TOMO(友)/ドバイ

中東でビジネスを手がける友人がタイミングを合わせてサウジアラビアからドバイへやって来てくれました。このあたりに住む日本人たちは、中東圏の国々をまるで日本の隣県ぐらいの感覚でフッ軽してくれます。
用意してくれたお店はドバイ、いや中東で最もと言って良いほど有名な和食店「TOMO(友)」。ピラミッドを意識した外観のホテル「ラッフルズ」の最上階です。「この店はドバイの街並みを一望できるんだよね。たぶんドバイでいちばん景色がいい」
仕事の調子はどうだ、と彼に聞く。「売れる理由はサッパリわからないんだけど、日本の製品は人気があるね、こっちでは」彼は素敵な苦笑いを浮かべて言う。「例えばカンドゥーラ(アラブ人が着る真っ白な民族衣装)。生地は圧倒的に日本製が人気。東洋紡の白なんてもう神話的なブランド価値がある。黒だと三菱レイヨンかなあ。こっちの人って色覚が日本人より鋭いのか、白色・黒色をより細分化して接している気がするんだよね」ちなみにこれら民族衣装は基本的にオーダーメイドであり、生地やデザインはもちろんのこと裏地にも拘っていたりと、日本人のスーツや着物のような存在のようです。
にぎりがやってきました。これが、旨い。いわゆる海外のなんちゃって鮨とはダンチであり、流線型のタネ、穏やかなシャリ、おしとやかな握りなど、どれをとっても日本と同等、いや、日本そのものです。ちなみに食材は基本的には豊洲市場からの空輸であり、たまに地元の魚も用いるとのことです。
「中東も変わったよ。サウジアラビアなんて厳格で有名だったのに、酒は飲むわ女の人は髪出して出歩くわで、昔に比べてずいぶんと緩くなった」この前はリャドでワイン会があったらしいです。
「ドバイの景気も悪くなったなあ。石油価格に左右されることは昔からあったけど、最近では付加価値税の導入が痛い。今までずっと無税でやってきたのに、いきなり可処分所得が減るんだもん、そりゃあ消費も冷え込むよ」私の偏見では、中東の人々はいくらでも石油が出てくるため毎年宝くじに当たり続けているような状況にあり、景気などとは無縁のライフスタイルだと思っていました。
「サウジアラビアは意外に平和だね。そもそも外国人がいないから(日本人ですら観光ビザが発行されない)、あまり悪さをする輩がいない。でも、イエメンからミサイルがしょっちゅう飛んでくるのは勘弁して欲しいなあ。一応、全部撃墜できていて国土に着弾はしていないみたいなんだけど」まるで夕立に降られたかのような口調で彼は語る。
「でも、そういうニュースをメディアが報道しないんだよね。別に隠しているってわけじゃないんだけど、国民がそういうことに無頓着な気がする。だからミサイルを撃たれても、不気味なくらい落ち着いてる。『着弾していないんだから、何も起こらなかったと同義でしょ?』みたいな感覚」
ハマグリの味噌汁(?)。一般的にハマグリはお澄ましで食べることが多いですが、なかなかどうして味噌汁で食べるのも悪くないです。そのハマグリがお雛様級の特大サイズで食べごたえ抜群。

「カタール外交危機は本当に痛い。カタール航空は安くて乗り心地良かったのに。エミレーツ航空に乗ったとしても大抵はガラ空きだったのに、断交以降は日本と中東を結ぶ路線はエミレーツ航空一強だから常に満席。値段も上がった」割を食うのはこっちで働いている俺たちなのに、彼は憎々しげに顔をしかめる。
いちご大幅が出てきました。イチゴはとちおとめ、あんこは地元の小豆を炊いたもの。お持ちは自家製。ここまで手の込んだ甘味を出す和食屋は日本でも少ないのに、それをアラブの地でやってのけるとは頭の下がる思いである。

「それにしても、ドバイ民のカタール嫌いは筋金入りだね。政治的なポーズとかじゃなくて、国民の末端レベルでカタールを憎んでいる。カタールの人たちは全然気にしていないってのが面白いところではあるんだけど」やはり近所の国は仲が悪くて当然なのだ。日韓・日中の関係に過度に心を痛める必要はない。
「会えて嬉しかったよ、この先の旅行も気をつけてね」彼は私の右手を固く握りしめ去っていく。気をつけるのは頭上をミサイルが飛んでいく生活をしている君の方だろうと思うのだけれど。


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