食べログの特典は2019年6月時点で4.05とウルトラ高得点。私は前衛的な料理をあまり好まないので様子を見ていたのですが、「いずれ予約が取り辛くなるだろう」と方々から脅されたので重い腰を上げることとしました。ちなみに店名はフランス語で「水」を意味します。
雑居ビルの地下、黒を基調としたモノトーンの店内。「フロリレージュ」を小さくしたような雰囲気なのですが、狭い店内にとにかくテーブルが詰め詰めであり席の間隔も恐ろしく狭い。居心地はめちゃ悪です。13時過ぎに満卓となったのですが、その際の話し声は賑やかを通り越して耳を圧するばかりである。騒音量としてはフードコートに近いものがあり、スタッフの料理の説明が普通に聞こえません。この調子だとデートや会食での利用は難しいでしょう。
アミューズは「水 葉 石」と称した1皿。水と葉と石に擬態した流行りモノであり、全然美味しくありません。特に左下のトマト水を透明な何かで包んだ代物は意図が全く不明であり、果汁グミのほうが数倍美味しい。「なんかナリサワとかフロリレージュに似てるよね。これが青山スタイルなのかしら」と、彼女。
岩魚。どういう調理なのかはわかりませんが、瑞々しさが欠落しており素材が死んでいます。ピスタチオを皮目に模して貼り付けているのですが、そんな工夫なんていらないから普通に美味しく出して欲しい。私のこの店に対する評価が音もなく凍りついた瞬間でした。
パンは焼きたてで結構美味しい。ホイップクリームをたっぷり塗ってパクパクと食べ進めることができます。これまでの料理がアレだったのであてこすりに秒で食べ切ったのですが、追加のパンは最後までもらえませんでした。
穴子と菊芋。おおー、これは美味しいですねえ。桜チップを用いての瞬間燻製で目で楽しい嗅いで楽しい。凝縮感のある穴子の風味にピュレとして滑らかな菊芋と揚げてチップスとなった菊芋のシンフォニー。本日ダントツで一番のお皿でした。
胡椒鯛。スイスチャードでチマキのように巻かれているのは珍妙ではありますが味は中くらい。食べづらい。イイダコは旨味が強く良かったです。
メインは豚肉。八角のような香りが漂い、上質な中華料理のチャーシューを食べているかのような味覚です。量もたっぷりであり、まずまずの1皿でした。
それにしても店内が騒がしい。厨房もサービスもてんてこまいであり、テーブルウォッチがままならず、各テーブルから「すいませーん」「すいませーん」とスタッフを呼び止める手が挙がりまくりであり、もはや壁が黒いだけの居酒屋です。もっと席数減らして単価を上げればいいのに。
デザートは「抹茶」。覆いかぶさっているカリカリをスプーンで割ると、抹茶のアイスとホワイトチョコレート(?)、抹茶のエキスがチョコチョコと覗きます。悪くないのですが、スタバの抹茶フラペチーノと本質は変わりませんでした。
小菓子はサイケデリックな柄のマカロンに落花生を模した生キャラメル、葉っぱを模したチョコレートでした。それぞれ普通に美味しいのですが、こういう見てくればかりに凝るんじゃなくて、アミューズや岩魚について本質的に美食を追求すべきでしょう。
静岡県産のウーロン茶を飲んでごちそうさまでした。
女の子がお手洗いに行っている間にお会計を済まそうとするのですが、「決済端末が壊れたかも」とのことで、現金を持っていない私はさあ大変。私を担当するスタッフは店の奥へと引っ込み機械と格闘を開始。いや、そんなに頑張らないで、振込先と金額を紙に書いてスっと私に手渡してくれれば済む話でしょう。
まあ、機械とは壊れるものであり、ここまではよくある話なのですが、その間の協力体制が最悪でした。その他のスタッフは「オレは関係ないもんね、ああ忙しい」とでも言わんばかりに我関せずの姿勢を貫いており、我々は都合20分間、手持ち無沙汰な時間を強制されることとなる。お茶を出して場を繋ぐなり、他のスタッフがフォローに回るなり、何かやりようはあるでしょうに。お前ら仲間だろ?チームでトラブルに臨めよ。「青山フレンチバスケットボール大会」があれば初戦敗退間違いなしのチームプレーです。公式ホームページで謳われている「細やかなサービスで心地よい空間をお届けします」とは何だったのか。
結局マシンは回復することなく、「コンビニでお金を下ろしてきて欲しい」とまで言われたので、私がその場で彼女に頭を下げ足りない1万円を借りてなんとか支払いを済ませました。私が考え得る限り最悪の結末です。もし私の年齢と彼女いない歴が等しく、このデートが人生最初で最後のチャンスだったとしたら、私の童貞をどうしてくれるつもりなのでしょう。この事件は決して「水」に流すことはできない。
複雑な食後感を胸に抱えながら地上へと昇り、さっきの1万円を返したいからコンビニに寄ってもいいかな、と彼女に声をかける。「ううん、あたしも食べたからそれは大丈夫だよ。ありがと」でも、と、よそよそしい態度で彼女は続ける。「このあと私、用事あるから、ここからタクシーで行くね。今日はありがと」彼女は言葉を切って立ち去った。
梅雨の合間の真夏日。絶望と共に頭の上を見上げると、抜けるような蒼井そらが広がっていた。
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