SaQuaNa(サカナ)/Honfleur(フランス)

セーヌ川河口にある小さな街オンフルール(Honfleur)。こんな田舎(失礼)にありながら月火水定休という強気の姿勢を保ち、それでいてミシュラン2ツ星を堅持するという奇跡のレストラン。
シェフのアレクサンドル・ブルダ(Alexandre Bourdas)は洞爺湖ウインザーホテルの「ミシェル・ブラス トーヤ ジャポン」のシェフとして腕をふるい、洞爺湖サミットでは総料理長も務めました。日本における経験と得意の料理から店名を「SaQuaNa(サカナ)」としたのでしょう。
連れは地元のリンゴ系の酒(シードルやカルヴァドスではない)、私はシャンパーニュのハーフボトルで乾杯。お酒の値付けが非常に安いのが素晴らしい。ビールはキリンで8ユーロ。グラスワインも10ユーロ強〜、ボトルのシャンパーニュも50ユーロ台〜です。
アミューズ。日本のテイストをチョイチョイ挟んでいます。焼きおにぎり(?)にイクラを乗せた一口はどこか懐かしい味。茶碗蒸しに天ぷらの衣をトッピングしたものも面白かった。
続いて Pascade(パスカード)。シェフの出身地アヴェロン地方の料理。そう、パリはオペラの「Pascade(パスカード)」は当店の系列なんですね。やや甘くて食事前には難しい場面もあるのですが、トリュフオイルの絶大な香りが食欲を取り戻してくれます。
パンはプレーンなバゲットなのですが、食事の邪魔をすることなく確実な味わい。塩気の強いバターや柑橘の風味ただようオリーブオイルも興味深い演者でした。
アンコウ 。店名に関するだけあって魚料理が抜群に旨い。甘味と弾力を最大限発揮する火入れであり、ココナッツ風味の出汁やパクチー、ライムの香りが妙に合う。
続いてはホワイト・アスパラガスと聞いていたのですが、外観が真っ赤で驚き。これはビーツのエキスを用いて彩りを与えているそうな。グレープフルーツの酸味とヤギのチーズの酸味も絶妙にマッチし、クミンの香りにも一本取られる。
サーモン、シメジ、フェンネル、キャベツ。さあ、これは全て日本でも手に入る食材です。なのにどうやったって異国の料理に化けてしまうのだから料理というものは面白い。鮭の火入れは均一で低温調理か。キャベツの味が抜群に濃く、ビネガー主体のクリームの味覚もグッド。
ラングスティーヌ(めっちゃ高いエビ)のリゾット。海老の旨さは説明不要。リゾットにはイカスミを用いており、加えて薫香やガーリックの香りも付与した食欲を掻き立てる味わいです。
唯一の肉料理はアヒル。こちらもアンコウどうようにオリエンタルな味付けであり、それでいて決して企画モノではなく根本的に美味なる料理です。タマネギやポレンタ(トウモロコシのお粥)の使い方もお見事。
せっかくなのでグラスの赤を頂きました。このクラスのお店でグラスワインが十数ユーロで頂けるのは嬉しい限り。
メインから流れを寸断するのではなく、続くやや重い料理でデクレッシェンドしていきます。たっぷりのチーズをトリュファード(Truffade。オーベルニュ地方の郷土料理。豚のラードを入れて、じゃがいも、ベーコンとトムチーズを入れて炒める)のように焼き付けた逸品。パセリを主軸としたハーブで味変していきます。そこらへんのスーパーでも売っている食材で抜群に旨い料理へと昇華させています。
チーズの付け合せとして山盛りのサラダ。シンプルな仕様ですが野菜の味が濃く実に旨い。ここのところ野菜不足が続いていたので個人的にテンアゲな瞬間です。
オレンジ風味のサブレにオレンジのソルベとプラムのペーストが詰め込まれています。素材の味を活かしたスイーツで悪くないのですが、クミン(?)のようなスパイシーな風味は余計。ここはこねくり回す必要はなかった。
デザート2皿目はミルクのゼリー(?)とバラの花びらに、チョコレートやキャラメルカスタードの濃い味系。美味しいのですが、料理のクリエイションに比べるとパンチが弱い。このお店の味覚は世界トップレベルに間違いないのですが、あえてケチをつけるとするとデザートが課題かもしれません。
小菓子はバリエーションは限られるもののボリューム感はたっぷり。とりわけカプチーノ仕立てのパフェ(?)が美味であり、「ドミニク・アンセル・ベーカリー」であれば1,000円近くで売れるレベルである。
参りました。この店は、凄い。少なくとも「ミシェル・ブラス トーヤ ジャポン」とは全く異なる店であり、シェフのクリエイションがビンビンに伝わって来るお店です。加えて飲んで食べて20,000円前後という奇跡。こういうお店がド田舎に存在するのがフランスという国の懐の深さでしょう。超オススメです。
ところで窓から外の広場を眺めると、修学旅行生の男子グループがダベっているのが見えます。そこへ花売りが近づいて行き、「いや、それは絶対に売るを相手間違っているだろう」と私はひとりごちるのですが、すると男子が躊躇なくバラを1本買うじゃありませんか。
どういうつもりだ、と事の成り行きを食い入るように見続けていると、たまたま通りかかった同じ学校の女の子にそのバラをプレゼントし、お礼にチューしてもらってました。私は何度生まれ変わってもフランスの男に勝てる気がしません。


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