すし宮川/円山公園(札幌)

札幌のミシュラン3ツ星「すし宮川」。カウンター8席が2回転というキャパの小さい鮨屋であり、札幌でも屈指の予約困難店です。宮川政明シェフは日本料理店出身。「北の味おお乃」「鮨処西鶴」、3ツ星「鮨よしたけ」などで経験を積み、「香港すし志魂」の板長を経て独立。
酒が安い。小ビンが1,000円を切るのは当然として、バラエティに富んだ地酒がいずれも1合1,000円前後です。いやあ、これぐらいの値付けだと気前よくガブガブ飲んじゃうなあ。
ナスの焼き浸しをダイスカットし、キノコとイクラをトッピング。これが何とも品の良い美味しさであり、イクラの暴力的な味覚すら奥ゆかしく感じるほどです。
メジマグロ。脂のノリが異なる部位を重ね合わせ、コッテリとしたソースを塗って、仕上げに山わさびをトッピング。マグロもソースも何もかもが旨い。山わさびのピシっとした味覚も素敵なアクセントです。
シシャモの南蛮漬け。ありそうでない初めて食べる料理。ですが期待通りの美味しさ。魚はさておき味付けが実に上品であり、それでいてしっかりと強いという印象的な調理でした。
エゾアワビ。煮汁をさらに煮詰め肝と共にソースをつくり、コッテリと頂く。これがもう常識はずれの美味しさであり、我々は和洋中含めこれまで数々のアワビを食べてきましたが、この食材の頂点は鮨屋にあるのではないか。そんな議論をした一皿でした。
箸休めに新ギンナンと里芋(?)が出てきました。インターバルが長くなりそうだと見込んで事前にツマミを用意しておく段取りの良さ。
金目鯛は昆布締めした後に軽く炙って皮目に色をつけます。ふんわりと香ばしいかおりがたまらない。脂の厚みも物凄まじく、思わず目を閉じて咀嚼する美味しさです。
あん肝もパーフェクトな美味しさ。コッテリとした凝縮感は残しつつも、なぜかサッパリとした爽快感に溢れている。肝を食べる文化は古今東西百花繚乱ですが、この肝料理は頭ひとつ抜けていると思います。
にぎりはスミイカから。シャリが印象的。ネチョネチョと官能的な舌触りながら、米の一粒一粒にしっかりとした噛みごたえがあります。
ヅケ。調味が強い。それでいてしっかりとマグロの良さもわかる。手に取るようにわかる。どうしてこんなに調和の取れた仕事ができるのだろう。
クロムツ。魚そのものは淡薄な味わいですが、やはり手の込んだ1品であり、全体として完成されたにぎり。
中トロは柵漬けで。柵漬けとは切り身ではなく柵のまま漬けることを指すそうで、舌の当たる部分と外皮の風味にグラデーションが生まれて文句なしに美味しい。
コハダはまず外観が美しい。キーホルダーにして家のカギにつけたいほどの造形であり、味覚はサッパリとしつつも奥行きのある逸品。
ニシンを鮨で食べるのは初めてです。締まったニシンの美味しさは当然のこと、カンピョウやミョウガ、シソとの組み合わせが見事。まさに計算され尽くした味わいです。
カツオもやはり柵漬けした後に炙るという手の込みよう。殊のほか香りが良く、口に入れた瞬間、噛む前から旨いと感じる奇跡のにぎりです。
上質な卵とゴハンを丁寧に混ぜ、海苔とウニをトッピング。構成要素としてはありふれた組み合わせですが、どうしてこんなにも上品で美味しいのでしょうか。やはり海苔の香りがよく、当店の美味しさの決め手は匂いなのかもしれません。
車海老は目の前で剥き、キュキュっと握ってくれるので臨場感抜群。ニッチャニッチャと永遠に咀嚼し続け嚥下するのが名残惜しい。
アナゴもゼッピン。フワっとした食感ながらしっかりと造形ならびに噛みごたえは保っており、ツメは色合いほどは濃い味でなく、全体として流れるような1カンでした。
シジミは恐らく相当数の個体を用いているのでしょう。シジミよりもシジミの味の濃い液体に悶絶。
しっとりと水分を湛えた玉子で〆てごちそうさまでした。

人生でトップクラスに旨い鮨でした。北海道の鮨屋はシャリにネタをのせただけの海鮮おにぎり的なお店が多いですが、当店は実に繊細に、これでもかというほど手の込んだ仕事をしています。しかも料理だけなら料理だけなら1.6万円という奇跡の価格設定。連れと共にかなり飲んだのに、ひとり2.2万円に落ち着きました。
人気の鮨屋は威圧的でちょづいた雰囲気を湛えたお店が多いですが、当店にそのような空気は一切なく、柔和な笑みを湛えながら物腰柔らかく接する店主に告白してしまいそうになる。そのお人柄は従業員にも伝播するのか、二番手の方や給仕の女子たちに至るまで感じの良い方ばかりです。

一発でこのお店のファンになってしまいました。これは札幌を訪れるたびにお邪魔したいお店。予約は大変ですが、その価値は充分にあり。オススメです。


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鮨は大好きなのですが、そんなに詳しくないです。居合い抜きのような真剣勝負のお店よりも、気楽でダラダラだべりながら酒を飲むようなお店を好みます。
この本は素晴らしいです。築地で働く方が著者であり、読んでるうちに寿司を食べたくなる魔力があります。鮮魚の旬や時々刻々と漁場が変わる産地についても地図入りでわかりやすい。Kindleとしてタブレットに忍ばせて鮨屋に行くのもいいですね。