うなぎ時任/麻布十番

近未来天ぷらレストラン「たきや」の移転後、居抜きに近い形で入居した鰻料理店「うなぎ時任」。時任恵司シェフは「麻布野田岩」で15年間修行し、各店の料理長を務めた後に渡欧。帰国後2018年6月に当店をオープンしました。
一斉スタート形式。始めにシェフから鰻に関する資源問題についての説明がなされるのですが、この話が相当に長く、語調も強く、ひたすらネガティブなことばかり言われ続けるのでゲンナリします。「消費者の皆様にも理解してもらいたい」など、なぜ鰻料理屋に来ているのに鰻を食べることについて説教されねばならないのか。啓蒙活動のつもりなのでしょうが、鰻を食べようと楽しみにして来たのに、食欲が相当失せました。
うなぎバーガー。面白い試みではあるものの面白いだけであり、味覚としてはどうでしょう。バンズにマヨネーズがデロンデロンに塗られており、酸味が目立って素材の味を邪魔していました。鰻という水産資源を大切にしたいと熱弁していたのに、冒頭からこれでは先が思いやられます。
鮎にう巻き、煮凝り、燻製、うなぎのトマトソースのペンネ。う巻きには西洋風の妙な味付けが施されており、伝統的な味覚からは乖離しています。ペンネについては調理の段取りならびに盛り付けのテンポが非常に悪く、また、味見で口をつけたスプーンでそのまま盛り付ける間接キス形式で鳥肌が立ちました。
途中、生きた鰻をプレゼンテーションしてくれるのですが、これに係る説明も相当長い。個室客に対しては10分以上話し込んでいるため、そのあいだ調理は全てストップし、カウンター席の客全員がヒマしていました。この時点で入店から1時間経過。
鰻のムニエル。洋風にソースが添えられているのですが真似事でしかなく、そのまま食べるのが一番美味しかったです。
コーンスープ。中にはソテーされたホタテが敷かれており、毛ガニ・キャビア・揚げたウナギをトッピング。不味くは無いのですが構成要素がバラバラであり合成の誤謬が生じている料理です。
ようやく鰻重。しかしながらこの鰻は先ほどの生きた鰻を捌くわけではなく、別に保管された鰻を再度調理したものです。オペレーションの都合上、そんなものなのかもしれませんが、生きているところを見せられていただけに何だかねぇ。
鰻重は流石の美味しさ。フワっとした食感ながらも弾力が感じられる絶妙な調理加減であり、タレの風味も上品で凛とした味わい。白眉はライス。目の前の釜で炊かれたばかりの極上品であり、粒のひとつひとつが輝きを放っていました。

となると冒頭の演説はやはり不要。鰻の危機について熱烈に語る高邁な理念は結構なことですが、そんな話を聞かされた後、どのテンションで鰻重を食べれば良いというのだ。
お漬物も自家製でしょう。一流和食店の味わいです。
肝吸いは肝に雑味が無く、それでいて野性的で筋肉質な味覚が感じられ美味しかった。
デザートは葛餅。きな粉と黒蜜をかけて安定した美味しさです。
ジャパニーズ・エスプレッソである抹茶で〆てごちそうさまでした。

お会計は食事だけで8,000円と中々にリーズナブルです。うな重は最高レベルの美味しさであり、後半になって満足度が一気に跳ねました。しかしながら全体を通しての皿出しのテンポの悪さや説教臭さ、アマチュアなサービス(あの爪の色は何だ!)を考えると、高級レストランとして成立していません。黙ってテンポ良く料理を出せればまるっきり印象が異なるだろうなあ。鰻重だけの注文もできるようなので、鰻重だけ食べて帰るのが最も満足度が高いでしょう。


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麻布十番には日本料理店も結構多いのですが、割高であることが多いです。外すと懐が大ダメージを受けるので、信頼のおける口コミと、味覚が似た友人の感想に頼って訪れましょう。
東京カレンダーの麻布十番特集に載っているお店は片っ端から行くようにしています。麻布十番ラヴァーの方は是非とも一家に一冊。Kindleだとスマホで読めるので便利です。

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