円弱。銀座のこの立地でこれだけの料理を食べてこの価格というのは悪くないディールです。朗らかな店主の客あしらいは魅力的であり、ある意味昔からある定番中の定番中のお店であるためか、ヘン客はひとりもいなかった。逆説的ではありますが、高級日本料理の入門編として最適なお店。新入社員諸君が冬のボーナスを握りしめて緊張しながらお邪魔するのも悪くないかもしれません。


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