52 (ゴニ)/六本木


有名料理人たちがプライベートで訪れるお店を紹介する本で、「鮨さいとう」の齋藤シェフや「SUGALABO」の須賀シェフが通い詰めるお店として紹介されていたため、俄然興味を持ちました。
早い時間は当然に予約でいっぱいであるため、遅めの時間帯にお邪魔しました。明け方まで営業しており、深夜にきちんと美味しい料理を喰わせる店として、仕事を終えた料理人たちに愛されるお店です。
店内はカウンターとテーブルで合計20席ほどでしょうか。これだけの客を相手に2人のみで対応するのは凄いこっちゃ。

「雰囲気の良いお店ね」暗い店内であっても、陶器のようにつるんとした彼女の肌はとても目立つ。いつ見ても綺麗な肌だねえ、重要文化財として申請したいくらいだよ。「そう?今日は眉毛書いただけで出てきちゃったんだよね。すっぴんごめんなさい」彼女の美点は飲もうと決まってから5分で家を出るところだ。
アルコールは一律700円と明朗会計。焼酎ロックなどはコップに並々注いでくれます。

「昔付き合っていたカレからは文句を言われ続けてたんだよね。『せっかくのデートなのに眉毛書くだけだなんてありえない。たっぷり1時間はかけてメイクをして、髪も巻くべきだ』って」うーん、そんな図画工作のような美しさを求めてどうするのかなあ。すっぴんで5分でデートに行けるポテンシャルを高く評価すべきだと思うのだけれど。
パクチーサラダ。決して不味くはないのですが、まあ、普通のパクチーです。量も少なく、これで1皿800円は高いなあ。

「その男、あたしより高い化粧水とか美容液、使ってたんだから。あたしなんて極潤だってのに。ある日、そいつの鞄からファンデーションが転がってきたの。塗ってんのよ、男のクセに。しかもあたしが使ってるのよりも何倍もする高級品」
センマイポン酢。パクチーサラダの満足度から一転、これは素晴らしいツマミですねえ。細く細く切られたセンマイからは特有の臭みは一切感じられず、メリットのみを上手く抽出しています。グニグニとした食感とキュウリの対比もすごく良い。
よだれ鶏は美味しいのですが、やはり量が少ない。このポーションで1皿800円ならば、単純に量を倍にして1,600円としたほうが印象は良いのではなかろうか。とは言えカウンターおひとり様が多いことを考えれば、練りに練られた結果なのかもしれません。

「クリスマスデートは事前に行き先告げられてなくて。でも1年に1度の大イベントだから、仕方なくバッチリにメイクして髪も巻いてあげたのね。雪の寒い日だったんだけど、肩が出たワンピ。もちろんピンヒール。どこに連れてかれたと思う?」
油淋鶏も800円。なのですが、今度は割に量が多い。揚げたてで外皮はカラっと、内部はジューシーに仕上げられており、ソースも嫌味の無い味でグッド。本日1番のお皿です。
焼餃子は肉汁が豊富なタイプであり、小籠包の様相を呈しています。肉そのものの味が良く、強めにバリっと焼かれた皮が香ばしい。

うーん、ラグジュアリーホテルのメインダイニングとか、グランメゾンとか?「EXILEのライブだから。満員電車乗ってドーム行って、EXILEのライブだから」大事なことなので彼女は2度言った。
「あたしEXILEなんか全然好きじゃないし。ピンヒールなんかで長時間立ってらんないし。なのにその男、ひとりで超ノリノリだし。家に帰ってお父さんにグチったら、『EXILEを好きな連中にロクな男はいない。別れなさい』だって。だから別れた」そう言って、彼女は絶望的な薄笑いを浮かべた。
焼売も餃子とベクトルが同じく、肉が旨い。焼餃子よりも肉々しさは増し、さしずめ中華料理風のハンバーグといったところです。

「お父さんと言えば」彼女は思い出したように顔を上げる。「今度お父さんが出張で東京に来るんだよね。だから、3人で一緒にゴハン食べに行かない?」彼女は予想だにしない信号弾を放つ。お、お父さん?お父さんって実のお父さん?お、お義父さんってこと?な、何のために?しばし取り乱す私。
こちらは水餃子。たっぷりの茹でモヤシにコクの強いゴマダレ。これは美味しいですねえ。焼餃子も心奪われる美味しさですが、水餃子には更に味覚が加算され、多重的な風味に思わず笑みがこぼれる。
豚バラ黒酢。一見全てが肉に見えますが、長芋(?)のようなシャクシャク系のイモ類も含まれています。ただし油淋鶏や水餃子のボリューム感に比べると少し物足りない。

「何のためにって、あなたをお父さんに紹介したいからよ。あなたはあたしの楽しい東京生活を彩る素敵な存在なんだもの、当然じゃない?」ちょ、ちょっと待って、その日は確かシイタケ嫌いと「おにまる」でオープンラストでナイスゴーする約束してるから。「まだあたし、日程言ってないし。それとも、おにまるに行けばいいかしら?ねえ、私たちってそこそこお似合いだと思わない?」彼女はズルくて子供っぽい笑みを浮かべた。万事休す。その埋められた外堀には、髪の毛一本入りこむ隙間も無かった。
六本木だし、結構食べたし、お会計はふたりで15,000円ぐらいかなあと踏んでいたのですが、10,000円と少しで済みました。おおー、これはリーズナブルですねえ。1皿1皿のポーションが控えめで当初は不満を覚えていましたが、今となっては値段も量も小刻みに提供してくれていることを知り頭が上がらない。六本木深夜メシの決定版。二次会三次会でもガッツリ食べたい場合に是非どうぞ。


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レストランの在り方に迫るというよりは、六本木の今にクローズアップした特集。ラグジュアリーで儚い夜の街へと誘うガイドブック。紙媒体は売り切れちゃうのでお早めに。

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