美酒嘉肴 ゆきみさけ/中野

16日間にも及ぶ海外旅行から帰国し、さすがに和食が食べたい。しかも堅苦しい料理ではなくて、親しみのある家庭料理。であればと、中野で話題の小料理屋へと向かいます。女将さんは銀座のクラブでホステスをされていた後に独立したそうな。
アサヒのプレミアム生ビール熟撰で乾杯。深いコクがあるのに飲み飽きないグッドでナイスなビールです。

槇原敬之の『もう恋なんてしない』の歌詞がよくわからないんだ。意を決して私は相談する。そう、あの曲の歌詞については昔からどうもしっくりきていないのです。
お通しは10種近くある中から自分の好きなものをチョイス。ただしかなりのボリュームがあるので同伴者と相談しながら選択肢、シェアして食べると良いでしょう。

左は「切りこぶとさつま揚げの炒め煮」。字面は地味な料理ですが、迫力のある昆布の旨味が後を引く美味しさ。右の「鶏モツ煮」は見た目通りコッテリした味わいであり、私の大好きな味覚です。
こちらは「レンコンのきんぴら(?)」、次の写真は「筍の土佐煮」。まさに家庭料理であり心温まる味わいです。
『もう恋なんてしない』は、基本的には同棲相手にフラれて未練タラタラの歌だと理解しているのですが、サビの部分の『もし君に1つだけ強がりを言えるのなら、もう恋なんてしないなんて、言わないよ絶対』。これが、わからない。結局、恋するの?しないの?どっちなの?

もちろん今回の失恋は時間が解決し、いずれ恋をすることは間違いないでしょうが、この歌詞を綴った瞬間は『もう恋なんてしない』と決意しているのかどうなのか、、、何度読み返してもしっくりこないのです。
「ブリかま煮」を大サイズで。冒頭に記した通り完全なるワンオペでありバラバラと注文すのは野暮というもの。特盛で注文してお手を煩わせないよう気を付ける必要があります。

「歌詞その部分だけに限って言うと、『もう恋なんてしない』という台詞が実現性のない振られた時の泣き言で、そういう泣き言はもう絶対に言わない、という決意表明(=強がり)を『君』に対してしているんではないでしょうか」のっけから難解な解説です。ますますしっくりこない。
やはり女将の手を煩わせないよう、焼酎をボトルで注文し、氷と水で勝手にやることにしましょう。

「つまり、次に振られたとしても、もう泣き言は言わないよ、という意味ですよ」全然つまってないじゃないか。『次に振られたとしても』って、次の恋愛ある前提?
本マグロのブツ。これは凄い、モノホンのマグロである。鉄分と脂質のバランスが見事であり、旨味がありつつも程よく舌先で溶けていく。

「恋するのは大前提でしょ」「恋はするものじゃなくて落ちるものだ」「そういうどこかのブログにでてきそうなセリフ慎んで」徐々に議論が発散してきました。
水ダコもフルポーションで注文。これも実にフレッシュであり、吸盤が舌に吸い付くほどです。とにかく噛み応えに溢れており、咀嚼回数が増えるにつれて満腹中枢も刺激されてきました。

「『もう恋なんてしない』と言わないことが強がり。その対偶として、強がりじゃないのは『もう恋なんてしない』と言うこと。つまり本心は『もう恋なんてしない』。結局は本当に本当に君が大好きだったからこそ、もう恋なんてしないなんて言わない、引きずらせない、ってその瞬間思ってるだけだから恋しないっていう決意じゃないですよ」
初カツオ。きらきらと輝く身質は実に健康的な味わい。

「何だよ対偶って。そんな単語聞いたのユゲロン(弓削教授の論理学。日吉のパンキョーの楽勝科目として一時代を築いた)ぶりだぞ」「いやだから、対偶とれば『もう恋なんてしない』=強がりじゃなく本心なんだけど、彼のことを思えば、強がりという限定もなく『もう恋なんてしない』なんていわないんですよ。歌詞一番だけじゃなく全部みれば自明」ぜんぜん自明じゃありません。
白子ポン酢。男の目の前に、まっしろしろのぴゅあっぴゅあな精巣がドカっと盛られるのは実にシュール。人生で最も白子を食べた夜でしょう。

「マッキーは聞き手にここまで考えさせるために議論の余地を残したんじゃないの?」「いや、奴はそこまで考えていない」「女の気持ちはわからんわ」「俺、生まれて初めて買ったのがあのアルバムなんだよね」「♪もし君に~ひ~とつだけ~強がりを言~えるのなら~、もう恋なんてしないなんて~♪」店の中だというのに憚らず歌い始める酔っ払い「♪今夜キミ~は僕のもの~♪」「いやお前それ曲違うから」「カラオケ行くか」「悪くない」
アンキモは売り切れとなったので、代打塩辛。それにしても女将おひとりでの運営にも関わらずこの料理のバリエーションの豊富さには舌を巻く。その場で火を入れる料理は意外と少なく事前の仕込みがモノを言う芸風です。

けっきょく結論は出ず。もちろん我々の飲み会の趣旨は、情報を提供したり集めたりするのが目的ではなく、ウィットを互いに披露して楽しむために集まっているので、この程度の緩やかな決着が心地良いのかもしれません。それにしても読者のどなたか、マッキーに繋がっている人いませんか?もうこうなったら直接本人にお伺いしたいところです。
お会計をお願いすると「〆のゴハンはいいの?」と、女将。夜も更け注文のペースも落ち着き、ファンサの濃度が高まってきたようです。「玄米を毎日お店で精米してから炊いているんだけど」と爽やかな押し売り。その白米は絶品。そこいらの高級和食のライスを凌駕するクオリティであり、大きくて暖かい羽毛布団をかけられたような気持ちになりました。

これだけ飲み食いしてお会計はひとり5,000円を切りました最高か。個人的には大好きなお店であり、近所にあれば週数回は通ってしまいたいレベルです。一方で、「店が狭い」「客が気を使わないといけないのが面倒」という声もあるので、そういうつもりで向かいましょう。開店直後にひとりでカウンターを訪れるのが得策かなあ。


食べログ グルメブログランキング

関連記事
和食は料理ジャンルとして突出して高いです。「飲んで食べて1万円ぐらいでオススメの和食ない?」みたいなことを聞かれると、1万円で良い和食なんてありませんよ、と答えるようにしているのですが、「お前は感覚がズレている」となぜか非難されるのが心外。ほんとだから。そんな中でもバランス良く感じたお店は下記の通りです。
黒木純さんの著作。「そんなのつくれねーよ」と突っ込みたくなる奇をてらったレシピ本とは異なり、家庭で食べる、誰でも知っている「おかず」に集中特化した読み応えのある本です。トウモロコシご飯の造り方も惜しみなく公開中。彼がここにまで至るストーリーが描かれたエッセイも魅力的。

関連ランキング:日本酒バー | 中野駅新井薬師前駅