アルコールは全てペアリングでお願いしました。当店の美点は、この手のレストランとしてはアルコールが手頃なところ。そういう意味で、酒飲みと下戸では印象が異なるかもしれません。
肉と薬味、調味料などが並べられ、セルフでタルタルを仕上げます。しれっとキャビアがのっているのが恐ろしい子。見て良し食べて良しの1皿です。
これは肉とタケノコのベニエだったっけなあ。目の前で揚げられたものに即座にキャビアがすり下ろされ、店じゅうに素敵な香りが漂います。皿の上や口の中でも肉に火入れが進行するのが面白い。
「この前ね、アプリで知り合った男の子とデートしたんだけど、色々噛み合わなくって、またダメだった」彼女は頭を掻きむしりながら言う。いつも思うのですが、私は毎度毎度なぜこの女の恋バナに付き合わされているのでしょうか。
私の人生において、恐らく最も豪華な手巻き寿司でしょう。香りの良い海苔に上品の良い量のシャリが敷かれ、たっぷりのレアな肉に腰が引けるほどの量のウニ、トドメにカニ。もはや料理と言うよりも素材かもしれませんが、そのような思考が断ち切るほど問答無用に美味しい味わいでした。
「お店でて歩いてる時に、ちょっと腕組んでみたの。そしたらカレ、『月が綺麗ですね』って言うわけ」夏目漱石かよ。このような口説き方は一周まわってもはや斬新ですらある。
「でしょ!?そこなのよ、ポイントは!」彼女は前のめりになって言う。唾が飛んできて少し汚い。「このエピソード、色んな人に話してるんだけど、『月が綺麗ですね』でピンと来る人、あたしの周りでは2割ぐらいしかいないんだよね」
目の前でササっと炊かれる牛肉。ごくごくシンプルな調理ながら、ああ、やっぱり肉って旨いなあとしみじみ。
ちなみに『月が綺麗ですね』とは『I love you』の意。英語教師をしていた頃の夏目漱石が、『I love you』を『我君を愛す』と翻訳した教え子を見て、「日本人はそんなことは言わない。『月が綺麗』ですねとでも訳しておけ」なんて言ったという都市伝説があるのです。
先の素朴な皿から一転して華やかな料理です。肉の美味しさはさることながら、様々なハーブが奏でる複雑な味覚に心を惹かれる。ちょろっと苦味もきいていて大人の味覚でした。
1口サイズのカツサンド。シンプルで率直な味わい。万人受けする味覚です。それにしても、目の前で作りたてのアツアツって良いですね。世のカツサンドの99%は冷えて提供されますが、温度が変わるだけでまた違った魅力を感じることができるのだ。
スタウトを合わせてきました。コース中盤で黒ビールというのは勇気の要る決断だと思うのですが、これが先の牛カツにとても良く合う。
夏目漱石、続く。また、彼女の周りの人々の名誉のために補足しておくと、彼女は日本でトップクラスの大学の文学部を卒業した後に超有名企業に就職しており、決して周りがオバカちゃんだらけというわけではありません。
メインはどストレートに肉。これまでかなりの量を食べて来たというのに、最後の最後でこの量はガチヤバイです。肉も率直に旨く、味変しながら食べ進めることもOKなので飽きが来ない。
わかるよ、その気持ち。人間関係で教養レベルがマッチしないと次第に上手くいかなくなるよね。僕もこの前、連れが「何?このお店なんでこんな静かなの?音楽が無くてシーンとしてると緊張する」っていうから、『4分33秒』が流れているじゃないか、って返したんだけど、全く伝わらなくて僕が滑ったみたいになっちゃったよ。
グラニテで味蕾を整えていると、最後のお食事はラーメンかカレーを選択できるとのことだったので、その両方を選択しました。
まずはラーメン。牛テールとすっぽんで取ったスープがとにかく美味しいですね。こんなにも澄んでいるのに味わいは実に複雑。行列のできるラーメン屋と同等かそれ以上の味わいです。
カレーは当店自慢の牛肉がたっぷりと溶け込み、液状化現象が生じています。アタックは甘く感じるのですが、きちんとスパイスが追いかけてくる印象。欧風カレーの最高峰は名古屋「東洋軒」のブラックカレーと信じてやまないのですが、それに比肩する美味しさでした。
デザートはシンプルに水菓子で。満腹だあ。腹に針を指せばプシュウと勢いよく飛び出してきそうである。
ちなみに『4分33秒』とはジョン・ケージが作曲した曲の通称であり、全楽章がTACET(休み)という無音の楽曲です。「またそうやってどうでもいい知識をひけらかす。良くないよ、そういうの」見事にハシゴを外されました。なんだこの女。今夜はワリカンだ。
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麻布十番には日本料理店も結構多いのですが、割高であることが多いです。外すと懐が大ダメージを受けるので、信頼のおける口コミと、味覚が似た友人の感想に頼って訪れましょう。
- かどわき ←高級食材をまとめ上げる確かな腕に舌を巻く。
- あらいかわ ←とにかく酒に合う旨いものを追求する。
- 鈴田式(すずたしき) ←食通のオーナーの記憶の断片を味見するというオムニバス形式のコース。
- 御料理 辻 ←デビュー1年で1ツ星。ランチは飲んで食べて1万円!
- ふくだ ←完成された簡素さを追求する方向性。
- 幸村 ←兎にも角にも固定電話。
- 六角 ←居酒屋としてはものすごく高い。
- 東郷 ←創作性に富んでいるというよりは混乱をきたしている。
- 暗闇坂 宮下 ←奇跡の1,600円鯛茶漬けランチ!
- すぎ乃 ←おでん専門店。割烹の煮物椀が次々に出てくる感じ。
- 尾崎幸隆 ←子連れで旨いものを食べたいご家族にオススメ。
- 日本料理 徳 ←石垣牛がメイン。ちょっと割高。
- 鮓職人 秦野よしき ←自由奔放で楽しい鮨屋。
- おざき ←外国人を接待するなら間違いの無いお店。
- たきや ←世界中からの予約争奪戦が始まりそうな予感。
- 天冨良よこ田 ←天ぷら入門編にはオススメ。
- 六覺燈 ←泡と揚げ物との組み合わせ。
- りゅうの介 ←味は良いがガチョーンなお会計。
- 南麻布 あら喜 ←カジュアルな雰囲気なのに滅茶苦茶高い。
- 麻布十番グルメまとめ ←ほぼ毎日、麻布十番で外食しています。その経験をオススメ店と共に大公開!
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