シャルキュ(CHARCUT)/虎ノ門

虎ノ門の路地裏の地下にある「シャルキュ(CHARCUT)」。店名の通り食肉加工品全般が主力選手。シェフはリヨンでシャルキュティエ(食肉加工技術を持つ職人)としての修業もした本格派。面白いところでは「BENOIT(ブノワ)」でサービスマン・ソムリエとしても勤務したそうな。
グラスのシャンパーニュは量こそ少ないものの、1杯950円と格安。日本で1,000円を切るグラスシャンパーニュは当店と高田馬場「ラミティエ」ぐらいではなかろうか。酒が全般的に安く、ビールは500円、グラスワインも600円~と良心的。

「ぷはー、やっぱり仕事終わりのシャンパーニュって最高だよね!」そうだねえ、と私は曖昧に頷く。何故ならこの日わたしは一日じゅう家でゴロゴロしていたのだ。労働などやりたい者にやらせておけばいい。
アミューズはチーズにセミドライトマトとベーシック。大げさでなくて、先の泡でクイっとやるにちょうど良い。ちなみに黒板の前菜メニューには「キャロットラペ 」「シュークルート」「リエット」など、まさにビストロといった料理が並び心躍る。
まずはスペシャリテのシャルキュトリから。3種の盛り合わせでお願いしたのですが、「レバー食べたい、レバーレバー」と彼女が前傾姿勢なので「鶏白レバーのプレッセ 」を指定。どうしても食べたいものについてはリクエストすることが可能です。
ねっとりと濃厚な「鶏白レバーのプレッセ 」に甘い系のワインを合わせて下さいました。これぞ最強といった組み合わせであり、何ともエロティックな味わいです。その他、「フロマージュ・ド・テット(豚の頭を軟らかく煮た後に型で冷やし固めたもの)」や「パテドカンパーニュ」など、まさにフランスのお惣菜という料理が続き親仏派の私としてはとても嬉しい。
自家製パンは水分たっぷりでモチモチと美味。このお店すごいなあ、何から何まで基本に忠実、全てが美味しい。

「ねえねえ今なに考えてるの?話してよ話してよ」ここのところ急峻に接近を試みる彼女。積極的な女の子は大好きです。「〇〇さん(私の名)って、見た目はアスペっぽくて何考えているのかわかんないんだよね。でも、一緒にいると、あたしが頭の中で考えていることを上手く言語化してくれる。いいなあ、その能力、欲しいなあ」どうやら私はアスペっぽくて何考えているのかわかんないらしいです。
「スープドポワソン(魚のスープ)」はとにかく濃厚。そのへんの魚介系ラーメン屋が尻尾を巻いて逃げ出すほどの旨さです。

「あたし、〇〇さんのこと好きよ。文体が好き。骨格も好き」骨格か。視点が斜め上である。要注意だ。メンヘラホイホイとして名を馳せた私が言うのだから間違いない。
「エスカルゴは絶対に食べたい」と、連れ。普通の女の子であれば敬遠する食材を何のためらいも無く勇気に拍手喝采。「珍しいかな?でも、カタツムリってすごく素敵じゃない?雌雄同体で自家受精も可能。自分ひとりだけの世界になったとしても、繁殖していくことができるのよ」
良く飲むふたりなのでボトルで行きましょう。ブルガリアのロゼ。チャーミングで親しみやすい味わいの万能選手です。

「どうして結婚指輪をつけてるの?ただの金属の輪じゃない。それに何か意味はあるの?」魔除けだね。こうでもしないと世の女性が僕を取り合って核戦争が起こるんだ。私は冗談めかして言う。「じゃあ、結婚してるってわかっていながら迫って来る女ってどう思う?その女の子は、もう覚悟はできてるってことだよね?」仮定の話はしない主義だからわからないよ、私は何とか答えをはぐらかす。
「シャルキュのサラダ」。葉物野菜とキャロットラペの奥底には大量の内臓群。鶏のレバーやハツなど深みのある味わいに舌鼓を打つ。これはサラダといいつつ酒のツマミである。ジャガイモのホクっとした食感が全体にリズムを産み、素晴らしい1皿でした。
「メインには絶対にフォアグラ」とあくまで肝臓原理主義の彼女。であればと特別にロッシーニ風で用意してもらったのですが、これがびっくりするほど旨い。どうしてもトリュフやフォアグラなどの高級食材に目が行ってしまう料理ですが、この皿に限っては牛肉の取り扱いもソースの出来も何もかもが私にツボの味わいでした。

ちなみにロッシーニ風とは、フォアグラとトリュフを贅沢に組み合わせた料理全般を指します。もちろんロッシーニとはあの有名な作曲家のこと。彼は音楽で大成功を収めましたが、食通としても有名。パリでレストランも経営していたほどであり、料理に専念しトリュフを探す豚を飼育する為に作曲活動を引退してしまった、絶対イイ奴です。
先のロゼと同じ作り手のどす黒いワインともマッチ。いやもう、本当に美味しい。こんなに美味しい料理を作れるだなんて、シェフは前世でどんな徳を積んでいたんだろう。

お会計はひとりあたり1万円強。リーズナブルかよ。何もかもが正真正銘のフランス料理であり、全てに犯し難い美味しさがあります。どうしてこんなにイケてるお店が空いてるんだろ。みんな見る目無いよなあ。

「人を愛することって、飲むこととか食べることと同じくらい自然なことだと思うんだよね」彼女はときどき詩人になる。愛は我々にとって宗教のようなものですが、同時に精神的な病でもあります。


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