玉屋KITCHEN(たまやキッチン)/立川

東京の左の方に住む女医とゴハン。多忙な医者、かつ、遠くに住んでいるというのは中々にハードルが高い。しかしながら見方を変えると、そのハードルさえ越えれば都心で何でもないデートをするよりも印象に残るのではないか、そんな下心を持ちながら四ツ谷から快速でひたすら西に向かいます。
「わあ!ほんとに来てくれた!長旅おつかれさま~」立川駅で下車したのはおそらく人生で初めてであり、思ったよりも遠かった、が第一印象。吉祥寺の隣ぐらいの感覚でいたのに、そこからが長い。快速のくせに全部停車するんかよ、武蔵ホニャララばっかしやな、というのが正直な感想です。

「ココ、たぶん立川で一番美味しい焼鳥屋さん!予約しておきました!」彼女は自信たっぷりに胸を張り、大きく扉を開く。
生ビールで乾杯。「夏休みは家族でフランスに行くから、それまでに絶対〇〇さん(私の名)に会って、色々教えてもらおうと思って」彼女は楽しくてしょうがないといった表情でグラスを合わせる。超かわいい。
お通しはヴィシソワーズ。焼鳥屋のお通しとしては珍しい芸風ですが、味わいとしては中くらいでした。

このお店は6区にあって、こういうお店で…、私の簡単な説明を一所懸命にスマホでメモする女医。区で位置関係がパっとわかる時点でパリ中上級者だとは思うのですが、素直に意見を求められるのは話していて気持ちの良いものです。
1本目はネギマ。ただのモモ肉ではなくソリレス(胴体とモモの付け根の部分であり、珍重されている部位)を用いるあたり拘りを感じました。

「よし、ここは必ず行く」と、その場で予約を入れる彼女。畢竟、人生を豊かにする秘訣は行動力である。
ハツ。言わずと知れた心臓部分であり、ムシャムシャとしたハッキリとした食感が私好み。女医は「心臓かあ」とまじまじと肉塊を見つめる。医者が肉の部位を語ると、素人のそれに比べてやはり重みが違う。
つくね。やや粗目に挽いた肉をサッパリとしたタレで頂きます。個人的には卵黄つきのものが好きですが、これはこれでありよりのあり。
とりひれ。清澄でプレーンな身にたっぷりと大根おろしがのせられており、焼鳥というよりも何か上品な和食を食べているような気にさせられました。

ところで、そもそもパリに何しに行くの?私は鶏肉を頬張りながら聞く。「ちょうどセールの時期だから、まずはお買い物かな。それから家族で乗馬」彼女の育ちの良さを垣間見た瞬間でした。
トマベー。見ての通りトマトとベーコンです。普通に美味しいですが、わざわざ焼鳥屋で食べるものでもないかもしれません。

「本当はカレシと旅行できればいいんだけど、出会いが全然無くって…。ねえ、誰かイイヒト紹介してくださいよ。このままじゃ、あたし、『女医1/3の法則』に貢献しちゃう…」その法則とは、3分の1は生涯未婚、3分の1は離婚、残る3分の1のみが結婚生活を全うできるという女医の世界における呪いとのこと。「女性のモテない職業ランキング1位はプロレスラーで、2位が医者なんです」瞬間、彼女はこの日一番の暗い顔を見せた。
6本目はレバー。「あたしはそんなに食べれないから」と、5本コースを注文した彼女には当然に届けられないのですが、彼女は無言でじっと串を見つめ続けます。た、食べる?瞬間、彼女はこの日一番の明るい顔を見せた。
7本目はハツモト。心臓と肝臓を繋ぐ部位で大動脈的な存在。筋肉質な味覚と思いきや意外に脂が多くジューシー。「なるほど、こういう部位も焼鳥では食べるのかあ」と、じっと私の串を見つめ続ける彼女。た、食べる?
「ねえねえ、2軒目行きましょ!実はもう予約してあるの」平日の仕事おわりに2次会前提で会って、なんて血の通った対応なのでしょう。何から何までアレンジしてもらったお礼に手早くお会計を済ませると「そんな!わざわざこんな遠くまで来てもらってるのに!旅費までかけてきてもらって申し訳ないです」と、彼女。そろそろ多摩県の独立を検討する段階に入ったのかもしれません。県庁所在地を立川か八王子のどちらにするか議論の余地はあるけれど。


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イタリア料理屋ではあっと驚く独創的な料理に出遭うことは少ないですが、安定して美味しくそんなに高くないことが多いのが嬉しい。

それほど焼鳥に詳しいつもりは無いのですが、私のコメントが掲載されています。食べログ3.5以上の選び抜かれた名店を選抜し、お店の料理人の考えを含めて上手に整理された一冊。

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