ニューオータニのイベント「世界で活躍する日本人シェフフェア」の第9弾。パリで活躍する渥美創太シェフと、ニューヨークのミシュラン2ツ星レストラン「BLANCA(ブランカ)」のコラボレーション。
渥美創太シェフはフランスの「メゾン・トロワグロ」「ステラ・マリス」「ラボラトワール・ドゥ・ジョエル・ロブション」などを経て、26歳で「ヴィヴァン・ターブル」のシェフに就任し、28歳でパリ11区大人気ビストロレストラン「クラウンバー」のシェフに抜擢。2019年9月にはパリにて「MAISON」という店名で独立予定です。「BLANCA(ブランカ)」のCarlo MirarchiシェフはNY生まれNY育ち。チャイナタウンの「Good World」でシェフを務めた後、2008年に友人とブッシュウィック地区にピッツェリア「Roberta’s」をオープン。続いて12席のレストラン「BLANCA」を開業しミシュラン2ツ星を獲得。
ところで、当店というか当館のソムリエひいては料飲部門は節操がないですね。ワインリストを確認したところ、カ・デル・ボスコが2万数千円(税サ別)と、常軌を逸した価格設定です。ボランジェの一番安いやつは2.4万円、ドンペリ04に至っては12万円と、もはやワロタレベルではない。
さすがに腹に据えかねたので、ソムリエに「このワインリストは通常営業と同じものか?」と尋ねたところ、「同じです」との回答でした。ダウト。このソムリエは嘘をついている。
私はトゥールジャルダンをはじめ、当館のレストランをいくつか利用させて頂いたことがありますが、過去あんな非常識な値付けは見たことがありません。もちろんイベントごとなので、通常と異なる価格にしたい気持ちはわからなくもないですが、それならそうと、「今回はイベントなので特別価格とさせて頂いております」と一言添えれば済む話でしょう。
色々とあまりにムリだったので、食前酒はパスして料理に合わせた特別なペアリングコースのみ注文。「シャンパーニュに目がない○○さんと僕でディナーに行って、泡を飲まなかった店として、今夜は記録に残りますね」と、連れ。ゲストに嘘をつくなど言語道断。ホテルは信頼が全てです。
今年一番のイライラを抱えながらアミューズに着手。こちらはBLANCAの提供(以下【B】)。ポレンタ(トウモロコシのお粥)をベースに弾力のあるウニをたっぷり盛り付け、レフォール(西洋ワサビ)を散らします。これが、旨い。ポレンタの優しい味わいにメリアリのあるウニの風味、アクセントとなるレフォール。つかれた嘘などすっかり忘れ自然と笑みがこぼれます。やはり美食には不思議な力があるのだ。
こちらはMAISON(以下【M】)の皿。フランス産のホワイトアスパラガスにアンチョビとルバーブで味を加え、京都の立派な湯葉で包みます。全体として優しい味わいなのですが、食べ進めるにつれて味覚が変化していくのが面白かった。
パンはBLANCA系列のピザ屋「Roberta's」のピザ生地を。ビジュアルがいいですね。こういった迫力は食べる楽しみをテンアゲしてくれます。添えられたコッパ(生ハムの一種)のジットリとした脂も美味。
【M】のオマール・ブルー。ポーションがなかなか大きく食べごたえがあり、海老の旨味が充満しています。海老の裏にはキャビアまで。とても美味しいのですが、料理というよりも素材であり、このイベントで食べる必要があったかは疑問。
【B】のパスタ。その色合いは「プランクトンパウダー」という新手の試みの成果であり、なんとハンドクリームほどの瓶で8万円もするそうな。しかしその値段に見合った味覚を演出しているかどうかは微妙である。具材はトリガイ、タイラガイ、ミルガイの貝類3兄弟。ニンニクの風味が強く、唐辛子のパンチもあって、全体としては大変美味しかった。
【B】の中トロ。ミ・キュイどころか完全に生。高級鮨屋で出されてもおかしくない品質のマグロであり、料理以前に素材として素晴らしかった。加えてスープ(?)。マグロの髄液やウーロン茶を主軸に多種多様なハーブを用いており、何とも彩り豊かな味わいでした。
【M】はモリーユ茸とトコブシ。ガッツリとしたボリューム感のキノコであり、何を食べているのがはっきりわかるのがいいですね。トコブシはホンニャリと柔らかく円みを帯びた食感で、ホロホロ鳥の卵黄もネットリとして面白い。もう少しコクのある何かがあれば尚よかったです。
