TORISAWA CA10AL(トリサワ カジュアル)/麻布十番

焼鳥業界の最高峰「鳥しき」ののれん分け亀戸「鳥さわ」の3号店は麻布十番へ。新しくできたビルの8Fに入居し、エレベーターを降りるとすぐに店という面白い構造です。
座席はカウンターのみ10席ほどであり、焼台をぐるりと取り囲む形です。シックというよりはシンプルな内装であり、マンションの1室で友達に焼いてもらっているかのような錯覚を覚えます。
生ビールで乾杯。鳥しき系の美点は食事の良さもさることながら、酒の値付けが安い店。小さなグラスで2〜3口飲んで800円のような店が十番には多いですが、当店はそれなりにしっかり入って600〜700円程度だった気がします。

「この2日間で人生についてすごく悩んじゃって」卵のように丸いおでこを撫でながら、彼女は小さくため息をつく。
焼鳥が始まるまではお新香で場を繋ぐ。おそらく自家製のものであり美味しかった。

「会社から異動を打診されたんです。拒否権はあるんだけど、今の勝手がわかった仕事のままスペシャリストを目指すか、また違った世界を見に行くのか」若者よ、大いに悩め。君たちには未来があるということだけでも幸福だ。
1本目は「かしわ」。鳥のモモの部分であり、これぞ焼鳥という味覚。程よく焦げた香ばしい香りが食欲を刺激する。
「ぎんなん」。これは、まあ、普通の銀杏です。中目黒「祥門(ショウモン)」で銀杏を食べて以来、焼き鳥屋で数百円を払って数粒食べるのに抵抗が生まれてきた。

「○○さん(私の名)が最初に転職したのって、今のあたしと同い年ですよね?あたしなんて社内での異動でこんなに悩んでいるっていうのに、すごいなあ」確かに28歳の時だ、と私は間髪入れずに答える。それは転職という名の転社ではなく、マジでゼロからの再出発であり、常に自己破産と隣合わせという時期でした。もちろんそういう決断があってこその今なのだけれど。
うずらの玉子。彼女の大好物であり、私の大好物でもあります。ほどよくトロっと半熟の状態で提供される玉子はシンプルながら誰でも好きな味でしょう。
レバー。当店のレバーの芸風は限りなく生食に寄せており、私の好きなベクトルではありますが人によっては好みが別れるかもしれません。それでも臭みなどは一切なく、いわゆるレバニラ炒めのレバーとは全くの別物。
「カレシもずっとできないし。○○さんは2度も結婚できてズルい。他人同士が一緒に生活してそんなに長続きするだなんて、奇跡じゃないですか?」私の場合、パートナーに求めるポイントが3つあって、それさえ守ってくれれば後は大体うまくやる自信はあるので、それほど奇跡とも思っていません。その絶対に譲れないポイントとは『明るい』『嫉妬しない』『自立している』の3つです。
「はつもと」。大動脈の部分であり、先日食べたそれと比べて脂質が少なく、まるで違う部位のようです。筋肉質で野趣あふれる味わい。大好きな1本でした。
日本酒はワイングラスで提供され、1合弱が1,000円を切る価格。ワインのテンションでスイスイと飲んでしまうため、結構酔っ払ってしまいます。

「確かに『明るい』とか『ポジティブ』は大切ですね。大人になってから矯正のしようがないパーソナリティ。ただ、『ポジティブ』もなあ…」ポジティブがウリのアッパー系タケマシュランを前にして首を傾げるとは何事だ。
「いも」。小指の先ほどの可愛らしいサイズであり、ホクホクと旨い。塩気も強めにバリっとしており、程よい箸休めとなりました。

「ポジティブな人って、モテるじゃないですか、やっぱり。となると女性にだらしない男に化ける蓋然性が高い」彼女は射るような眼差しで私を見つめる。「かといって陰キャと付き合うと、それはそれでつまんないし…」どうしてもっとバランスの良い男がいないのかしら、彼女はたっぷり3秒はかけて大きなため息をついた。灯台下暗しとはこのことである。
「つくね」。私の好きなつくねはタレがデロデロ卵黄ドロドロこってり系なのですが、当店のそれは上品なタレに卵黄はナシという仕様です。それでもナンコツがたっぷり入ってサクサクと美味しい。それにしても最近の焼鳥屋は卵黄をつけないのが流行りなのでしょうか。ここのところずっと出会えて無くて寂しいな。
「せせり」。よく動く首の筋肉であり引き締まっているはずなのですが脂はたっぷりでジューシーという面白い部位です。さっきの「はつもと」をより淡白にしたような味わい。
「かた」。鳥に肩はあって当然だとうは重脳ですが、あまり部位として聞くことはありません。当店のそれはモモに近い味覚であり、程よい食感の強さに強い肉の旨味という印象。
「ちょうちん」。殻と白身に覆われる前の卵黄を一口でパクり。他店に比べて卵管の量が少なく、それだけ純粋に卵を味わえという意味なのでしょう。ネットリと濃厚でセクシーな味覚。本日一番の1本です。
「ゆりの蕾」。なかなかお目にかからない食材です。が、オクラやシシトウに比べると格別に美味かというとそうでもない。価格はいくらは不明ですが、肉を食べに来たアナタはスキップ(入店時に野菜は不要と伝えておく)しても良いでしょう。
〆は「ハツ」。いわゆる居酒屋などで出されるハツは原型を留めていないことがほとんどですが、コチラは丸のまま心臓で驚きました。残酷ながら旨い。野趣あふれる力強い味わいであり、程よくジューシー。細かく添えられたネギも見事な付け合せ。
〆は「そぼろご飯」か「卵かけご飯」の2種のみのご用意ですが、両方注文するのがオレ流です。そのへんのコンビニなどのそぼろなどとは一線を画し、きちんとした鶏肉をミンチにして料理にした気概が感じられる深い味わい。たっぷりの薬味も嬉しい。
「卵かけご飯」も美味しいのですが、ランチに食べたラーメン屋「中華そば 和渦 TOKYO(わか)」の50円卵かけゴハンが絶品だったので、色々と考え込んでしまいました。まあ、昼のアレが50円というのが異常なだけなのでしょう。
最後に鳥スープもお出し頂けました。口腔内にひっかかりを覚えるほどのコラーゲン感。鳥の滋味が感じられる、控えめではあるが複雑な味わい。絶品です。そう言えば昨日のランチ「水炊き鼓次郎(コジロウ)」に付随する鶏スープも美味しかったな。最近、鶏料理に恵まれているのです。

飲んで食べてひとり8,000円ほどに落ち着きました。これはリーズナブルですねえ。「焼鳥に8,000円かよ!全然カジュアルじゃねえ!」という意見はもっともですが、昨今の高級化が進む焼鳥業界において、この価格で最高峰の味覚を実現しているという店で素晴らしいお店でした。十番ではもちろんのこと、東京全体を含めてもかなり好きな焼鳥屋です。

オープンして数ヶ月なのに、既に予約が取りづらいのが難点。夜にフラっと行ければいいのにな。


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イタリア料理屋ではあっと驚く独創的な料理に出遭うことは少ないですが、安定して美味しくそんなに高くないことが多いのが嬉しい。

それほど焼鳥に詳しいつもりは無いのですが、私のコメントが掲載されています。食べログ3.5以上の選び抜かれた名店を選抜し、お店の料理人の考えを含めて上手に整理された一冊。

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