兆治(ちょうじ)/心斎橋

カード会社の会報か何かで、歌舞伎役者たちが大阪公演の打ち上げ(?)で必ず訪れるお店として紹介されていたお店。中村某や市川某などそのへんの人が絶賛しており、ずっとお邪魔したいと考えていました。心斎橋駅から徒歩数分の裏路地にあります。
1階はテーブル席で、2階はお座敷。滞在可能時間は2時間なのですが、めいいっぱいゆっくりするお店という雰囲気ではなく、バーっと食べて1時間前後で出るお店です。
テーブルのコンロの上には既に完成形のてっちゃん鍋が。電話予約の時点で「お鍋は食べはりますか~?」と聞かれており、イエスと回答したのですが、なるほど最初から準備しておいてくれるのですね。着席するとすぐに店員さんが火を入れ始め、入店3分で鍋から湯気が上がり始めました。
「アテはどうします?」と問われ、なるほどサイドメニューのツマミのことかと得心。初めて来た旨を伝えると、人気かつ自信のある料理を推奨して下さったので全て注文。まずはユッケ。濃密な肉の味に濃厚なタレ、そして卵黄。王道中の王道の味わい。
「肉たたき」。ユッケとはまた異なる食感の肉の表面を軽く炙り、あっさりと頂きます。
ようやく、と言っても入店5分ほどですが、料理に前後してビールが届きました。生ビールもあるのですが、「忙しいから瓶でええか~?」と店側が主導権を握ります。もちろん彼らが横着しているというわけでは決してなく、ゲストにスムーズに飲食物を提供するための行動。結果として当店の皿出しのスピード感が実現されているのでしょう。
「キムチ盛り合わせ」。美味しいのですが、先の「肉たたき」と似たような価格であることを考えると影が薄く感じました。キュウリは面白い味覚なのですが、まあ、あえて注文する必要はないかもしれません。
「熊本直送馬刺し」。こんなに淡い色の馬刺しは見たことがありません。マグロの刺身と見紛うほどの薄ピンクであり、見た目の通り味わいもクリア。いわゆる馬刺しとはまるで方向性の異なる、興味深い一皿でした。
鍋の調理は全て店員任せ。ネット上の口コミでは店員が怖いだの口調がキツイだの色々と書かれていますが、私とすればむしろ快活で調子よく、ゲストを楽しませようの精神に漲っているように感じました。これが大阪である。
スペシャリテの「テッチャン鍋」が煮えました。具材はテッチャン(ホルモン)にキムチ、もやし、タマネギ、ねぎ。今回は追加でハラミも注文。見た目ほどは辛くなく、むしろ甘い。ヒトコトで言うとジャンク。濃厚な調理でありわかり易い味わい。万人受けするでしょう。
終盤には〆のうどんが提案されます。これが、旨い。先の鍋の延長線上の味わいではあるのですが、やはり炭水化物は偉大なのだ。「まだ入るか?入るんやったら雑炊もあるけど」と、糖質制限者であれば発狂してしまいそうな押し売りです。
飲んで食べてお会計はひとりあたり7,000円前後。B級と評するには決して安くはなく、かといって唯一無二の絶品かというとそうでもありませんが、接客態度を含めてパワーを感じるお店です。近くの道頓堀の喧騒もあわせ、ここで食事を摂ればまず間違いなく大阪らしさを感じることができます。「ごめんなー、2時間で出てもらって。おおきに!今度は空いてる時にゆっくりしてってや~」味覚や費用対効果はさておき、何とも心が温まるお店でした。


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