TAIAN TOKYO(タイアン トウキョウ)/西麻布

住所は西麻布なのですが、住人とヤマト運輸以外は入り込むことは決してない路地の奥、まさにマンションといった建物の地下にあるフランス料理店。隠れ家どころかこれでは家である。店名は千利休の作で京都に現存する国宝の茶室「待庵」が由来。
オープンキッチンに面したカウンターが1枚に6席の個室がひとつ。2回転など無粋なことはせず、敢えて満席にもせず1日1~3組のみの受け入れです。ワインリストのほとんどはブルゴーニュ。盛直行シェフはロブションを20年以上勤めあげた大ベテラン。ロブションの仲間を相棒に2人っきりで西麻布の地で気炎を吐きます。

と、ここまでの情報だとどれだけ気取った店なんだと敷居が上がりまくりシティであり、私としても中々に予約の電話をかけ辛かったのですが、ひとたびお邪魔すると実に居心地の良い、割烹料理屋的な雰囲気でした。
「いやあ、思ってたよりも全く閑古鳥ですねえ。お客様ゼロの日なんてザラですよ」と素敵な苦笑いをみせるシェフ。気さくな方で、まさにサンパといった雰囲気のある大将です。サービスはもちろんワインの仕入れも彼が行っているため、必然的に料理との親和性は高いと期待できます。
アミューズは毛ガニ・ウニ・キャビア・金箔の高密度多重層織。しかしちょっと待て、この日のランチは1万円のコースだったはず。一般的なグランメゾンであれば1皿数千円は覚悟しなければならないラインナップです。加えてただただ高級なだけでなく、カレーっぽい風味も混ぜ込まれていたりして、しっかりと美味しい。
中トロをマリネし、フルーツトマトやジャガイモ、イチヂク、生ハムと共に頂きます。これが、旨い。ある意味ではドンドンドンと素材を並べただけのシンプルな1皿なのですが、それぞれの構成要素がお互いの足りない部分を補完し合い、良い部分は主張し合い、シンプルながら素人には到底真似できないニュアンスが感じられました。
フォアグラにオマール・ブルー、宮崎のマンゴー。やはりどう考えたって1万円のコースの内容ではありません。雑味の無いクリーミーなフォアグラに弾力と旨味の強いオマール・ブルー。最強の糖度を誇るマンゴー。やべえなこのスリショとも言うべき組み合わせですが、これまた濃厚なソース・シヴェが全体を上手くまとめあげていました。

ソースが美味しくパンをつけて食べたいなと思ったのですが、「パンを食べてお腹が膨らむのであれば、料理をもう1皿召し上がって頂きたい」とはシェフの談。「ただしどうしても、とおっしゃるのであれば、そこのサワムラ(有名なパン屋)でバゲット買ってきます!」と、彼の心には弾力性がある。
メインはバサス牛。ボルドー近郊の定められた地域でのみでスクスクと育った大型牛であり、和牛の人工的なジューシーさとは対極にあるマッチョな味わい。量もたっぷりであり、ザクザクと力を込めて肉を切る様はまるでフランスにいるかのようです。ガッツリ旨い。夜であればワインをもう1本ボトルで注文していたところである。
フランス料理としては変化球ではありますが、〆の食事としてアワビのリゾットが出てきました。これにもまあ呆れる程のアワビが呆れる程のざく切りでぶち込まれており、もはやアワビのリゾットというよりもアワビの米添えに近い存在感。トップを飾るたっぷりのトリュフが霞んでしまうほどの濃厚なアワビの味覚。今さらながら、4,500円の追加料金の割に全然アワビが入っていなかった店への怒りが沸々と込み上げてきました。
デザートはシンプルにバニラのアイスクリームにメロン。徹頭徹尾、直球勝負なコース仕立てのお店でした。
個人的に物凄くツボなお店です。料理のポーションがいちいち大きく、今何を食べているのかがハッキリとわかる調理であり、それぞれの料理の印象が強く心に残るお店でした。純粋なフランス料理というよりは、フランス料理出身の旨いもの屋であり、「エクアトゥール(l'equateur)」や「グルマンディーズ(Gourmandise)」に近い食後感。映えるかどうかはさておき絶対に美味しい、そんなお店です。
ロブション出身ということで、ユーザーとしては「スガラボ(SUGALABO)」や「ナベノイズム (Nabeno-Ism)」「アサヒナガストロノーム(ASAHINA Gastronome)」的な煌びやかさを想像するかもしれませんが、それらのお店とはまるで芸風が異なり、極めて男性的で流行り廃りに捉われないマッチョな料理です。従業員が少なくそのぶん材料費に振り向けられているのか費用対効果は抜群。男同士や大食いの女の子とガッツリ食べに行きたいお店です。オススメ!


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