【B】の肉。青森のドライエイジングビーフであり、熟成香がハッキリとしています。これが美味。香りが良く、醤油ベースの調味もグッド。野生のアスパラも味が濃い。それにしても、これだけの特殊な食材をこのイベントによく集めたなあと脱帽。連れは軽くお肉博士なのですが、「あの肉はかなりのものだ」と舌を巻いていました。
【M】のデザート1皿目はフルムダンベールのアイスクリーム。フルムダンベールとはフランスの青カビチーズであり、その風味を上品に抽出しアカシアのハチミツを添え、これは完全にフランス料理におけるチーズに他なりません。
この味覚であれば、合わせるワインは絶対にソーテルヌ方面だと思うのですが、ソムリエからの提案は謎にフランチャコルタのベラヴィスタでした。しかも60mlで2,000円と市価の10倍以上の価格設定。このホテルの料飲部門は正気でしょうか?ひとりぐらい良心のあるソムリエがいて、会議で「それは良くないと思います!」と言って欲しいのだけれど。こんな場面でニューオータニというブランドを切り売りして小金を稼いで何になる。
【M】のデザート2皿目はライスプリン。カカオの風味が直線的で万人受けする味わいです。が、緑色のアイスクリームはイマイチ。ややこしい味覚を導入しており私レベルの味蕾では美味しいと感じることができなかった。
コーヒーはさすがのホテルクオリティ。きちんと美味しかったです。
料理2.5万円ワイン1.5万円、水やら税サやらでトータルではひとり5万円弱。料理人を招聘してのイベントごとは当たり外れが大きいものですが、今回は当たりに分類されるでしょう。冒頭のソムリエとのやり取りは相当イラつきましたが、終わってみればワインのペアリングの内容も悪くない。であれば最初から「全部込みで5万円」でやりゃあいいのに。サンプリシテの値付けの悪さに通じるものがありました。
話はやや飛躍しますが、日本のソムリエの限界はここらへんなのかもしれません。フランスのレストランでソムリエに予算を伝えると、その金額を超えた提案をすることは絶対に無く、むしろかなり安めのボトルを推奨し「ホラ、僕ってセンスいいでしょ?知ってるでしょ?」アピールをしてくることが多いのですが、日本のソムリエは指定した金額の1〜2割高いものを平気で提示し、ゲストに断りづらい雰囲気を上手に演出してきます。ゲストとしては予算を伝えるだけでも結構勇気が要るのに、まだ上乗せしてくるのか、お前は不動産屋か。もちろんこれは個人の問題ではなく、ワインという液体が本来的に生活に根ざしているのか、金儲けのツールなのかの違いなのでしょう。
となると料理人がかわいそうですね。せっかく素晴らしい料理を作っているのに、最前線のソムリエが金儲けを意識し全体としての印象を引き下げる。もちろん冒頭の彼に嘘をつくメリットは個人として何もなく、そうせざるを得ない空気が開店前のミーティングであったのでしょう。つまり個人の問題ではなくホテル全体・会社としての姿勢の問題。然るに私は向こう5年はこのホテルの敷居をまたがないことに決めました。
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「好きな料理のジャンルは?」と問われると、すぐさまフレンチと答えます。フレンチにも色々ありますが、私の好きな方向性は下記の通り。あなたがこれらの店が好きであれば、当ブログはあなたの店探しの一助となるでしょう。
- ガストロノミー ジョエル・ロブション ←最高の夜をありがとう
- アピシウス ←東京最高峰のレストラン
- ナリサワ ←何度訪れても完璧
- ナベノイズム ←世界観がきちんとある
- ル・マンジュ・トゥー(Le Mange-Tout)/神楽坂 ←接客は完璧。料理は美味そのもの。皿出しのテンポも良く、とにかく居心地の良いお店。客層も好き。
- SUGALABO ←料理だけなら一番好きかも
- エクアトゥール ←天才によって創られる唯一無二の料理
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- レヴォ ←人里離れた場所にありながら、日本いや世界でもトップレベルのフランス料理店
- フロリレージュ ←間違いなく世界を狙える
- クレッセント/芝公園 ←グランメゾン中のグランメゾン。
- アサヒナガストロノーム/日本橋 ←そこらのフランス料理店とは格が違う。
- キャーヴ・ドゥ・ギャマン・エ・ハナレ ←世界を狙える日仏料理
- ティエリー マルクス ←料理の良さはもちろんのこと、ワインのペアリングが見事