大きなテーブルがひとつにカウンター2席のみのコンパクトなお店。まるで友達の家のような空気感で居心地良し。長谷川北斗シェフはフランスで8年間腕を磨き、帰国後、飲食関連のコンサルティング業を手掛ける傍ら「半分趣味で、ストレスなしで楽しんでいます」と、今夜も美味しい料理を作ります。
シャンパーニュで乾杯。スタンダードなグラスでの大容量。この地この量このクオリティで1杯1,500円はリーズナブル。青リンゴのような香りと炭酸で内臓が刺激され、食欲が増強されます。
先頭打者はキャビア。ブリニ(小さなパンケーキ)にハーブが練り込まれたクリームチーズをたっぷり塗り、小さな黒い真珠をトッピングして一口で頂きます。キャビアはビンで丸のまま頂くのもテンアゲですが、やはりこれぐらいの上品な量で食べるのが味覚としては最上ですね。おシャンパーニュともピッタリです。
フランス産の極太ホワイトアスパラをカラりと揚げました。洋食的な外観でありフライ好き揚げ物好きな日本人の心を鷲掴み。サクっとした外皮の食感にジューシーな肉質。全体的に酸味が支配的であり、見た目からは考えられないほど軽やかに食べ進むことができます。
ワインはお料理に合うように全てお任せ。電話対応、仕込み、ワインの管理、料理、サービスなどをシェフが全てを担う正真正銘のワンオペであり、何かとタッチするタイミングが多く心が通います。やはり作り手と食べ手の距離が近いのはいいことだ。
三田牛のカルパッチョ。上質な肉の脂の乗りが良い部分を絶妙な薄さにスライスし、イチゴやトマト、チーズと共に頂きます。これはもう、犯し難い美味しさがありますね。肉の食感、脂の甘味、トマトやイチゴの酸味、チーズの旨味が渾然一体となって迫り来る。それでいてそれぞれの構成要素がきちんと取れる見事な1皿です。当店を訪れる前に2週間ほどずっとフランスに滞在し、毎日良いお食事を楽しんできたつもりですが、それらのどの料理よりも美味しかった。
バゲットは素朴ながら確かな品質。フランスは他国に比べてパンのレベルが異常に高いので、フランスで生活を重ねた料理人は提供するパンのレベルがついつい高くなる傾向にあります。
何とパスタが出てきました。日本人の好みを究極にまで突き詰めた料理構成です。これがまた常軌を逸した旨さ。ソースはアメリケーヌソース的なベクトルであり、殻の香ばしい風味が特長的。エビの姿は見えないのに、エビよりもエビの味がします。今度お邪魔する際は大盛りでお願いすることにしよう。
肉は一切の付け合わせを置かず、特大サイズの三田牛をボカーンと提供。これはフライパンで焼いているのかなあ、表面は苦味すら感じるほど男前にバリっと焼かれている一方で、内面はしっとりと瑞々しくジューシー。嫌な脂は一切なく、200グラム近くあるにもかかわらずスイスイ食べ進めることができます。香りも凄くいい。
嘘でしょ。何とジスクールの96がグラスで出てきました。熟したブドウがさらに樽の中で熟成され、官能的な凝縮感が感じられます。香りは多岐に渡り、黒系果実を中心にスパイスひいては燻製的な香りまで。先の肉、特に表面近くの部位にこれ以上ない組み合わせ。まさに最高の料理とワインです。
「あたしもっと食べたい」ということで、ポルチーニのリゾットを追加注文。ケチなイタリア料理屋であればポルチーニとは名ばかりであり風味づけに留まることが多いですが、当店のそれはポルチーニが本当にゴロゴロと入っています。濃密なソースにチーズのコク。もはやフランス料理という枠を超え、グルマンディーズ料理です。
良いワインが続きます。樽の香りがしっかりと取れ、上品に重い風味は先のリゾット、とりわけポルチーニの味わいにピッタリ。
シェフの全てを堪能したいと甘味も追加でお願いします。実に朴訥でややもするとパっとしない外観ですが、質実剛健な味わい。上質な素材そのものの味覚がダイレクトに伝わってきます。モリヨシダでも感じましたが、こういった何でもない菓子が心底旨いのがトップ中のトップです。
良く飲む我々はコーヒーではなくワインで〆ます。ボルドーでありながら赤系果実のニュ案すも目立ち、繊細なタンニンが特長的。口当たりが円やかで、優しい余韻でごちそうさまでした。
印象深いお店です。フランス料理という枠に囚われず、それでいて基本は基本としてしっかり守り、どの皿も完璧に安定した味わい。シンプルで潔く、和食の趣きすら感じさせる料理の数々。いま何を食べているのかがハッキリとわかる仕様であり、良い意味で万人受け、特に日本人受けする洋食的な旨いもの屋です。
食後にシェフとお話させて頂きましたが、とにかく目線が高いですね。兎にも角にも察しが良く、ゲストがどう感じるかを2手3手先まで考えている将棋のようなストーリー展開があります。この料理このサービスのクオリティを保ちながら皿出しのテンポが良いのにも脱帽。ギャル風に言えばリピ確定★な夜でした。
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「好きな料理のジャンルは?」と問われると、すぐさまフレンチと答えます。フレンチにも色々ありますが、私の好きな方向性は下記の通り。あなたがこれらの店が好きであれば、当ブログはあなたの店探しの一助となるでしょう。
- ガストロノミー ジョエル・ロブション ←最高の夜をありがとう
- アピシウス ←東京最高峰のレストラン
- ナリサワ ←何度訪れても完璧
- ナベノイズム ←世界観がきちんとある
- ル・マンジュ・トゥー(Le Mange-Tout)/神楽坂 ←接客は完璧。料理は美味そのもの。皿出しのテンポも良く、とにかく居心地の良いお店。客層も好き。
- SUGALABO ←料理だけなら一番好きかも
- エクアトゥール ←天才によって創られる唯一無二の料理
- ete(エテ) ←美食の行き着く先はお抱えの料理人
- レヴォ ←人里離れた場所にありながら、日本いや世界でもトップレベルのフランス料理店
- フロリレージュ ←間違いなく世界を狙える
- クレッセント/芝公園 ←グランメゾン中のグランメゾン。
- アサヒナガストロノーム/日本橋 ←そこらのフランス料理店とは格が違う。
- キャーヴ・ドゥ・ギャマン・エ・ハナレ ←世界を狙える日仏料理
- ティエリー マルクス ←料理の良さはもちろんのこと、ワインのペアリングが見事