TexturA (テクストゥーラ)/日比谷

築地の人気店「東京チャイニーズ一凛」や鎌倉の予約困難店「イチリンハナレ」を手がける齋藤宏文シェフの新たなる挑戦は「多様性」。ペニンシュラすぐ近くに100席近い大箱を出店。「中華・スパニッシュ・フレンチなど様々なジャンルの料理人たちが一つの厨房に集結し、新たな食体験をご提供いたします」と鼻息が荒い。
店内はバー、ダイニング、レストランと3つのゾーンに分かれており、注文形式によって案内される場所が異なるようです。我々は予約ナシのランチなので、入店して左のダイニングゾーンへと案内されました。

「成田で別れてきちゃった」彼女はクジ引きに外れたかのように、それほど残念でもなさそうに言う。何があったんだ、と身を乗り出して聞く私。「カレシと海外旅行に行ったんだけど、もう、人間性が嫌になっちゃって」人間性。これはまたスケールが大きい。改札でつっかえたおばあちゃんに後ろから舌打ちするとか?
ランチはプレートランチ、麺、サンドイッチの3種。プレートランチは中華前菜・中華メイン・スパニッシュ前菜・スパニッシュメインのうちから2種の組み合わせであり、私を含め周りのゲスト全員が中華前菜・中華メインを選択していました。

「カレの友達が旅行代理店に勤めてて、色々安くアレンジしてくれたのね。そこまではいい」彼女は長いまつ毛を伏せながら言う。
注文後数分で着丼。1,700円のランチプレートとしてはかなり豪華であり、順番で出てくれば、ちゃんとしたコース料理にもなり得る陣容です。

「旅行2日目の夜、ホテルに戻って来たら部屋が掃除されてないわけ。タオルとかも替えられていなくって。そしたらカレ、友達にブチ切れて、日本は真夜中だってのに鬼電話し始めるの。『お前のアレンジはどうなってるんだ!』って。しまいには『責任取って部屋をアップグレードしろっ!』だって」耳を疑うとはまさにこのこと。ツッコミどころが多すぎて文章化するのが面倒にすらなりました。
「季節野菜の蒸スープ」 。お野菜に肉と、ポーションは小さいものの様々な食材が詰まっています。調味は薄く出汁を楽しむ芸風であるため、後続の味濃い系料理の前に食べ切りましょう。

「でも、どうして掃除されていなかったのかはあたしも気になって、あたしが内線で聞いてみたのね。したら『プライバシーボタンが押されていた』ってホテル側は言うの。で、カレに確認したら、『プライバシーボタンが何かは知らないが、このボタンは確かに押した』だって」彼女は小さくため息をついた。
「もち豚焼売」はピンポン玉強の特大サイズ。非常に肉々しい味わいでありもはやハンバーグと評して良いかもしれません。それでいて豚肉特有の臭みはなく、年間5回香港に行く私であっても納得の味覚です。

「すぐに友達に謝ったほうがいいよ、って促すんだけど、特にフォローとかナシ」確かに一度出した結論を覆すことに屈辱を感じる器の小さな人間は一定層存在し、不思議と男性に多いのも事実です。
大好物の「よだれ鶏」。一般的なそれに比べてタレや薬味が妙に多いな、と訝しんでいると、、、
後から「山椒麺」が提供され、それにタレを絡めて食べるという二段階発射方式でした。それほど山椒の風味は強くなく普通の麺ではありますが、やはり麺という食べ物は人をほっこりさせる何かがある。

このエピソードのポイントは男女間の痴話喧嘩として相手が嫌になったわけではなく、第三者第四者を巻き込んだ騒動を引き起こしておきながら自分の非は一切認めない点にあるのでしょう。居酒屋の店員に偉そうなタイプ。確かにこれでは2人で1つの人生を歩むのはキツい。妻が姑にいびられても知らんぷりなことが予見できます。
メインの「陳麻婆豆腐」。見た目ほどは辛くなく、ネギの風味が強いなという印象。全体的な調味は麻婆豆腐としては控えめであり、豆腐の旨味さえ感じられるくらいです。
ライスは一般的な定食屋のそれと同等ではありますが、おかわり自由とカロリーオン。とは言え全体として実にボリュームの大きいプレートであり、麺も食べたこともあって既に満腹。

まあでも、これがハネムーンじゃなくて良かったじゃないか。そもそも君はアクティブで海外旅行にも慣れていて、他方、カレは大して海外に行ったこともない内弁慶なんでしょ?そもそものコンセプトが合って無かったんじゃないの?究極的には君の見る目がなかったことに尽きる。

「何よそれ。だったらあたしにイイ男、紹介してちょうだいよ」すぐ目の前にいるじゃないか。やはり彼女は見る目がない。
都心で1,700円のランチとしては最高レベルに素晴らしいお店でした。「中華とスパニッシュの融合」という大見得ほどの新規性は無く、料理のチョイスによっては単なる中華料理屋ですが、そうだとしてもこの費用対効果は目を見張るものがあります。今度は夜に、「融合」を楽しみに行こうっと。


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それほど中華料理に詳しくありません。ある一定レベルを超えると味のレベルが頭打ちになって、差別化要因が高級食材ぐらいしか残らないような気がしているんです。そんな私が「おっ」と思った印象深いお店が下記の通り。
1,300円としてはものすごい情報量のムック。中国料理を系統ごとに分類し、たっぷりの写真をベースに詳しく解説。家庭向けのレシピも豊富で、理論と実戦がリーズナブルに得られる良本です。

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